総合テレビ、日曜夜8時といえば「大河ドラマ」。その冒頭を彩ってきたのが、一流の作曲家の手になる華麗なテーマ曲の数々です。3月9日、そうした大河ドラマのテーマ曲をお送りする「N響大河ドラマ&名曲コンサート」が開かれました。演奏は、大河ドラマのテーマ曲演奏のほとんどを受け持ってきたNHK交響楽団(N響)。いわば“本家本元”によるコンサート。「NHKラジオ深夜便」の松井治伸アンカーが観覧してきました。
コンサートは、3月9日(土)に東京・池袋の東京芸術劇場で開かれました。家族連れやお友達同士など多くの観客で会場は満席。オープニングは、1978年の「黄金の日日」(作曲・池辺晋一郎)でした。主人公の貿易商・助左が活躍した南海の大海原が見えるような雄大なテーマをN響が奏でると、会場はたちまち大河ドラマのムード一色に。
続いては、昨年放送された「どうする家康」(作曲・稲本響)。途中に手拍子も加わる明るい曲です。聞き覚えがあるからか、曲が始まると「うん、うん」とうなずく観客の姿も。3曲目の「春の坂道」(1971年/作曲・三善晃)は一転、独奏チェロのモノローグに、たたみ込むようなテーマと、緊迫感に満ちた音楽。主人公の将軍家剣術指南役・柳生宗矩の求道精神を思わせます。
ここで、大河ドラマといえばこの方、多くの作品に出演されてきた俳優の高橋英樹さんが特別ゲストとして登場しました。高橋さんは1968年に「竜馬がゆく」の武市半平太役で大河初出演。1973年の「国盗り物語」では織田信長役を演じました。高橋さんは、「国盗り物語」の時のことを、
「同じ世代のライバルの役者さんたちとの共演だったので、リハーサルでもお互いに手の内を見せないんです。そこで、本番で相手がどう出るかを想定して5通りくらいの演技プランを用意したものです。物語は戦国時代が舞台でしたが、役者も闘いでしたね。緊張感がありました」
と振り返り、当時の思い出を披露。ちなみに収録の時にはスタジオにテーマ曲を流していたそうで、「テーマ曲を聴くとイメージが共有できて、現場の雰囲気が引き締まった」とのこと。
そして、前半が野性的、後半が雄大でロマンチックな音楽である「国盗り物語」(作曲・林光)のテーマ曲が奏でられました。
続くは、幕末に活躍した軍略家・大村益次郎が主人公の「花神」(1977年/作曲・林光)。新しい時代の到来を思わせるおおらかなメロディが心に残ります。日系2世・天羽賢治の悲劇を描いた「山河燃ゆ」(1984年/作曲・林光)は、舞台となった戦前戦後の激動の時代を反映したような躍動的な音楽。映画や放送の音楽に名作を残した作曲家・林光の楽曲は、物語の世界を彷彿とさせる素晴らしいものでした。
続いて檀上に登場したゲストは、大河ドラマの音楽を手掛けた作曲家の坂田晃一さん。
「作曲の際は、“ながら”でテレビをつけている方も耳にしただけで『あ、大河が始まった』とわかってもらえるような、印象的なフレーズや響きで始めるように工夫しました。目=アイキャッチならぬ、耳=イヤーキャッチ、ですね」
作曲の時に意識していたことを話してくれた坂田さん。コンサートでは、秀吉の妻・ねねの生涯を描いた「おんな太閤記」(1981年/作曲・坂田晃一)と、地域医療に情熱を注いだ高原未希が主人公の「いのち」(1986年/作曲・坂田晃一)が披露されましたが、桜の花びらが舞い散るようなはかなさを秘めた「おんな太閤記」、しっとりとしたメロディーが心にしみる「いのち」と、いずれも坂田さんらしいメロディアスな作品に、会場の観客も酔いしれていました。
前半の最後は、ソロ楽器をフィーチャーした作品が2曲。まずは、2016年の「真田丸」(作曲・服部隆之 ※隆の字は、「生」の上に横棒が入る旧字体)。バイオリン独奏は、オリジナルの録音でもソリストをつとめた三浦文彰さん。いきなりバイオリンソロで始まるこの曲、主人公・真田信繁の情念が乗り移ったかのようなメロディーが印象的です。
そして、今年の「光る君へ」(作曲・冬野ユミ)。こちらは鈴木慎崇さんの独奏ピアノが華やかに活躍する、平安絵巻さながらの作品。2曲のコンチェルトを続けて聴いたかのようで、ソリストの素晴らしい演奏も相まって、会場は大いに沸きました。
コンサート後半は、大河ドラマにちなんで、「川」や「河」にまつわる名曲の数々が披露されました。
最初は、ヴィヴァルディの『四季』から、小川のせせらぎが描かれた『春』。三浦文彰さんとN響が奏でる弦楽合奏の優雅な響きに会場が満たされました。続いて、スメタナの交響詩『モルダウ』に、ヨハン・シュトラウス2世の『美しく青きドナウ』。キンボー・イシイさんの熱のこもった指揮にこたえて、N響が華麗かつ細やかな表情を織り交ぜながら、名曲を堪能させてくれました。
そして最後、アンコール曲として、能登半島地震の被災地の復興を願って、『利家とまつ』のエンディング曲「永久の愛」(2002年/作曲・渡辺俊幸)が演奏され、深い祈りを込めた音楽でコンサートは締めくくられました。
会場で聴いて感じたことは、やはり大河ドラマのテーマ曲は、生のフルオーケストラで聴くのが一番だということです。当然のことですが、テレビで見る(聴く)のとは迫力が全然違います。華麗でダイナミックな響き、繊細な表情、変幻自在な色彩感、巧みな構成など、作曲家が腕によりをかけて作ったことがひしひしと伝わってくるのです。まさに「2分半の小宇宙」。ドラマの内容を凝縮し、「見てみたい」気持ちにさせる、その手腕のすごさとそれぞれの個性を存分に味わうことができました。本家本元のN響の演奏の素晴らしさは言うまでもありません。まさに、大きな河の流れに乗るように、名作の数々を堪能した2時間でした。
なお、この「大河ドラマ&名曲コンサート」は、近日、N響のYouTubeチャンネルで公開の予定です。
(展開・広報事業部 松井治伸)
「N響大河ドラマ&名曲コンサート」
2024年3月9日(土) 東京芸術劇場(東京・池袋)
指揮:キンボー・イシイ ヴァイオリン:三浦文彰
特別ゲスト:高橋英樹 ゲスト:坂田晃一 ナビゲーター:山田美也子
管弦楽:NHK交響楽団
[第1部 大河ドラマ編]
黄金の日日(1978/池辺晋一郎) どうする家康(2023/稲本 響)
春の坂道(1971/三善 晃) 国盗り物語(1973/林 光) 花神(1977/林 光)
山河燃ゆ(1984/林光) おんな太閤記(1981/坂田晃一) いのち(1986/坂田晃一)
真田丸(2016/服部隆之)* 光る君へ(2024/冬野ユミ)
[第2部 「河」「川」にちなんだクラシック名曲選]
ヴィヴァルディ/「四季」─「春」* スメタナ/交響詩「モルダウ」
J. シュトラウスⅡ世/ワルツ「美しく青きドナウ」
*印は、三浦文彰さんがソリストを担当した楽曲。