新潟地家裁・三条支部の支部長兼判事として赴任したとも(伊藤沙莉)の前に現れた、地元の弁護士・杉田太郎。温かく歓迎してくれたかと思いきや、一筋縄ではいかない人物で、寅子は赴任早々、杉田との付き合い方に悩まされることに。しかし第17週のラストでは、そんな“くせもの”の杉田が、実は大切な家族を戦争で失って、心に大きな痛みを抱えていたことがわかりました。

太郎を演じるのは、ご自身も三条市出身の高橋克実さん。ドラマへの思いや、地元のPRにかける意気込みを、高橋さんに伺いました。


太郎は太郎なりのやり方で、町の平和を守ってきた

――ドラマの前半をご覧になって、感想はいかがですか?

僕はこれまで、ほとんどの朝ドラを見てきたのですが、その中でも「虎に翼」は印象的です。主人公の存在が強烈で、きつけられるんです。ついつい見入ってしまって、朝から力が入りますよね。(伊藤)沙莉さんとは、まだ彼女が小さい頃から一緒に仕事をしてきましたので、どこか親戚のおじさんみたいな気持ちになっていることがあります(笑)。あの独特の笑い声は、昔も今も変わりません。撮影現場に着いて、あの笑い声が聞こえてくると、「あ、沙莉がいるな」ってすぐわかりますから。

小さい頃から演技が達者でしたが、最近は迫力も出てきた気がするんです。それに、集中力がすごい。膨大なシーンに出ているのに、全然セリフを間違えないですからね。小柄な彼女ですが、画面が沙莉で埋め尽くされているように感じることがあって、「ああ、主役だなあ」って勝手に感慨深く見ています(笑)。

――高橋さんが演じる杉田太郎は、三条に赴任した寅子を表面的には歓迎します。本心ではどう思っていたのでしょうか?

太郎は全く歓迎していなかったと思います。「女性の支部長だなんてふざけんな」くらいの感じですよね。あの時代、地方では男尊女卑の度合いが、都会とはケタ違いのレベルだったはずです。

だから、岡田将生くんが演じる星航一にはこびを売るけれども、寅子に対してそんなことをするつもりはない。寅子の食事の世話をしてあげたのも、親切心ではなくて、要するに抱え込もうとしていたからなので。

太郎としては、地元の自分たちのやり方に合わせてほしいだけでしょう。そうやって自分たちの町を守っている感覚なんじゃないかな。「あなたたち判事は、数年経ったらいなくなるでしょう? でも、私たちはずっとこの町で生きていなくちゃいけない。だから、こっちのルールに合わせて、余計なことはしないでくださいね」って。

それなのに、真っすぐすぎるくらいの寅子が来たもんだから、「あー、めんどくせえ」となるのが正直な気持ちだと思います(笑)。

――若い頃の太郎は、もっと理想に燃えていたと思いますか?

いや、最初から高い志はなかったんじゃないでしょうか。寅子を見て昔の自分を思い出すとかは一切ない。そもそも理想を抱いていたわけじゃないですから。山林の境界をめぐる調停を、裏で根回しをして終わらせたことを、自分の手柄みたいに言いますよね(第79回)。それは、根回しを悪いこととは思っていなくて、太郎にとっては日常的なことなんだと思うんです。

実際、当時は、それでうまく行っていた面があったのかもしれないですよね。波風を立てても、誰も喜ばない。僕、「持ちつ持たれつ」というセリフを何回言ったかわかりません(笑)。そうやって、太郎なりのやり方で、町の平和を守ってきた自負もあるんだと思います。

――そんな太郎も、寅子の影響を受けて少し変化したようにも感じられました。来週の第18週では、放火の疑いをかけられ、差別的な目で見られている朝鮮籍の青年を、太郎が弁護するというストーリーのようですが……。

どちらかといえば、太郎も差別をする側、あるいは差別を見過ごす側の人間なんだろうと思います。でも、この裁判を通じて、これまでには見えなかった太郎の一面が見えてくると思います。

ただ、そうは言っても、古い教育を受けて、偏見だらけの社会で生きてきた人間ですからね。根本的に変わるのは難しいのかなという気もしています……。少なくとも、現段階では。


全国の皆さんに、三条弁を覚えていただけたら嬉しい

――第17週のラストで、太郎は1945年の長岡空襲で、娘と孫娘を亡くしていることがわかりました。

たぶん、太郎の娘は結婚して長岡で暮らしていたんでしょう。しかも太郎は、2年前に奥さんも亡くして、一人暮らしをしている。台本を読んだとき、かなり過酷な境遇だと思いました。

空襲で多くの市井の人たちが犠牲になる……歴史的な事実として知ってはいても、実際には全く想像もつかないことです。そこで家族を亡くすという悲劇に直面した人を演じるのは、想像するしかできない人間にとっては、やっぱり難しいものがあります。理解しようと努めても、当然、難しいことばかりです。これはもう自分なりの向き合い方で演じるしかないと思ってやっています。

ただ、長岡空襲については、親父から話を聞いたことがあります。当時、親父は長岡にある軍需工場で働いていたのですが、その日はたまたま休みで三条の実家に戻っていて、偶然ですが助かりました。

親父はあまり戦争の話はしませんでしたが、あの夜、三条から長岡のほうを見ると、まるで夕焼けのように空が明るかった、それくらい猛烈な火災だったと、何かの拍子にそんな話をしてくれたのを思い出しました。

長岡の花火大会(長岡まつり大花火大会)って有名ですよね? あれは長岡空襲の犠牲者の鎮魂のための行事です。毎年、空襲のあった8月1日に「平和祭」を行って、そのあと2日と3日に花火大会を開くことになっているんです。

――太郎の弟・次郎(田口浩正)も弁護士です。2人はなかなかの名コンビですね。

自分で言うのもなんですけど、この2人が並んで立っているだけで面白いですよね(笑)。実際、兄弟っぽいっていうか、僕らは立ち姿が似ていると思うんです。なんとなく丸い感じが。田口くんのことは、昔からよく知っていますが、一緒に仕事をするのは久しぶり。久々ですが、すごく息が合うので、演じていて楽しいですね。

――高橋さんは三条市のご出身で、市の「PRアンバサダー」も務めていらっしゃいます。三条が物語の舞台に決まり、出演のオファーがあったときは、どうお感じになりましたか?

これはもう、またとないチャンスだと思いました。過去にも、新潟が舞台になっている作品に出たり、新潟出身の人間を演じたりしたことはありましたけど、三条が舞台で、三条の人間を演じる機会なんて、まずこれからもあるかどうかわからないですからね。

これまでもPRアンバサダーとして、バラエティー番組で三条の名物を紹介したり、いろいろやらせていただきましたが、朝ドラ以上に三条の魅力を全国に広められる場所はないな、と思います!

――特にどんなところをアピールしたいですか?

とにかく僕は三条弁ネイティブですから、三条弁です。三条の言葉って、語尾に「らて」とか「こて」とかがついて、響きがかわいいんですよ。「らて」は「です」の意味なんですけど、「カフェラテらて」って本当に言うんです(笑)。かわいくないですか? 寅子の「はて?」に続いて「らて」が流行ったらいいなと思ってます。

普段はどこか他の土地の言葉を使ったお芝居となると、ことば指導の先生にあれこれ聞きながら、またチェックしていただきながらの撮影になるんですけど、今回僕の場合は、野放し状態(笑)。

例えば、三条弁では「とても」「すごく」っていう意味で、「バカ」を使うんです。「バカ忙しい」とか「この子はバカ賢い」とか。僕はこれを、どんどん使っているんですが、皆さん、気づきましたでしょうか? 僕としては、ここぞとばかりに三条のPRのため、頑張っていますので、ぜひ、覚えて使っていただけたら嬉しいですね。

【プロフィール】
たかはし・かつみ
1961年4月1日生まれ、新潟県三条市出身。NHKでは、大河ドラマ「花の乱」「龍馬伝」、連続テレビ小説「梅ちゃん先生」、「フルスイング」「メイドインジャパン」「デジタル・タトゥー」「うつ病九段」「正義の天秤」など多数。近作に、ドラマ「プロミス・シンデレラ」、映画『向田理髪店』、舞台『リア王』など。来年の大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」への出演が決定している。