NHK交響楽団(N響)が、定期公演のプログラムの中から選りすぐりの聴きどころをお届けする「N響ウェルカム・コンサート」が、9月5日、東京・渋谷のNHKホールで開かれました。

オーケストラは初めてという方から、長年N響の演奏を聴いているという方まで、誰もが楽しめるコンサートになりました。松井治伸による観覧記です。


演奏活動の中心となる「定期公演」から「いいとこどり」のコンサート

コンサートの開幕を飾ったのが、スッペ作曲喜歌劇「けいへい」序曲。運動会でもお馴染なじみの有名な作品です。輝かしいファンファーレに、馬が駆け回るような軽快な音楽。華やかなオーケストラの世界にようこそ!

今回の曲目は、N響の定期公演の曲目の中から選ばれました。定期公演は、プロのオーケストラにとって活動の中心となる大切な演奏会です。

N響の定期公演は、通常、9月から翌年6月までにA・B・Cの3つのプログラムがあり、それぞれ9回、各2日ずつ、年間合計54公演開かれます(2024年~'25年は計52公演)。世界的な指揮者やソリストたちと繰り広げる定期公演は、どれも聴きごたえのあるものばかりです(この記事で紹介する各曲の演奏予定は、文末の一覧をご参照ください)。

「ウェルカム・コンサート」は、そうした定期公演のいわば「いいとこどり」。初心者から通の方まで、どなたも「ウェルカム」で、オーケストラとN響の魅力をお届けするコンサートです。


生のオーケストラの魅力を肌で感じてほしい

指揮者の下野竜也さん

この日の指揮は、N響正指揮者の下野竜也さん。下野さんは、2025年2月の定期公演Cプログラムで、先ほどの「軽騎兵」序曲をはじめ、スッペやオッフェンバックのオペレッタの名曲を披露することになっています。

下野さんが初めてN響の生演奏を聴いたのは、中学1年生の時。地元・鹿児島のホールのこけら落としでした。その時の感動は今でも忘れられないと言います。「特に若い人には、ぜひ会場で、生のオーケストラの息遣いや空気感を直接味わってほしい」と、下野さんは話してくださいました。

オーケストラの魅力を話す指揮者の下野竜也さん(写真右)と、ナビゲーターの大林奈津子さん(写真左)。

2曲目は、ドビュッシー作曲「イベリア」から「祭りの朝」。タンブリンやカスタネットも加わって、イベリア=スペインの祭りの朝の雰囲気が描かれます。浮き立つようなリズムに、クラリネットの上機嫌なメロディー。聴いているだけで、スペインに行った気分になります。


2つの交響曲の「第2楽章」

マーラーの「巨人」第2楽章では、ホルンが楽器を上に向けて演奏!

続くは、シューマン作曲交響曲第1番「春」の第2楽章。そして、マーラー作曲交響曲第1番「巨人」の第2楽章から。

シューマンは、「春」というタイトルそのものの、ゆったりとした穏やかな音楽。弦楽器の美しい響きに、オーボエをはじめ木管楽器が彩りを添え、優しさに満ちた世界が広がります。

かたやマーラーは、躍動感にあふれたダイナミックな音楽。途中、ホルンや木管楽器が楽器を上に向けて力いっぱい演奏する(作曲したマーラーの指示です!)ところは、見た目にも迫力満点です。


オーケストラのかなめ「コンサートマスター」

N響第1コンサートマスターの郷古廉さん(写真右)。

ここで、この日のコンサートマスターのごうすなおさんが話をしてくださいました。郷古さんは、今年4月にN響の第1コンサートマスターに就任。30歳を過ぎたばかりで、重責を担っています。

「来年はヨーロッパ公演も予定されています。また2026年はN響創立100年の節目の年。これまで以上に『熱い』N響にご期待下さい」と抱負を語ってくださいました。


ソリストの至芸を楽しめるのも定期公演の魅力

チェロ独奏はN響首席チェロ奏者の辻󠄀本玲さん。

続いて、N響首席チェロ奏者の辻󠄀本玲さんがソリストとして登場。曲は、チャイコフスキー作曲「ロココ風の主題による変奏曲」。この日は、全曲の中から第6、第7変奏が演奏されました。

第6変奏では独奏チェロが甘く切ないメロディーを歌います。続く第7変奏では、一転、独奏チェロが超絶技巧を発揮して目まぐるしく駆け回り、終わると同時に盛大な拍手が沸きました。

(ウェルカムコンサートでの辻本さんの演奏はこちら👇 N響公式YouTubeチャンネル ※ステラnetを離れます)


定番の名曲から隠れた名作まで 多彩な曲目が

定番の名曲はもちろん、クラシック通でも初めて聴くと言う「隠れた名作」を楽しめるのも定期公演の魅力です。

プロコフィエフ作曲バレエ音楽「石の花」結婚組曲から「結婚の歌」も、隠れた名作の一つです。N響も演奏するのが初めてというこの曲、ロシア民謡風の優しいメロディーで、とても親しみやすい作品でした。

定番の名曲からは、ブラームス作曲交響曲第4番から第3楽章。ブラームス最後の交響曲となったこの曲、ブラームス自身も「自作の中で最も好きだ」と語った名作で、晩秋の風情が漂います。その中にあって、第3楽章は強弱の対比が激しいダイナミックな音楽になっています。

そして最後は、ムソルグスキー作曲(ラヴェル編曲)組曲「展覧会の絵」から「バーバ・ヤガーの小屋」「キエフの大門」です。野性味あふれる「バーバ・ヤガーの小屋」、壮麗極まりない「キエフの大門」。「オーケストラの魔術師」と呼ばれたラヴェルが編曲しただけあって、オーケストラの醍醐味を味わい尽くす、けんらん豪華な幕切れとなりました。


アフタートークではN響楽員の素顔をご紹介

N響メンバーによるアフタートーク。写真左から、指揮者・下野竜也さん、N響ホルン奏者・勝俣泰さん、N響首席ホルン奏者・今井仁志さん、N響首席オーボエ奏者・𠮷村結実さん、N響チェロ奏者・中実穂さん、司会/N響トロンボーン奏者・池上亘さん。

演奏終了後、ステージでは特別企画「N響メンバーによるアフタートーク」も開催されました。N響楽員の素顔をご紹介しようというこの企画、今年初めてとなります。

司会は、池上亘さん(トロンボーン)。出演は、𠮷村結実さん(オーボエ)、今井仁志さん(ホルン)、勝俣泰さん(ホルン)、なか実穂みほさん(チェロ)。指揮者の下野竜也さんも飛び入り参加して、3つのテーマでお話は進行しました。

Q1. 本番と練習日(リハーサル)の間に1日だけ休みがあったら何をしていますか?

みなさん、やっぱり練習するとのこと。練習日と言っても練習する場ではなく出来上がった状態で臨まないとだめなので、練習初日の前の日は一番緊張するそうです。

Q2. まとまった休みが取れたら何をしますか、あるいは、したいですか?

「トーストの美味おいしい純喫茶に行く」「旅に出る」という答えが。日常から離れることが大事ということは、みなさん共通していました。

Q3. もし音楽家になっていなかったら、何になっていたと思いますか?

「公務員」「野球選手」「庭師」と、いろいろな仕事が。「歌が好きだったので、歌手?」と、結局音楽家になってしまった答えも飛び出しました。

普段も練習を欠かさず、常にコンディションに気を配る「プロ魂」と、飾らない人柄が感じられた、楽しいアフタートークでした。N響ホームページでも、楽員のみなさんのプロフィールをご紹介しています。

N響楽員のプロフィールはこちら  ※ステラnetを離れます

終演後のひとこま。写真左から、ナビゲーター・大林奈津子さん、今井仁志さん、𠮷村結実さん、中実穂さん、下野竜也さん、勝俣泰さん、池上亘さん。


「N響YouTubeチャンネル」でも公開

名曲のエッセンスがギュッと詰まった「N響ウェルカム・コンサート」、とにかく手っ取り早くオーケストラの名曲を楽しみたいと言う方にはうってつけです。

コンサートの模様は、N響公式YouTubeチャンネル※ステラnetを離れます)で公開されています。まずはそこでお気に入りの曲を見つけて、定期公演に足を運んでみてはいかがでしょう。

N響はいつでも「ウェルカム!」です。

(文/NHK財団 展開・広報事業部 松井治伸)


N響ウェルカム・コンサート

開催日:2024年9月5日
会場:NHKホール
指揮:下野竜也
チェロ:辻󠄀本玲(N響首席チェロ奏者)
ナビゲーター:大林奈津子

【演奏曲】
スッペ/喜歌劇「軽騎兵」序曲から(2025年2月Cプログラム)
ドビュッシー/「イベリア」―「祭りの朝」(2024年11月Aプログラム)
シューマン/交響曲 第1番「春」― 第2楽章(2025年2月Bプログラム)
マーラー/交響曲 第1番「巨人」― 第2楽章から(2025年6月Cプログラム)
チャイコフスキー/「ロココの主題による変奏曲」― 第6、第7変奏 (2024年9月Cプログラム)
プロコフィエフ/バレエ音楽「石の花」結婚組曲 ―「結婚の歌」(2024年11月Bプログラム)
ブラームス/交響曲 第4番 ― 第3楽章(2024年10月Aプログラム)
ムソルグスキー(ラヴェル編)/組曲「展覧会の絵」 ―「バーバ・ヤガーの小屋」「キエフの大門」(2024年12月Bプログラム)