かつてはみなもとの倫子ともこ(黒木華)の女房として、次いで倫子の娘の中宮ちゅうぐう彰子あきこ(見上愛)の指南役として、二代にわたって仕えた赤染衛門あかぞめえもん。第36回では、まひろ(吉高由里子)とふじわらの道長みちなが(柄本佑)の関係に気づくことになったが……。

演じる凰稀かなめに、役柄や作品について聞いた。


まひろのことは、年下だけれども尊敬できる相手だと考えるようになりました

——赤染衛門は、まひろのことをどのように見ていたと思いますか?

2人が最初に出会ったのは第3回、倫子のサロンでへんつぎ(漢字の偏だけが書かれた札とつくりだけが書かれた札を組み合わせて、文字を完成させる遊び)をしていたときでした。

そのときのまひろを見て、すごい人と思ったんじゃないでしょうか。その後、いろいろな話をする中で、しっかりした考えを持っているし、赤染衛門にはない視点を持っていることもわかってきて、年下だけれども尊敬できる相手だと考えるにようになりました。いずれライバルになるだろう、という意識もあったと思います。

——藤壺にまひろが加わったときには、どう感じましたか?

嬉しかったです。赤染衛門は彰子の指南役で、まひろは物語を書く役割。立場は違いますけれども、一緒に彰子を盛り立てていこうという気持ちは同じですから。全然タイプが違うので、まひろに対するしっはなかったでしょうね。

まひろのすごいところは、長編の物語を書ける点です。赤染衛門がのちに『えい物語』を書いたとの説もあるようですが、この時点では歌人です。だから、まひろの才能に驚いたと思います。

——今回、まひろと道長の関係を察知しました。どんな気持ちでしたか?

この時代、まひろと道長のような関係は、よくあることだったじゃないですか。だから、悪いこととは思っていなかったでしょう。でも、倫子に傷ついてほしくないから、まひろに釘を刺したんだと思います。実際、倫子は少しずつ気づき始めていますから。でも、道長は全然わかってないんですよね。赤染衛門としては複雑な気持ちでした。


まひろが起きられなくて赤染衛門に注意されるシーンは、宝塚の寮のようで懐かしいなって(笑)

——出演のオファーがあった際には、どのようにお感じになりましたか?

お話をいただいたときは、すごく嬉しかったですね。宝塚歌劇団に所属していた頃からお世話になっている大石静先生の作品に出演できること、また、NHKの大河ドラマに出演できることを、とても嬉しく思いました。ただ、時間が経つにつれて、より実感が湧いてくるのと同時にプレッシャーが押し寄せてきて、怖くもなりました。

——宝塚歌劇団では、『あさきゆめみし』で初舞台を踏まれました。衣装や世界観など、平安時代には馴染みがおありですか?

あまり馴染みはないですね(笑)。ただ、今回の衣装と初舞台のときの衣装はよく似ています。初舞台のときは、新人ということもあって、すごく短い着物ではありましたけど。

私、宝塚での最後の公演のとき、光源氏に扮装している写真をパンフレットに載せてもらったんです。本当は最後の公演で光源氏を演じたいと思っていたんですが、実現できなくて、「じゃあ扮装だけでも」とお願いして撮ってもらいました。今回、光源氏の役ではありませんけど、『源氏物語』の作者を主人公にしたドラマに出演できたことには、不思議な縁を感じています。

——着物を着る際に工夫をしていることはありますか?

着付けに関しては、衣装部さんが素敵に仕上げてくださるので、すべてお任せしています。ただ、それをきれいに見せるためには、姿勢が大切だと思います。着物はけっこう重くて、姿勢を保つのが大変なんです。着物の重さで、知らず知らずのうちに前かがみに、猫背になってしまう。だから、肩甲骨を下げて、胸を張るということを常に意識しています。

——倫子のサロンを撮影しているときと、彰子のサロンとでは、雰囲気が違いますか?

違います。倫子のサロンのときは、まだ撮影が始まって間もないこともありましたし、私自身、指導役、先生として振る舞わなくちゃいけないという意識もあって、周りの方との会話は少なめでした。それが、彰子のサロンに移ってからは、お話をする機会がぐっと増えました。

吉高由里子さんが作り出す雰囲気が本当に素晴らしいです。みんなを和ませるというより、みんなが自然と和んでしまう空気を生み出すんです。だから、現場に笑いが絶えないし、みんなリラックスできています。でも、やるときはやる、集中するときは集中するっていう切り替えもできていて、素敵な現場だなと思います。

——女性が多い現場という点で、宝塚歌劇団と通じるものはありますか?

そうですね。サロンは女性ばかりで集団行動をする場なので、通じるものはあります。第33回では、まひろが朝、なかなか起きられなくて赤染衛門に注意されるシーンがありましたよね。あれはまさに宝塚のようだなと感じました。宝塚の寮も、起きたらすぐにキビキビと行動しなければいけない場所でしたから。懐かしいなって思いました(笑)。


「他の登場人物と一緒になって何かをやらない」ということを意識しています

——赤染衛門という人物には、どのような印象を持っていましたか?

赤染衛門って、古典文学のファンの方を除けば、それほど有名ではありませんよね。私自身も、周りの人も、「百人一首に歌が載っている人だよね」くらいの印象で、演出の方から「史料もあまり残っていないので、自由に演じてくださって結構です」と言われました。

演じていて感じるのは、赤染衛門は誰よりも人格者だったのではないかということです。彼女はどんな場面でも、絶対に他人の悪口を言いません。周りをよく見ているし、物事をきちんと受け止めて、自分の中でしゃくしてから、言葉を発しますよね。どうやって育てばこんな人になれるんだろう、と不思議なくらいで。

物事を深く考えて、思いやりを持って人と接していたから、素晴らしい歌を詠むことができたのではないでしょうか。きっと、スケールの大きい人だったんでしょうね。とても尊敬できる女性だと感じていますし、そんな素敵な方の役を演じることができて嬉しいです。彼女のような才能や資質、私も欲しいなって思いながら(笑)。

——どのように役作りを進めましたか?

倫子や彰子が主宰するサロンの指導役、先生という立場ですから、ある程度は威厳のある態度をとりつつ、いっぽうで女性としてのかわいらしさとか、人間味のあるところを少しずつ出していければいいなと思いました。指導者、先生という立場の方は、私の周りにもたくさんいらっしゃるので、そういった方々を参考にもしました。

特に気をつけているのは、所作の部分です。サロンでは、あくまでも先生ですから、教え子たちのようにリラックスした姿勢で座ったりはしません。声のトーンも、みんなより少し低めにしていますね。そうやって、他の登場人物とのちょっとした違いを出していけたらいいなと思っています。

みんながお菓子を食べたり、おしゃべりしたりしているときも、私は参加しないんです。「一緒になって何かをやらない」ということは、すごく意識しています。普段の私だったら、もちろん一緒にお菓子を食べますけどね。お菓子が大好きなので、いちばん初めに食べちゃうと思います。でも、今回の撮影では一度も食べていません。「いいな~」って思いながら見ています(笑)。

——周りは小柄な女性が多いですが、身長差は気になりますか?

気にしていないです。むしろ、「いちばん高く見えたらいいな」くらいの感覚です。堂々としているほうがいいのかなと思っていて。でも、女房の一人として、出しゃばりすぎず、脇に控えているように見える必要もあります。最初のうちは倫子さんのお隣にいることが多かったので、彼女を意識して振る舞うことで、少し控えめに見えるようにするなど工夫しました。


赤染衛門としては、自分こそが倫子のいちばんの味方だと思っている

——倫子について、どんなことを感じますか?

子どもを産んで、育てることを通じて、どんどん成長していると感じますね。女性としての強さも出てきていると思います。近くにいる赤染衛門には、それがよくわかるし、とても素敵な女性になってきたと感じています。

——赤染衛門と倫子の関係は変化しているでしょうか?

変化しています。年齢を重ねるうちに、お互いが空気のような存在になっていると思います。いるのが当たり前というか、若かった頃とは違う、独特の空気感になっているのではないでしょうか。赤染衛門としては、自分こそが倫子のいちばんの味方だと思っているはずです。

——黒木華さんとは、どんなお話をしますか?

撮影でご一緒する時間はあまり多くなくて、それほどお話はできていないんです。でも、話さなくてもわかるというか、倫子の思っていること、気遣いを、見ているだけで感じ取れるんです。お互いに気を遣うタイプだからかもしれませんけど、言葉を交わさなくても、いろいろなことを感じ取ることができて、それが演技に出ていると思います。

——彰子についてはいかがですか?

感情が少しずつ出てきて、表情も豊かになったのは嬉しいです。親心と言いますか……。まひろが来てくれたことによって、彰子はどんどん変わっていきました。彰子本人にとってよかったなという気持ちと、倫子にとってもよかったなという気持ちと、私には両方あります。