LGBTQをはじめとするセクシュアル・マイノリティーの存在を社会に広め、「“性”と“生”の多様性」を祝福するイベント「東京レインボープライド2022 プライドパレード&プライドフェスティバル」(TRP)が、4月22〜24日の3日間、代々木公園で開催。渋谷・原宿の街へのパレードをはじめ、「多様性」を表現するさまざまなイベントに約69,000人が参加しました。
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https://steranet.jp/articles/-/450

今回、LGBTQのトランスジェンダーである私(正木)が初めてこのイベントに参加し、その取材で、「東京レインボープライド」共同代表理事の杉山文野さんと2年ぶりの再会を果たしました。実は、杉山さんは、私に大きな「変化」をもたらしてくれた方でもあります。

 
杉山文野 (すぎやま ふみの)

特定非営利活動法人 東京レインボープライド 共同代表理事
2013年、東京レインボープライド(TRP)の前身である東京レインボーウィーク代表に就任。2015年NPO法人東京レインボープライドの設立を機に共同代表理事に就任。TRPの活動のほか、日本フェンシング協会やJOC理事も務める。日本初の渋谷区・同性パートナーシップ制度制定に関わり、現在は父として子育てにも奮闘中。

正木 3年ぶりとなった今回のイベント、どんな思いで開催されましたか?

杉山さん 今回は「つながる、見える、変わる」をテーマに掲げましたが、この2年間は本当につながり方が多様になってきたと感じます。オフラインを中心にイベントを開催してきましたが、コロナになってオンラインのイベントになったことで、これまでつながれなかった人たちとも、さまざまな形でつながることができるようになりました。その一方、なかなか「繋がり」を感じられずに孤独を感じている方がいる現実も見えてきて。今回、改めてこのイベントを開催するにあたり、「繋がり」を可視化し、現状を変えていきたいという思いをテーマに掲げました。


2年前  、私は自分がトランスジェンダーだということを受け入れてはいたものの、これからどうしていけばいいのか、不安でいっぱいの日々を過ごしていました。LGBTQやトランスジェンダーであることから目をそらし、現実から逃げていました。
そんなある日、「東京レインボープライド」共同代表理事のひとり、杉山文野さんとお話をさせていただく機会がありました。

杉山さんの知人であり、LGBTQと社会をつなぐ活動をされている松中ごんさんの講演が私の通う大学で開催され、講演後、当事者の方が集まる場に誘っていただいたのです。これまで当事者の方と話す機会が持てなかった私にとって、願っても無いチャンスでした。

しかし当時、自分のことで精いっぱいだった私は、LGBTQの知識をはじめ、日本の現状や法律がどうなっているのか、どんな人たちが活動しているのか、そして杉山さんがどのような方なのか全く知らない状況でした。

初めて杉山さんを見たとき、私は目を疑いました。私と同じトランスジェンダーであることは事前に聞いていましたが、お店に入ってきた杉山さんは声が低くひげも生えていて、胸の膨らみはなく生まれた体が私と同じ女性とは思えない外見でした。

自分も杉山さんのようになるにはどうしたらいいか、性別適合手術のことや家族へのカミングアウトなど、心のなかに渦まいていた悩みがあふれ出し、気づいたら杉山さんに思いの丈を打ち明けていました。

小さいころから自分の身体に違和感を覚えていた私は、自分らしく生きていける身体になりたいとずっと思っていました。また当時、私はつきあっていた恋人と結婚するために性別を変えたいという気持ちが優先的になっていました。戸籍上の性別が「男性」でなければ、結婚できない。ならば、早く性別を変えなければ……と。

そんな理由を聞いた杉山さんは、私にアドバイスをくださいました。

「誰かのために自分の身体を変えたいと思っているなら、よく考えたほうがいい。今つきあっている恋人と別れるようなことがあれば、身体を変えたことを後悔するかもしれない。結婚は、人生のゴールではないから。その先を見据えて自分自身と向き合ったとき、手術をして性別を変えるほうが、より自分らしく生きていけると思うのならば、そうすればいい」

周囲が歩んでいる“普通といわれる人生”に強い憧れを抱いていた私は、これから先の長い人生と身体を後回しにして、大きな決断をしようとしていたことが情けなく思いました。大人になるにつれ、先の人生への不安が広がり、小さいころから大事にしていた思いを見失っていたのです。

この杉山さんとの出会いをきっかけに、私はセクシュアルマイノリティーやLGBTQについて一から学ぶことにしました。いまの社会には、どのような問題や課題があるのか、どのような団体が活動をしているのかなど、学生生活を通して知見を広げていきました。

そして、私はカミングアウトをすることを選び、これまでの自分自身の体験を語ったり、セクシュアリティーについて自分の言葉で発信したりするなど、以前よりも自信を持って生活できるように変わっていきました。

杉山さんとの出会いを通して、今できることを懸命に取り組むことが将来につながる  そう信じる気持ちが大切なのだと学びました。まさに、今回のイベントのテーマである「繋がる、見える、変わる」が、私の人生のなかでリアルに起こっていたのです。

その後、杉山さんの言葉が私に多くのきっかけを与えてくれたように、私も自分らしい言葉で「変化」のきっかけを届けられるような役割を目指していきたいと考えるようになりました。表現活動を通して、これからどうしていきたいか、なりたい自分はどんなものか、理想の自分を探していきたいと。

そんな思いが通じてか、「東京レインボープライド 2022」の取材で、再び杉山さんと会う機会が訪れました。この活動に対する杉山さんの思いは、改めて行動し続けることの大切さを教えてくださいました。


正木 「東京レインボープライド」は、これからどんな活動を目指していきますか?

杉山さん 去年開催したオンラインのイベントには、総視聴者で約160万人もの方に参加いただきました。オンラインならではの工夫やアイデアにより、東京になかなか行けない方やベッドの上から出られない方、この会場に来ることでカミングアウトになってしまうのが怖いという方にも参加していただけました。だからこそ、このようなリアルな「見える」場所を作ることが大事だと考えています。今後も両方開催していくことで、「変化」が生み出せたらと思っています。


杉山さんのお話を聞いて私自身も大きな影響を受けたと同様に、たくさんの人の支えになっていることは間違いないことです。

これまでの活動で救われた人がいるように、これからの活動でも多くの人が救われ、またそれが次の世代につながり変化し続けていきます。全てのことには意味があり、少しずつ歩み続けることで、やがてそれらがつながり、未来に大きな変化が訪れます。一人ひとりの存在は、誰かにとって必ず影響力があるものだと私は信じています。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。