いちじょう天皇(塩野瑛久)は、亡きさだ(高畑充希)との思い出にふけり、中宮あき(見上愛)との関係を深めずにいた。悩むふじわらの道長みちなが(柄本佑)に、公任きんとうは『まくらのそう』を越える物語を書ける作家として、まひろ(吉高由里子)の名を挙げる。演じる町田啓太に、役柄と道長との関係の変化について聞いた。


道長はどんどん先に行っていて、もう背中が小さくしか見えない

——第30回のラストシーンで、公任から「おもしろい物語を書く女がいる」と聞かされた道長が、まひろを訪ねてきました。

台本を読んだときに、「おお~」と思いました。「来た、来た、来た!」みたいな(笑)。きっと視聴者の皆さんも、同じ気持ちになったのではないでしょうか。

公任の妻・とし(柳生みゆ)が主催している学びの会に、まひろが和歌の先生として参加していたことで、道長とまひろを再び結びつけることになるのですが、当然、それは“あの物語”につながるわけで……。間接的ではありますが、そのきっかけに公任が関わっていたことになるんですよね。

学びの会は妻が行っていることですが、「やってみたら?」と言ったのは公任だろうし、うれしそうに語っているから応援していたと思うんです。敏子は天皇家の血筋を継いでいますし、もしかしたら夫婦して文芸の話題で盛り上がっていたかもしれない。それが“歴史的な小説”の誕生を後押ししたのかも……、と想像をふくらませています(笑)。

史実では、敏子は道兼みちかね(玉置玲央)の養女なんですよね。ドラマでは描かれませんでしたが、公任と道兼は仲がよかったんだろうね、と玲央さんとも話をしていました。

 

——道長と公任の関係性がずいぶん変わりましたね。

道長の存在が大きすぎるんです。公任は、まつりごとでは道長のほうが上に立つ人間だと感じとって、自分は芸術の分野に精を出したいと考えるようになった。ある意味、自分のことをちゃんとかんして見ているんですよね。

もちろん、公任の出世欲がなくなったわけではなく、100パーセント諦めているわけでもありません。関白だった父(頼忠よりただ/橋爪淳)から譲り受けた気構えもあるでしょうし、参議という重要なポジションにいているのは、能力があることの証明でしょう。それでも、後ろ盾であった父を亡くしたり、道長の行動などを見たりして、考えることがあったんでしょうね。

第22回で、伊周これちか(三浦翔平)が大宰府だざいふに向かわず、病床の母・たか(板谷由夏)に会いに来たとき、検非違使けびいし別当べっとうだった公任は伊周の面会を許しました。本来は規律を守り礼儀作法を重んじる公任の、情の部分が垣間かいまられたシーンでしたが、それは道長の姿を見てきた影響が多分にあると思います。「人としての判断をした」ということなんでしょうね。

第25回では、道長が一条天皇に進退をかけて直言する場面に公任もいたのですが、「道長にはかなわぬ」ということを、まざまざと見せつけられたシーンでした。帝に対して、そこまで言うのか!ということを何度もくぎを刺していて……。

おそらく、そこまでのことは公任にはできない。「ほどほどのところで切り上げたほうがいい」「もうちょっと違う言い方で伝えるようにしよう」と、えんきょくな方法を探ると思うんです。でも、道長には、相手のことを考えてストレートに物を言う潔さと信念があるんですよね。この時代においてすごいことだと思います。

道長はどんどん先に行っていて、気づいたときにはもう背中が小さくしか見えない。これから、もっとそうなっていくんでしょうし、それをどう公任が見ていくのか、大石静さんが書かれた台本を読んで、それを体現できるのを楽しみにしています。


出世の遅かった公任は、ひとりだけ衣装が変わらず、寂しい気持ちに(笑)

——平安時代の衣装には慣れましたか?

長い時間、身に着けているので、衣装には馴染なじんできたと思います。でも、公任は出世が遅かったんですよね。道長をはじめ、周りの人の衣装がかなり変わっても、「なんだか、僕だけ変わらないな」という期間が長くて……(笑)。ちょっぴり悲しいというか、寂しい気持ちになっていました。

一方で、公任は才能にあふれた、設定が“盛り盛り”な人なので、大変なんですよ。漢詩や和歌、書、乗馬に加えて、りゅうてきを披露するシーンもあったりして。龍笛もただ吹くだけじゃなく、自信満々ですばらしい演奏を披露しなくちゃいけない……。プレッシャーしかないですが、息苦しい感じでやっても仕方ないので、できるだけすました顔をしながら、どうにかこうにかやっております。

——時を重ねて、演技を変えた部分はありますか?

お芝居をするうえで技術的に変えたことはありません。やっぱり「積み重ね」だと思うんです。役も年齢も、積み重ねがあってその状態に行きつくものなので……。だから、物語内で公任が経験してきたことを、自分のなかにしっかりと落とし込む作業を、より深くやらなくては、と思っています。

あとは「関係性」ですね。道長や、斉信ただのぶ(金田哲)、行成ゆきなり(渡辺大知)、そして周りの人たちも少しずつ変化しています。その変わり様をちゃんと感じれば、自ずと演じ方も変わっていくんじゃないかなと考えており、そこを丁寧にやっていきたいです。また、見た目の部分では、ひげも生えたので、違う印象に感じていただけるかもしれませんね。

――斉信とは、道長とはまた違う関係なのでしょうか?

そうですね。言いたい放題、本音で話せる関係というのは、心を許していないと成立しないので、互いに認め合っていると思います。もともと親戚ですし、幼なじみですから、斉信がどう思っているか、ある程度わかるし、お互いを特にめたりしないのは、「同級生あるある」じゃないでしょうか。

ドラマの中では、2人の出世争いも描かれていますけれど、もしかしたら公任は平気な顔をしながら、陰で泣いていたかもしれませんね(笑)。でも、みんながいる中で、2人でボソボソしゃべっていたりするし、結局、仲はいいんだと思います。


“町田欲”としては、「花子とアン」以来、久々に吉高由里子さんとお芝居をできたらいいなと

——一条天皇について、どのような感想をお持ちですか?

一条天皇は、史実でも数々の功績を残されていて、若くしてすごく才覚のある方だと思います。ちょっと定子様に“首ったけ”なところもありましたが……(笑)。でも、そこが人間くさくていいな、と思いますね。『枕草子』に熱中してしまうところなど、根の優しさの表われでしょう。

定子様との思い出は忘れられないし、民のことも考えなくてはいけないし、その狭間で自分の良心と戦っているような葛藤を感じます。視聴者の皆さんも、その揺れを感じられているでしょうし、僕らも道長と一条天皇との駆け引きは今後どうなるんだろう?と興味をそそられています。

——一条天皇役の塩野瑛久さんは、同じ劇団の仲間ですね。

塩野くんとは、仲よくやらせてもらっています。きょうも一緒のシーンの撮影でしたが、わいない話ばかりしているので、(柄本)佑くんも「あれ? なんだか、お茶会しに来た気分になっちゃった」と言っていました(笑)。みんなで集まるシーンだと、つい和気あいあいとした空気になりますね。塩野くん自身が優しい人なので、一条天皇にも投影されているんでしょう。

――塩野さんは「御簾みすのせいで孤独だ」と話していたので、和気あいあいと聞いて安心しました(笑)。

塩野くん自身はどうなのか、わからないですよ。心の御簾は垂れているかもしれない(笑)。コミュニケーション好きなはずなんですが、周りに相当気を遣っていて……。

これだけ先輩たちに囲まれて、僕も彼のポジションにいたらビビりますよ。一人だけ高い位置にいて、ぜんと物申さなくちゃいけないですし。でも、逆に言うと、その緊張感がいいふうに役に反映されて、より魅力的な一条帝を、自分自身と重ね合わせて作られているんじゃないかなと思います。

――公任は「ごん」(一条天皇の時代に活躍した公任、斉信、行成、みなもとの俊賢としかた)の中でいちばんの長生きです。今後の展開で期待されていることは?

まだ僕は、まひろとの絡みが1回もないんですよ。若かりしころのきゅうの後のシーンでは、壁の向こう側にまひろがいることを知らずに“品定め”していただけなので。

だから、連続テレビ小説「花子とアン」以来、久々に吉高由里子さんとお芝居をできたらいいなと思っています。それは公任としてではなく、“町田欲”なんですけど(笑)。まひろがいよいよ物語を書き始め、それが今後どんな広がりを見せるのか、公任がどう関わっていくのか、興味が尽きないですね。

そして、公任は道長をどう見つめていくのか。古くからの友にしかできない会話が増えてくるかもしれないし、一方で、立場に差が生まれると話せることも少なくなるので、そんな状況でも本音は聞けるのかな?と、道長とのシーンにいろいろ想像が膨らんでいます。公任自身もどのように変化していくのか、台本を楽しみに待っています。