LGBTQをはじめとするセクシュアル・マイノリティーの存在を社会に広め、「“性”と“生”の多様性」を祝福するイベント「東京レインボープライド2022」が約2か月間にわたり開催された。

▼イベント概要はこちらから▼
https://steranet.jp/articles/-/450

東京・代々木公園で3年ぶりのリアル開催となった「プライドパレード&プライドフェスティバル」(4月22~24日)から始まり、その後、オンライン・オフライン共に多くのイベントが行われた。

「プライドパレード&プライドフェスティバル」の様子。

ことしのテーマとして掲げられたのは、「繋がる、見える、変わる」。そのテーマのとおり、今回の各イベントが点と点となってつながり、可視化され、ひとつの線となり、社会に大きな変化を起こしつつあることは間違いない。

この「東京レインボープライド2022」の締めくくりとして、6月25・26日の2日間、「LGBTQを取り巻く課題」の可視化を目的に、8つのテーマについて考える「プライドトークライブ」が開催された。
https://tokyorainbowpride.com/pride-talklive/
このトークライブのテーマのなかで、特に私が注目したのは、以下の​​​​​​4つのテーマである。

  • 「LGBTQと地域課題」
  • 「自分らしさとLGBTQ」
  • 「LGBTQと同性婚」
  • 「LGBTQと子育て」

今回の記事(前編)では、「LGBTQと地域課題」「自分らしさとLGBTQ」、この2つのテーマに関して取り上げたい。

トークライブのトップバッターを飾ったのは、「JAPAN PRIDE NETWORK」を通じてつながる全国各地のプライド代表者たちだ。「LGBTQと地域」のつながりに関してどのような課題があるのか。それぞれの地域の悩みや課題が伝わる良い機会になった。

「プライドトークライブ」に参加した、東京レインボープライド 共同代表理事・杉山文野さん(写真左)、女装パフォーマー・ブルボンヌさん(写真中央)、同共同代表理事・山田なつみさん。

6月15日、性的マイノリティーのカップルの関係を公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を導入する条例改正案が東京都で可決された。ことし11月1日から制度運用が開始されるという。同性婚(同性カップルの法的な結婚)が認められていない日本としては、大きな一歩ではないだろうか。
(パートナーシップ制度は、自治体ごとの条例であり、法的な結婚と同等のものではない。LGBTQカップルに対して証明書を交付し、法的な結婚に準ずる公的なサービスが受けられることを目指した制度)

一方、地方に目を向けると、まだまだ同性パートナーシップ制度の導入は少なく、地方によってはLGBTQという言葉さえ浸透していない現状にある。セクシュアリティーに対するそれぞれの課題があって、そこに向けた活動も異なっている。ただ、どの地域にも共通するのは、「自分たちは、いまここに存在していて、少しでも多くの人たちに知ってもらいたい」という思いだ。

特に私が注目したのは、札幌や金沢などでも東京同様のプライドパレードが行われているが、地元で開催されるパレードやイベントに参加するだけで、それ自体がカミングアウトになってしまうということ。

地方では、当事者が積極的に参加できるような活動がとても難しく、各地の代表は頭を悩ませていた。その傾向は、閉鎖的な地域であればあるほど顕著になるという。

私自身、茨城の小さな町の出身であり、トランスジェンダーであることをオープンにしている現在でも、当事者として地元で同様の活動に参加することは、少し抵抗を感じる。

1つの解決策は、LGBTQの人たちに寄り添い、支援する“アライ”を増やすことではないだろうか。それによって、当事者と非当事者の境界線を無くし、多くの人たちを巻き込むことができるように思う。

それは簡単なことではないが、代表の方たちは、地道に継続して活動することが今後につながると信じ、歩みを進めている。発信を続け、そして行動していかなければ、未来は変わらないと。地元のことを真剣に考えるその姿は、きっと多くの人の胸に響いたことだろう。

そんな各代表の熱い思いが、ネットを通して人と人をつなげ、誰かを動かし、何かを変える原動力になるのだろう。私は私なりの発信のしかたで、誰かの原動力になっていきたい。


次に、もう1つ私が取り上げたいテーマが、「自分らしさとLGBTQ」。 
トークライブでは、日本文学者でLGBTであることを公表しているロバート・キャンベルさんと、まだカミングアウトをしていない当事者がオンラインでつながり、ディスカッションを繰り広げた。

キャンベルさんの話し方は、スマートな言葉選びが印象的。他者の意見を尊重しつつ、自分の意見をわかりやすく相手に伝える。気がつけば、ついつい食い入るように話を聞いていた。

私も痛いほど感じた“カミングアウト”にまつわる問題、それぞれの当事者が抱える苦悩の数々――。共通する思いが予想以上に多いことに驚き、自分がカミングアウトして生きていくことを選んだことについて、改めて考えさせられる機会となった。         

このトークの中で、「隠せるマイノリティー」と「隠せないマイノリティー」という言葉が登場した。
私は、後者の「隠せないマイノリティー」である。LGBTQの「T」=トランスジェンダーであり、見た目の変化が大きいため、隠したくても隠せないのだ。

また、女子高出身ということもあり、過去を語ると、どうしても今の見た目との矛盾が生じてしまう。ゆえに、私は「隠さない」という選択をした。

そして、トランスジェンダーであることをオープンにして生きると決めた理由は、「自分自身で自分を認める」という考えによる。この思考が、私にきわめて大きな変化をもたらした。

ささいなきっかけで私はこの考えにたどりついたが、いま思えば、それは必然だったような気もする。良くも悪くも、私はそのきっかけのおかげで、自分らしく、ストレスなく生きていけるのだから。結果論ではあるが、私はカミングアウトを選んでよかったと思っている。

もちろん、カミングアウトしないほうがストレスなく生活できる人もいるし、環境によって選ぶことがあってもいいと思う。誰にだって人に言いたくないことがある。その中の1つに、自分のセクシュアリティーがある、ただそれだけのことなのだ。

カミングアウトという言葉の中身はそこまで大きなものではなく、人それぞれが持っている言葉の延長線であると思う。自分らしく生きることとカミングアウトは、=(イコール)ではなく、選択できるものであってほしい。

人は、全てを語らなくても仲良くなれるし、隠し事をしているからといって信用しないわけではない。伝えたいと思うことを、ただ伝えたい人に話す。信頼関係は、全てを打ち明けることではないと、このトークライブを通して学んだ。


オンラインイベントだからこそ聞くことができる、当事者が抱える本音や内なる願い。
人それぞれの意見や考え方が多様であるように、社会もその多様な考え方を受け入れる姿勢を見せていくべきだと私は思う。“カラフル”で多様な人たちが町にあふれ、互いを尊重して暮らす、そんな未来を目指して私たちは歩んでいこう。

この記事の「後編」では、テーマ「LGBTQと同性婚」「LGBTQと子育て」について考えてみたい。

1999年、茨城県生まれ。女子校出身のトランスジェンダー。当事者としての経験をもとに、理解ある社会の実現に向けて当事者から性に悩み戸惑う方、それを支えようとする方への考えを発信する活動に従事する。