3月7日に東京オペラシティー コンサートホール(東京・西新宿)で「N響大河ドラマ&名曲コンサート」が開催されました。昨年に引き続き、2回目となります。NHK大河ドラマのオープニングを彩ってきたテーマ曲の数々を演奏するのは、大河ドラマのテーマ曲演奏のほとんどを受け持ってきたNHK交響楽団(N響)。いわば“本家本元”によるコンサートです。NHK財団N響担当の松井治伸による観覧リポートです。

大河ファンの指揮者・広上淳一さんがタクトをふるう!
コンサート当日、東京オペラシティコンサートホールは、お友達同士の若い方や年配のご夫婦など、幅広い世代の観客で会場は満席でした。
幕開きは、2021年の「青天を衝け」(作曲 佐藤直紀)。新1万円札の肖像にもなった実業家・渋沢栄一の物語。テーマ曲は、主人公・栄一が抱いた意気軒高とした気分や、明日への希望を感じさせる、すがすがしいものです。

この日の指揮は、広上淳一さん。広上さんは、大河ドラマの大ファンで、第2作の「赤穂浪士」(1964年)から見始めたとのこと。大石内蔵助役の長谷川一夫さんの「おのおのがた」というセリフや、芥川也寸志さん作曲のテーマ曲を、子どもながらはっきりと覚えているそうです。
コンサートでは、広上さんがこれまで録音で指揮をした中から、2曲披露されました。
まずは「軍師官兵衛」(2014年/作曲 菅野祐悟)。弦楽器が奏でる悲しみを帯びたメロディーは、天下を狙いながらも果たせなかった主人公・黒田官兵衛の見果てぬ夢のようです。
もう1曲は「麒麟が来る」(2020年/作曲 ジョン・グラム)。打楽器による迫力のあるリズムに乗せて、勇壮なテーマが登場します。途中、切ないムードも漂い、無念の死をとげた主人公・明智光秀の姿が重なります。

特別ゲストの高橋英樹さんが登場!
ここで、大河ドラマといえば、やはりこの方。俳優の高橋英樹さんが特別ゲストとして登場しました。高橋さんは、これまで9本の大河ドラマに出演しています。
高橋さんの大河ドラマデビューは、1968年「竜馬がゆく」の武市半平太役でした。「時代劇俳優としての出発点になった。」という思い出の作品です。
武市半平太は物語途中で切腹して死ぬのですが、高橋さんの人気の高まりとともに、「殺さないでくれ」と視聴者から多くの「助命嘆願」がNHKに寄せられたそうです。
高橋さんは「みなさんの助命嘆願のおかげで、4週間、放送では長生きできましたが、その間の出番は、ずっと牢獄のシーンでした。」と、会場の笑いを誘っていました。

コンサートでは、高橋さんが島津久光役を演じた1990年の「翔ぶが如く」、久光の兄・島津斉彬役を演じた2008年の「篤姫」のテーマ曲が演奏されました。ちなみに、大河ドラマで斉彬、久光兄弟をどちらも演じたのは、高橋さんだけです。
西郷隆盛と大久保利通の二人の生き様が交錯する「翔ぶが如く」(作曲・一柳慧)は、起伏にとんだ緊迫感あふれる音楽。
一方、将軍・徳川家定の正室、天璋院篤姫の生涯を描いた「篤姫」(作曲・吉俣良)は、優しく気品に満ちたメロディーが心に残る作品。
同じ幕末維新が舞台でも、物語のテーマによって対照的な内容が印象に残りました。

昨年他界した作曲家・湯浅譲二さんの名曲を演奏
続いては、昨年亡くなった作曲家、湯浅譲二さんの手になる3作品が演奏されました。
湯浅さんは、戦後日本を代表する作曲家の一人です。精緻な技法を駆使した密度の濃い作品の数々を残しています。
まずは「元禄太平記」(1975年)。泰平の世を思わせる雅なテーマに、突然、拍子木を伴った激しいリズムが、赤穂浪士の討入りのように衝撃を与えます。
続く「草燃える」(1979年)は、野を渡る風のような爽快なテーマが印象的です。主人公・源頼朝と北条政子が切り開いた新時代の息吹を感じさせます。
そして「徳川慶喜」(1998年)。気高い雰囲気が漂うメロディーには、「最後の将軍」徳川慶喜が、次の時代へと託した思いも込められているようです。
ドラマの内容に即した三者三様の見事な音楽。湯浅さんのプロ中のプロの腕の冴えに唸らされました。

続くは、2016年の「真田丸」(作曲・服部隆之 ※隆の字は、「生」の上に横棒が入る旧字体)。この日は、オリジナルの録音と同様、三浦文彰さんがバイオリンソロを務めました。
三浦さんは「この曲のソロパートは戦に向かう主人公・真田信繁そのものだと思います。作曲の服部さんから、土臭く弾いてほしい、と言われたので、音色も含めて荒々しさを出しました。」と話してくださいました。
その言葉通り、三浦さんの迫力満点の演奏に、会場は大いに沸きました。

そして、コンサート前半の締めくくりは、今年の「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」。ここで、作曲者のジョン・グラムさんが舞台に登壇しました。
ジョンさんは「蔦重がまわりを巻き込んでいくように、チェロが歌い出したテーマがオーケストラの中に広がっていきます。長く泰平の世が続いた江戸のきらめきも込められています。」とテーマ曲の意図を話してくださいました。

大河ドラマにちなんだ、「川」と「河」にゆかりのある名曲も登場
コンサート後半は、大河ドラマにちなんで、「川」「河」ゆかりの名曲が披露されました。
最初は、バッハのバイオリン協奏曲第1番です。実は、バッハ(Bach)はドイツ語で「小川」のこと。バイオリンの三浦文彰さんとN響による芳醇な響きが会場に広がります。
そして、バッハと同い歳のヘンデルによる「水上の音楽」、お馴染みヨハン・シュトラウス2世の「美しく青きドナウ」が続き、最後は、アメリカの作曲家グロフェの組曲「ミシシッピ」から「マルディ・グラ」。ミシシッピ河口の街ニューオリンズのパレードの賑わいを描いたアメリカンテイストのノリノリの曲です。
バッハ=小川で始まった「川」「河」にちなんだ名曲。最後はまさに大河のようなクライマックスとなって、コンサートは締めくくられました。

NHKオンデマンドで、過去の名作大河を配信中
今年で2回目になる「N響大河ドラマ&名曲コンサート」ですが、今年もその素晴らしさを堪能しました。広上淳一さんの練達のタクトのもと、本家本元のN響が見事な演奏を聴かせてくれました。
それぞれの長さは「2分半」と決して長くはありませんが、一流の作曲家が腕によりをかけて作り上げただけあって、多彩な音楽世界は「小宇宙」と呼ぶにふさわしいものです。そうした綺羅星のようなテーマ曲を、生のフルオーケストラで聴く醍醐味もまた格別。テレビとは臨場感がまるで違います。このほかのテーマ曲もN響の演奏で聴いてみたいと思いました。

コンサート会場のロビーでは、NHKオンデマンドの紹介コーナーも設けられました。いつでもどこでもNHKの名作を見ることのできるNHKオンデマンド。大河ドラマの名作も配信中です。テーマ曲とともに、もう一度見てみたい名場面にも出会えることでしょう。
NHKオンデマンドはこちら ※ステラnetを離れます
BSP4Kと総合テレビでも放送予定!
この「大河ドラマ&名曲コンサート」は、3月30日(日)午後3:30からBSP4Kで、また、5月には総合テレビで放送予定です。
※放送日時・内容は都合によって変更されることがあります。

(文/NHK財団 展開・広報事業部 松井治伸)
「N響大河ドラマ&名曲コンサート」
2025年3月7日(金)東京オペラシティコンサートホール(東京・西新宿)
指揮:広上淳一 バイオリン:三浦文彰
特別ゲスト:高橋英樹 司会:田添菜穂子
管弦楽:NHK交響楽団
青天を衝け(2021/佐藤直紀) 軍師官兵衛(2014/菅野祐悟)
麒麟がくる(2020/ジョン・グラム) 翔ぶが如く(1990/一柳 慧)
篤姫(2008/吉俣 良) 元禄太平記(1975/湯浅譲二)
草燃える(1979/湯浅譲二) 徳川慶喜(1998/湯浅譲二)
真田丸(2016/服部隆之 ※隆の字は、「生」の上に横棒が入る旧字体)*
べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜(2025/ジョン・グラム)
[第2部 「河」「川」にちなんだクラシック名曲選]
バッハ/バイオリン協奏曲 第1番 イ短調 BWV1041*
ヘンデル(ハーティ編)/組曲「水上の音楽」から 第1, 3, 4, 6曲
ヨハン・シュトラウスII世/ワルツ「美しく青きドナウ」 作品314
グロフェ/組曲「ミシシッピ」から「マルディ・グラ」
*印は、三浦文彰さんがソリストを担当した楽曲。