NHK交響楽団(N響)が、夏休みの子どもたちにオーケストラの魅力をお届けする「夏だ!祭りだ!! N響ほっとコンサート」が、7月27日(土)、東京・渋谷のNHKホールで開かれました。

今年のテーマは「世界ぐるっと名曲の旅」。世界各国の名曲が披露されたほか、オーケストラの楽器の演奏体験ができる「楽器体験工房」も行われ、子どもも大人も楽しめるコンサートになりました。松井治伸による観覧記です。


「ポケモン・ファンファーレ」で来場者をお迎え

クラシックの名曲で世界をめぐる!

会場のNHKホールには、小中学生や保護者を中心に多くの観客が詰めかけました。

来場したみなさんをお迎えしたのが「ポケモン・ファンファーレ」。このコンサートのために、ゲーム『ポケットモンスター』シリーズの音楽をアレンジしたものです。元気いっぱいのファンファーレで開場です(なぜN響のコンサートにポケモンなのか? それは、このリポートの後半で詳しくお伝えします)。

「世界ぐるっと名曲の旅」、まずはアメリカから。1988年のソウル五輪の際に書かれたジョン・ウィリアムズ作曲「オリンピック・スピリット」です。ちょうどパリ五輪も始まったばかり。オリンピックイヤーにふさわしい華やかな曲で、コンサートは幕を開けました。

指揮者:クリスティーナ・ポスカさん

続いては、バルト三国のひとつエストニアから、エッレル作曲「マイ・ホームランド」。しみじみとした懐かしさを感じさせる曲です。

この日の指揮者クリスティーナ・ポスカさんは、エストニアの出身。この曲はエストニアでは第2の国歌のように親しまれているそうで、ポスカさんは「この曲を聴くと祖国への深い愛情が沸いてくる」と語ってくださいました。


オーケストラのWhy!?を解き明かすコーナーも

厚切りジェイソンさん

コンサートのナビゲーターは、IT企業役員にしてタレントの厚切りジェイソンさん。ジェイソンさんと言えば、「Why Japanese people!?(なぜなんだ日本人!?)」と叫ぶネタでおなじみですね。

この日もジェイソンさん、率直な「Why!?」で、オーケストラの楽器の魅力やうんちくを引き出していきます。打楽器パートの紹介でいろいろな打楽器が紹介されると、

「あれ? 打楽器の『打』は『打つ=たたく』と言う意味ですよね。でも、たたかない打楽器もあるじゃありませんか!」(厚切りジェイソン)

そうなんです。たたかない打楽器もあるんですね。たとえば、「振る」ことでピョヨヨ~ンという音を出す「フレクサトーン」、「こする」ことでジャカジャカという音を出す「ギロ」、さらに、「息を吹き込んで」鳥の鳴き声を出す「鳥笛」まで、打楽器は実に多種多様。打楽器奏者全員で鳥笛を披露してもらいましたが、会場内で本当に鳥がさえずっているようで、大きな拍手が湧きました。

打楽器奏者全員で「鳥笛」を披露

オーケストラのWhy!?のあとは、まさにオーケストラの楽器が次々と活躍する曲です。イギリスから、ブリテン作曲「青少年の管弦楽入門」。冒頭の重々しいテーマが、楽器ごとに多彩に変奏されてゆき、最後は大きく盛り上がります。N響の楽員も腕の見せ所。色彩感と迫力に満ちた演奏から、オーケストラの楽器の魅力が存分に伝わってきました。 


まだまだ続く、世界をめぐる名曲の旅。観客も手拍子で参加

写真中央が、イ・ヒョクさん

コンサートも後半。次は北欧ノルウェーです。グリーグ作曲「ピアノ協奏曲から第1楽章」。ピアノソロは、韓国出身、ことし24歳のイ・ヒョクさん。今大注目の若手ピアニストです。みずみずしいイ・ヒョクさんのピアノが叙情的なメロディを奏でると、北欧のムードが会場内に広がりました。

続いては、オーストリアは音楽の都ウィーンから。ヨハン・シュトラウスI世作曲「ラデツキー行進曲」。この曲、観客が手拍子で参加するのが恒例です。そこで、コンサートマスターの“マロさん”こと篠崎史紀さんの指導で手拍子の練習です。

両手をいっぱいに広げてたたく大きなものから、指2本だけの小さなものまで、曲調に合わせたいろいろな手拍子とN響の演奏とが一体となって、アットホームな雰囲気が生まれました。

コンサートマスター 篠崎史紀さんの指導で手拍子の練習

コンサートも大詰め。イタリアからは、切ないメロディーが胸を打つ、マスカーニ作曲「歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲」。オリンピック開催地のフランスからは、ビゼー作曲「『アルルの女』から『ファランドール』」で圧倒的なクライマックスを築いたあと、アンコールは日本に帰ってきました! 外山雄三作曲「『管弦楽のためのラプソディ』から『八木節』」。日本の夏にふさわしいにぎやかな祭りの音楽でコンサートは締めくくられました。


大人気!「楽器体験工房」オーケストラの楽器を見て、さわって、音も出せる

今回の「N響ほっとコンサート」では、NHKホールのロビーで「楽器体験工房」も開かれました。キャッチフレーズは「オーケストラの楽器を、見て、さわって、音を出してみよう!」。観客は誰でも参加OK。一人一人に、N響の楽員をはじめインストラクターがついて、丁寧に教えてくれます。

滅多にない機会だけに、会場には大勢の人たちが詰めかけました。まずは楽器の持ち方から。構え方や指の位置などを教わって、いよいよ音を出すことに挑戦です。とはいえ、なかなか思うように音は出せないもの。

それでも、コツを教えてもらってきれいな音が出せたときは、「やったー」という笑顔がこぼれます。うれしいですよね。初めてさわった楽器であれば、なおさらです。参加者のうれしそうな表情を見て、指導しているN響の楽員も「そうそう」「うまいうまい」と、笑顔で声をかけていました。

何でも、小学生のころにこの「楽器体験工房」に参加して指導してもらったというN響楽員もいるそうです。この日の子どもたちの中から、将来のN響メンバーが生まれるかもしれません。


N響とポケモンによる子どもたちへの支援もご紹介

N響は音楽を通じて、さまざまな社会貢献活動を展開しています。そのひとつが「N響メンバーによるポケモンミニコンサート」です。これは、NHK交響楽団と株式会社ポケモンが、被災地をはじめ全国各地の子どもたちに音楽をお届けする取り組みで、2022年12月からこれまで全国11の市や町で開催してきました。

道の駅や小学校などにN響のメンバーが出向き、小編成のアンサンブルで、ポケモンのゲーム音楽やクラシックの名曲をお送りしています。コンサートにはピカチュウや地域それぞれのしポケモンたちも登場。子どもたちはポケモンに大喝采を送るとともに、クラシックの名曲にも真剣に聴き入るそうです。

今回の「ほっとコンサート」では、これまでの取り組みを会場のロビーでパネルでご紹介し、ピカチュウとの記念撮影も行われました。

これからもN響メンバーがポケモンたちとともに全国各地の身近な場所にお邪魔する予定です。

N響メンバーによるポケモンミニコンサートの様子は、こちらからご覧いただけます (ステラnetを離れ、YouTubeチャンネル「ポケモン Kids TV」に移ります)

©2024 Pokémon. ©1995-2024 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc.
ポケットモンスター・ポケモン・Pokémonは任天堂・クリーチャーズ・ゲームフリークの登録商標です。


音楽は人と人とのふれあいをつくる

この日会場に行って、「音楽は人と人とのふれあいをつくる」ということを実感しました。名曲を素晴らしい演奏でお届けすること、楽器体験で音楽を奏でる喜びを伝えること、ミニコンサートで子どもたちを支援すること、どれもが、音楽を通したふれあいです。

終演後の観客のみなさんの笑顔を見ていると、そうしたふれあいが温かなものを運んできてくれたように感じました。素敵な夏の思い出となったコンサートでした。

(左から、特別コンサートマスター:篠崎史紀さん(マロさん)、指揮:クリスティーナ・ポスカさん、ピアノ:イ・ヒョクさん、ナビゲーター:厚切りジェイソンさん)

(文/NHK財団 展開・広報事業部 松井治伸)


この「夏だ!祭りだ!! N響ほっとコンサート~世界ぐるっと名曲の旅~」の模様は、Eテレで放送予定です。
【放送予定】
「クラシック音楽館」
9月15日(日) Eテレ 午後9:00~

NHK番組公式サイトはこちら

夏だ!祭りだ!! N響ほっとコンサート~世界ぐるっと名曲の旅~

2024年7月27日(土)NHKホール
指揮:クリスティーナ・ポスカ
ピアノ:イ・ヒョク
ナビゲーター:厚切りジェイソン

【演奏曲】
ジョン・ウィリアムズ「オリンピック・スピリット」(アメリカ)
エッレル「マイ・ホームランド」(エストニア)
ブリテン「青少年の管弦楽入門」(イギリス)
グリーグ「ピアノ協奏曲 イ短調―第1楽章」(ノルウェー)
J. シュトラウスI世「ラデツキー行進曲」(オーストリア)
マスカーニ「歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』間奏曲」(イタリア)
ビゼー「『アルルの女』組曲 第2番―『ファランドール』」(フランス)
(アンコール)外山雄三「『管弦楽のためのラプソディ』―『八木節』」(日本)