古い布の組み合わせと、アイヌ文様刺​繍で絵を描く​梶かじ​静しず​江さん(88歳)。アイヌとしてのルーツに悩み、戦い、やがて出会った​布​絵。作品に込める思いや精神性を語っていただきました。(前編はこちらから
聞き手 村上里和

大地は、先生で神様で哲学者

——小さいころからやりたかったことと布絵が結び付いたんですね。そのあと夢中になって、いろんな作品作りに取り組まれました。

宇梶 古い布は「ボロ」という言葉がぴったりです。針を通すと破れてしまうボロ布でも、絵の素材になってくれました。みんな生き物っていうのは色彩を持っていますよね、人間でも動物でも。その色彩を出さなきゃいけない。たくさんの日本のボロくなった着物の中に色彩があります。その色彩をいただいて絵にするわけです。

“神に祈る”という意味のアイヌの儀式「カムイノミ」。宇梶さんは民族衣装を着ると先祖が自分に乗り移っているような喜びを感じるそう。

——いただいてるっていう思いで絵を作られるんですね。

宇梶 「いただく」という気持ちはいつもあります。例えば、春になると雪の中から、ふきのとうが顔を出してくる。雪が解けると行者にんにくだとか、いろんな野菜がパッと元気よく出てくる。またウグイが産卵するために川を上ってくる。それをみんないただく。そうやって野の中から助けていただき、川から助けていただき、私たち民族は生きてきました。

私は大地こそ、先生で神様で哲学者であると思います。誰が一息の空気を作れますか。誰が大地の中から芽を出してくれますか。これが神でなくて何なんですか。神様は見えないなんてうそですよって。神様は、大地、見えてるんだよって。そんな大地と語り、学んでいくことが大事なのではないでしょうか。

「古布絵を作っているときは、子ども時代の私と今の私が一緒に喜んでいるよう」(宇梶さん)

——語ることでどんなことが生み出されるんでしょう。

宇梶 文化です。そして生きる力です。いちばん大切なことは、自分を幸せにしようとする力です。そして人間同士、追い詰め合わない。今は何かあるとすぐに追い詰めるけれど、そこからいいものは生まれません。少し間違ったことがあっても、温かい目で見守るようにすれば、その人は次にはいいことをするかもしれません。

そしてこれからも後輩たちが、たくさんのきらめく文化を再現してくれることを、私は信じています。


※この記事は、2021年1月15日放送「ラジオ深夜便」の「今こそ、アイヌの心を伝えたい」を再構成したものです。
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宇梶 静江 (うかじ・しずえ)

1933 (昭和8)年、北海道浦河町生まれ。23歳で上京し、その後結婚。40歳で東京ウタリ会を立ち上げアイヌ民族の権利獲得の活動を行う。60歳を過ぎてから古布絵を始める。2011(平成23 )年、 古布絵作家としての活動が評価され吉川英治文化賞を受賞。2020(令和2)年『大地よ! アイヌの母神、宇梶静江自伝』(藤原書店)発刊。同年に後藤新平賞を受賞。長男は俳優の宇梶剛士さん。

構成/後藤直子 文/向川裕美
(月刊誌『ラジオ深夜便』2021年5月号より)

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