ふじわらの道長みちなが(柄本佑)の手配により、まひろ(吉高由里子)が物語を書く女房としてだいにあがってきた。そのことが、一条いちじょう天皇(塩野瑛久)に対する恋心を秘めた中宮ちゅうぐう彰子あきこに、大きな変化をもたらす……! 変わり始めた彰子の胸のうちについて、演じる見上愛に話を聞いた。


ひとりの人間として見てくれるまひろと出会ったことで、彰子も少しずつ変化してきた

——第33回で、彰子がまひろに対して、『源氏物語』を読みたいと言いました。

これまで自分の意思を表に出せなかった彰子ですけど、何も感じていなかったわけではなくて、自分の気持ちをどう表現したらいいのか、その方法がわからなかっただけだと思うんです。

確かに、ほかの女房たちも、彰子に気を遣ってよく尽くしてくれる。でも、それはあくまで「中宮様」としてのこと。でも、まひろだけは、ひとりの人間として彰子を見てくれていて……。まひろと出会ったことで、彰子も少しずつ変化してきたのではないでしょうか。

天皇に向かって率直に意見を言う姿とか、素晴すばらしい物語を書くこととか、その物語が天皇に認められる姿を見て、まひろにほかの女房たちとは違う何かを感じたのだと思います。

——彰子は、一条天皇のことをどう思っているのでしょうか?

内裏が火事になったとき、一条天皇が彰子を助けに来てくれますが、台本のト書きには「一条に手を引かれて、実はときめいている彰子」と書いてあったりします。たぶん、すごくキュンキュンしているんですよ(笑)。

一条天皇は彰子よりも8歳上ですから、すごく大人に見えたでしょうね。一条天皇は彰子に嫌われていると思い込んでいるみたいですけど、それでも会うと「変わりはないか」などと声をかけてくれて。年上の人が見せるスマートな優しさに心かれるところがあったと思います。

——まひろから聞かされた『源氏物語』の感想は?

最初はまったく面白さがわからなかったみたいです(笑)。でも、一条天皇が物語に惹かれているから、「どこに惹かれているのか私も知りたい」と思った。それで、まひろにいろいろと教えてもらったりしながら、だんだん理解ができるようになっていく。結果的に、彰子の人生を明るくしてくれる物語なのだろうと思います。


初めての大河ドラマは、行ったことのない世界で、毎日が楽しい

——初めての大河ドラマ出演ですが、オファーを受けたときの感想は?

びっくりしました。「本当に?」って感じで(笑)。わからないことだらけなので、とりあえず飛び込んでみようという気持ちでした。私は、放送を見てから撮影に入ることができたので、ドラマの雰囲気や、皆さんの演技の様子をある程度は知ることができて、そこはありがたかったです。

皆さん、怪物のようにお芝居が上手な方ばかりなので、私が失敗しても何とかしてくださると信じて、まずは怖がらずにやってみようと思っていました。

——実際に入られての感想は?

私が加わる前に、ずいぶん長い期間にわたって撮影は進んでいましたから、既に素晴すばらしいチームワークが出来上がっていました。共演者の皆さんもスタッフの皆さんも、良い雰囲気の方ばかりで、毎日一緒にお仕事ができることが楽しいです。いまは私も仲間入りできたかなって感覚があります。

——セットはいかがでしたか?

放送を見たときに実際の建物を借りて撮影していると思っていたので、「えっ、これセットだったんだ!?」って(笑)。「この木は本物ですか?」とか、あれこれ質問しながら観察して回りました。平安時代という、行ったことのない世界でお芝居をするのも楽しいですね。

——藤壺は華やかな雰囲気ですね。

私が読んだ資料には、すごく地味だったと書かれていたんですけど(笑)。でも、今回のドラマでは本当に華やかですね。育ちがよくて、頭がよくて、とても明るいお嬢さんたちが集まっている感じがします。


重い衣装で身動きがとりにくいけど、結果的に美しい動きを生み出している

——衣装はいかがですか?

入内じゅだいのシーンで着た衣装がいちばん重くて、20キロあるそうです。「フンッ」と力を入れないと立ち上がれないくらいの重みがありますね。映像を確認すると、身動きのとりにくさが結果的に美しい動きを生み出していて、面白いと思いました。

——彰子について、事前に何か調べられましたか?

宇治の平等院と、彰子のお墓があったとされる場所に行きました。宇治に行ったことで、平安時代のあれこれを想像しやすくなりましたね。もちろん平安時代そのままではないんですけど、町全体が昔の雰囲気を残していて、流れる空気感を含めて、すごく勉強になりました。

——平安時代についての印象は?

平安時代って、残っている文献も少ないですし、資料によって内容が食い違っていたりして、よくわからないことが多いですが、そこを想像で埋めていく楽しさがあります。時間の流れがゆったりしていますよね。着物が重いからゆっくり動くし、話し方もゆっくりで、結果的に時間の進み方もゆっくり感じられるんですね。

でも、現代と通じる部分も多いと思います。会社の中での出世競争は、宮中の駆け引きと似ていますよね。いまはさすがに11歳で結婚はしませんけど、お見合いは残っていたりします。結局、時代が変わっても、人間というのは変わらないんだなという気がします。


彰子は、いろんなことを考えすぎた結果、感情や言葉を出せなくなっている

——台本を読んで、彰子はどんな人物だと思いましたか?

最初のうちは、「はい」と「おおせのままに」くらいしか言わないですよね。ト書きには「〇〇と思っているが、表情には出さない」というような指示がたくさん出てくるんです。無口で、感情を顔に出さないキャラクターなんだなと理解しました(笑)。

私は感情が表に出やすいタイプなので、まず、その点に注意しようと思いました。彰子の反応のなさ、つれなさに相手があきれるシーンが多いので、本当に「何を考えているのかわからない人」と見えるように演じようと。

——実際に彰子を演じてみての感想は?

彰子の無反応ぶり、間の悪さに、周りの方が本当にやりにくそうで(笑)。私も内心、「わかるわ」と思ってるんですけど。現場に何とも言えない微妙な空気が漂っていて、私も気まずくなるくらいなんです。

こういった役を演じるのは初めてなので、新鮮ですし、とても楽しいんですが、正直なところ「これでいいのかな?」という不安もあります。でも、演出の皆さんがしっかりリードしてくださっているので、「これでいい」と思うことにします(笑)。

ただ、いただいた資料によると、彰子はやがて自分の意思を強く持つようになって、道長に反発したりもするそうなんです。だから、そういった資質を内に秘めているということも意識するようにしました。

撮影開始前に演出の皆さんと話し合って、「いろんなことを考えすぎた結果、感情や言葉を出せなくなっている」という方向性で演じることになりました。他人から自分が無表情に見えていることもわかっていない。親が自分のことで困っているらしい、とはわかっていて、何とかしようと努力はしているけど、うまくいかないという感じですね。

今後は、「考えすぎている何か」を、だんだん出せるようになっていくのかなって思っています。そのあたりの変化は楽しみだし、演じるのが難しそうだなとも感じています。


道長のことは信頼してはいるけど、恐れのようなものも抱いている

——彰子は道長の意のままに入内しますが、どのような気持ちだったと思いますか?

両親に言われた通りにすることが当たり前の環境で育っているので、特に疑問は持っていなかったでしょうね。「両親がそれでいいなら、私もそれでいい」という感覚だと思います。天皇との距離が近くなれば、お父さんの権力が強くなるって、なんとなく知っていたかもしれませんけど、まだ11歳ですからね。本当の意味では理解していなかったはずです。

——彰子にとって、父の道長はどんな存在なんでしょうか?

怖くて威厳のあるタイプの父親ではないけれど、絶対的な存在とは思っているはずです。母の倫子ともこ(黒木華)が道長を立てる様子を、たくさん見てきていますから。政治のことはよくわからないにしても、道長が大勢の人を従えている姿を見て、すごく力を持っていることは理解していたでしょう。

道長のことを信頼してはいたと思うのですが、同時に恐れのようなものも抱いていて、プレッシャーも感じていたのではないのでしょうか。

——彰子にとって、母の倫子はどんな存在なんでしょうか?

第27回で、庭の花を見たときに「わ~、きれい」って言うようにしなさいって、倫子が彰子に教えるシーンがありましたよね。彰子は話を聞こうとしているし、一生懸命やろうとはしているんです。倫子もそれをわかっている。でもギクシャクしてしまう。そういう、もどかしい親子関係なんですね。基本的に、お母さんのことは好きなんだと思います。

道長は、「内裏に上がれば、母や弟の(小林篤弘)らとも、気軽に会うことはできなくなる」と、彰子に念押しをしていました。彰子が母や弟、妹のことをすごく大事に思っていることは、道長もわかっていたんだと思います。

——吉高由里子さんと共演された印象はいかがですか?

すごい女優さんだなと思います。いつも笑顔があふれていて、人間的に素晴らしい方ですね。朝から晩まで撮影が続いて、セリフの量が非常に多いときでも、疲れた顔一つ見せないのは本当にすごいなと思います。向き合ってお芝居をしていると、一つひとつのセリフがすんなりとこちらに入ってきて、とても心を動かされます。

先輩ではなく、共演者であり仲間として接してくださいますし、誰にでも平等に接するところも素晴らしいと思います。


人間のイヤな面も描かれている台本がリアルで共感できる

——大石静さんの台本については、どのように感じますか?

大河ドラマというと、男の人がいくさをしているイメージが強かったんです。だから、恋愛要素があって、時間をかけて人物の繊細な内面や心の揺れを描くところが新鮮に感じました。

たくさんの登場人物がいるのに、物語を動かすためのコマ、主人公を彩るためのコマのような人はいないですよね。一人ひとりの人生、その人が大事にしているものがきちんと見えてきて、それが絡み合って物語になっていくところが面白いと思います。

何か事件が起きるときも、当事者のそれまでの人生や、どんな葛藤を抱えているかがきちんと描かれているので、すごく納得がいくし、キャラクターに共感できるんです。

まひろも道長も純粋でいい人なんだけど、ちょっとイヤな面もあって、そこもちゃんと描かれてるじゃないですか。人間って、やりたくないことを、やっちゃうよね、みたいな(笑)。そういうネガティブな面も垣間見えるところが、人間らしくて、リアルだなと思います。

——今回の出演でご自身が得たものはありますか?

終わってから自分が得たものに気づくことはあるかもしれませんけど、いまは目の前の演技に一生懸命だし、そこに集中したいと思っています。何かを得るということよりも、作品の中で自分がどう存在できるかということが重要な気がします。