9月1日からスタートした、プレミアムドラマ「団地のふたり」。

原作は、藤野千夜さんの同名小説。大学で非常勤講師を勤める“ノエチ”こと太田野枝(小泉今日子)と、最近仕事が少なめのイラストレーターの“なっちゃん”こと桜井奈津子(小林聡美)。団地で生まれた2人は保育園からの幼なじみで、若い頃はいろいろあったものの、今は生家である団地に戻っています。

55歳独身の2人の団地でののんびりとした日常と、そこで巻き起こる出来事について丁寧に描いた作品です。

本作の取材会がオンラインで行われ、小泉さんと小林さんが、さまざまな質問に答えてくれました。


子供の頃に見ていた世界を共有できるのはラッキー

――お二人が台本を読んで、物語に感じた魅力は?

小泉 同性のお友達同士のシスターフッド的なものは、いろんな世代で作られてきたと思いますが、この作品での55歳の親友っていうのは、それぞれ別の場所に行って、なんかいろんな経験をして、その上で戻ってきて、2人の時間がある。そこがちょっと違う味わいになっているなと思いました。

小林 団地という環境の中で、いろんな人が暮らしていて、その人たちの関わりというのがあったかくて、今の時代みんなが求めているような、ホッとできるような感じがします。そんな関係性が描かれているところが、作品の魅力の一つなのではないかなと思います。

――小泉さんと小林さんは、これまでにも共演経験がありますが、今回、幼なじみという役どころでの共演はいかがでしたか?

小林 大人ならではの無意識の気配りみたいなものをとっぱらって、楽な関係性でいられるのはいいですよね。

小泉 私たち、本当に同じ学年なんです。例えば歌の話が持ち上がった時、すぐパッて合わせられる幼なじみ感は、もともと持ってるかもしれないなって。それは、役を作って、台本をどう面白くしようかなというときに、ストレスなくできたことですよね。

小林 うんうん。

小泉 実際、出会ったのが16歳ぐらいだから、(今となっては)幼なじみに近いかもしれないです。16歳で初めて作品で出会って、そのあと20代、30代、40代、50代とちょっとずつ一緒にやった作品が増えていって……。

小林 10年ごとぐらいにね。

小林 仕事場で接して、小泉さんの生き様みたいなものに触れた時、もういい加減ではいられないわけです。でも、トホホなところもあって、そんなことに気づけるのも、長い間、ちょっとずつちょっとずつ仕事に一緒に取り組んできた中から感じられることであって。

小泉 小林さんは、いつでも、どんな時も、私を肯定してくれるんです。否定しないんです。それがどんなにうれしいか。

小林 私のほうも、小泉さんは「大丈夫だよ」って私の足りない部分を大きなところで支えてくれている感覚があって。私も「いいんだ、これで」と思える安心感があります。


同じ間取りにいろんな生活があるのは団地ならでは

――この作品は団地を舞台にしていて、友情や家族を描いたドラマでありながら、住民の高齢化など団地が抱える問題も描いています。そのあたりはどうお感じになりましたか?

小泉 毎回、いろんなキャラクターがゲストで出てくるんですけど、社会に通ずる問題がゲストによって絡んでくるという作りになっています。私が印象に残っているのは親の介護。自分もその経験をしてるので、その回はとても切実だなと思って撮影していました。

小林 ちょうど私たち世代は、高齢の親と向き合う世代でもあります。団地でロケをしていても、日曜日は子どもたちが遊んでいたりするけど、1人で買い物に行く高齢の方も多く、ベランダからその暮らしぶりが少し見えると、ちょっと心配になったりしました。

現実的にはちょっと渋い問題であっても、ドラマではハートウオーミングな感じで、みんなに届けられるような形になってるのかなと。

――ドラマでは団地の昭和レトロなインテリアや衣装なども見どころですね。

小泉 プロデューサーの八木康夫さんがセットにこだわりがあるそうで、そこはもうお任せしました。同じ間取りにいろんな生活があるのが“団地ならでは”で、すごく面白いかな。

ノエチとなっちゃんの家以外にも、ゲストの方のお家が出てきて、ものすごくおしゃれな部屋だったり、引っ越してきたばっかりで何にもないお部屋だったりと、同じ間取りだからこその面白さを楽しんでいただけると思います。

小林 なっちゃんの衣装って、50代の人の参考になるのかな? ジャージにワンピースにズボンはいてたりとか。すごくかわいくて、私は好きなファッションなんですけど。

小泉 なっちゃんは自由業だからスタイルが決まっていて。ノエチはそとづらがいいので、大学に行っている時はきちんとしたスーツを着て、団地の中ではボーイッシュにしようという話になって……。カレッジ系のTシャツとかは、みんなで話しながら決まっていった感じでした。

――今回の撮影で、改めて団地の良さを感じられましたか?

小林 ロケをさせていただいた団地は、みなさんが丁寧に手入れをされて、お住まいになっているんです。多分団地が建てられた当初からある木も幹が太く、いい木がたくさん生えていて。花壇もちゃんと手入れされてるし、住民が大事に住んでいるという、いい“気”が流れている団地でした。

小泉 気持ちよかったね。植物があれば、昆虫や小鳥がやってきて、鳴き声も全部聞こえて。夏になったらプールみたいなのがあって、子どもたちが水浴びとかしていて、なんか“一つの世界”という感じでしたね。あと、商店街が各方面にあって、お団子屋さんがおいしかったですね。


誰かのお手伝いができたり、架け橋になれたりすることに幸せを感じる

――小泉さんがドラマに寄せたコメントで、「団地に起こる少しだけの幸せの循環に心がほっとします」とありましたが、どんな場面で幸せの循環を感じられましたか?

小泉 ノエチとなっちゃんは、団地の中では割とまだ中堅みたいな場所にいて、ある人からは「若手」って言われています。先輩方を手助けできる世代であり、そこに若い人が入ってきた時には、若い人と先輩方をつなげてあげられる役割ができる世代です。

ノエチとなっちゃんは独身で子供もいないので、自分たちが世の中の役に立つことが少ないなと思っている中で、誰かのお手伝いができたり、架け橋になれたりすることに幸せを感じる。もちろん、された人たちもちょっと幸せになれる。それがこの物語の中で循環してるなと思ったんです。

私自身が幸せだなって思うのも、ノエチと同じで、この世界の中に生きていて、健康で、自分ができることを見つけられる。それが、自分にとっての幸せかなと思っています。

――ノエチとなっちゃんは、いろいろあってまた団地に出戻っていますが、同世代として2人の生き方をどう感じますか?

小泉 私、なっちゃんみたいな友達、いる気がする。自由業で、親が残したお家に住んでて、みたいな。出戻って実家で暮らしてる友達も、確かにいる。

小林 私はいないなぁ。

小泉 (出身の)厚木の方には結構いる(笑)。自然に受け入れられるので、全然特殊な感じがしない。だから、ノエチやなっちゃんを「いいな」と感じるというより、同じ気持ちでいいのかなって思ってる感じです。

小林 気のおけない友達がいるのはすごく安心だし。

小泉 いいな、というか共感できる。

――撮影中に見えてきた、それぞれが演じる役の人物像があれば教えてください。

小林 私は途中でわからなくなって……(笑)。

小泉 そうなんですよね。私も途中から目の前に起こっていることに反応しよう、みたいな気分になっていきました。2人でやり取りして、団地の住民たちと絡んでいくうちに、「どうでもええや」みたいな、もう、この中で生まれるノエチを楽しもう、みたいな。

小林 そうですね。視聴者の方に、導入部でこういう人なんだなって伝われば、多少のブレは多目に見ていただいて、はい。

――今回、ノエチの両親役の橋爪功さん、丘みつ子さん、団地の住民の由紀さおりさん、名取裕子さんなどベテラン俳優陣との共演はいかがでしたか?

小林 最近、どの現場に行っても、私たちがだいたい最年長だったりするので、今回は久々に後輩気分を楽しめました。

小泉 あと、ノエチのお兄さん役の杉本哲太さんや、ゲストで登場する仲村トオルさんは、実際に同級生だったりするので、4人で話していると同窓会的で、ちょっと胸がキュンとしました。先輩方もお元気でてきなんですよ、おしゃれだし。撮影の合間にいろんなお話をお伺いできて、本当に幸せでした。


自分が楽しいことだとか、信念とかあれば、それでいいのかな

――50代独身で実家暮らしとなると、現実世界では周囲からあれこれ言われてしまうシチュエーションだと思いますが、周りの目やプレッシャーにどうたいしたらいいと思いますか?

小泉 はねのける必要なく生きているのが、なっちゃんとノエチなのかな。ノエチは離婚して出戻っているので、多分その時に団地中に噂が広まって、1回洗礼は受けてるはずです。それから20年以上経って、今や静かな海って感じだけど、その海に至るまでのザワザワは経験してるのね。

小林 なっちゃんは結婚はしてないけど……周りが気になるってどういうことなんだろう?

小泉 普通に考えたら、「あの人って何の仕事してるんだろうね? スーツ着てるの見たことないよね」みたいなさ。そんな風に思われたりするわけじゃん?

小林 自分がそれでいいと思ってたら、別に気にならない。何か言ってるな、みたいな。

小泉 はねのけずに受け入れちゃえばいいんじゃない? このドラマの中で、私は大学教授じゃなくて、非常勤講師になってるんだけど、団地のおばちゃんたちに大学教授、大学教授って言われるんですよ。

何度「いやいや、私非常勤講師なんですよ」って言っても、おばちゃんたちは自分の聞きたいことしか聞こえてない感じで、ずっと大学教授って言われるんですけど、もうしょうがないなっていう感じで。

だから、何かを言われる以上に、自分が楽しいことだとか、信念とかあれば、それでいいのかなっていうところまで来ている55歳の2人っていう感じで描かれてます。

小林 それですね。自分が楽しいと思えることがあれば、別に周りの人にどう言われてもいいのではないでしょうか。

――ノエチとなっちゃんは、すごくシンプルな暮らしをしていますが、お2人は今後こういう暮らしをしていきたい、といったビジョンはありますか?

小泉 私は土をいじったり、土の上を歩いたりとか。ドラマでは55歳の役だけど、もう間もなく60歳だから、最初はこの役抵抗があったんだよね。

小林 役が若いから、私たちにはできません、みたいな。

小泉 そんな年齢なので、60歳以降、どんな暮らしかなっていうのを、絶賛、頭の中で考え中です。でもやっぱり、自然があるところに住むのもいいな、って考えてます。

小林 丘みつ子さんが、実際にそういうところにお住まいなんですけど、1人だと体力的に難しいんだなっていう現実もあったりして、そのへんをどうするかが今の問題です。

小泉 私は実家のほうに帰れば自然と暮らすことになるし、親戚もいっぱいいるから、そこはありなんじゃないかって考えてます。


――最後に、視聴者のみなさんへのコメントと、若い世代の人に注目してもらいたいポイントを教えてください。

小林 なっちゃんやノエチのように、20代、30代はそれなりに大変なことがあって、もがいたり悩んだりしても、50代になったらこんなに楽になっていた……みたいなことが待っているかもしれないですよ、と伝えたいです。


プレミアムドラマ「団地のふたり」(全10話)

毎週日曜 NHK BS/BSP4K 午後10:00~10:49ほか

【物語のあらすじ】
団地で生まれた幼なじみの野枝と奈津子。結婚したり羽振り良く仕事したり、若い頃は色々あったけれど、わけあって昭和な団地に戻ってきた。
小さな恥も誇りも、本気だった初恋のゆくえもお互いよく知っているから、今さらなにかを取りつくろう必要もない。一緒にご飯を食べてバカなことを言い合いながら、日々へこんだ心をぷーぷー膨らませている。
古くなった団地では、50代でも十分若手。子どもの頃から知っているおじちゃん・おばちゃんの家の網戸を張り替えてあげたり、昭和な品をネットで売ってあげたり。時代遅れの「ガラクタ」でも、どこかにいる誰かにとっては、きっと「宝物」。運よく高値で売れたら、その日のご飯はちょっとだけぜいたくにする。
一方、新たに越してくる住人たちもそれぞれにワケありで。助け合いながら、変わらないようで変わっていくコミュニティーがそこにある。
まったり、さらり、時々ほろり。幸せってなんだろう。今日もなんとか生きていく。

原作:藤野千夜
脚本:吉田紀子
音楽:澤田かおり
出演:小泉今日子、小林聡美 / 丘みつ子、由紀さおり、名取裕子、杉本哲太、塚本高史、ベンガル / 橋爪功ほか
[第3回ゲスト]仲村トオル、島かおり
[第4回ゲスト]ムロツヨシ
[第5回から登場]田辺桃子、前田旺志郎
[第7回ゲスト]眞島秀和、市毛良枝

制作統括:八木康夫(テレパック)、勝田夏子(NHK)
演出:松本佳奈/金澤友也(テレパック)
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