初恋を実らせてふじわらの道長みちなが(柄本佑)の妻となったみなもとのともだが、図らずも道長は出世の階段を上り、左大臣として強力な権力を握ることとなった。が、夫の出世は安らかな生活をもたらすだけでなく、倫子と家族が権力抗争に巻きこまれることをも意味した。演じる黒木華に、役柄について聞いた。


倫子は夫の出世をサポートする相棒、同志のような側面も

——物語が進むにつれて、倫子は変わりましたね。

そうですね。物語の最初のうちは、左大臣の娘として、健やかに、おおらかに過ごしていました。天真爛漫てんしんらんまんとでも言うのでしょうか。

でも、道長と結婚してからは、すごく大人になった気がします。夫の出世をサポートする相棒、同志のような側面も出てきていますね。政治家としての道長のそばにいつも倫子がいて、同じ道を歩んでいる感じがするんです。「女は半歩下がってついていく」といった雰囲気ではなくて、大胆に物申したりもして。

第26回「いけにえの姫」は印象的でした。娘のあき(見上愛)を天皇のきさきとして入内じゅだいさせるなら「私を殺してからにして」と言っていた倫子が、道長の強い信念を感じて、「あの子が力強き后となれるよう、私も命をかけます」と覚悟を決めたとき、「夫婦としての絆がちゃんとできてきたのかな」と思いました。

——母親としての倫子には、どんな印象を持っていますか?

母親として、息子や娘たちをとても愛しているのですが、どうしても政治に巻き込まれてしまうわけですよね。そういった部分は、かわいそうですけど、倫子は現実を受け入れて、母として、道長の妻として、自分のやるべきことをやっていく。すごく強くて、賢い人だと思います。

倫子自身は、恋した相手と結婚して、幸せに生きてきたので、娘の彰子にも好きな人と幸せになってほしいと願っていたはずです。それに、政治的な思惑が渦巻いているだいのような場所へ、娘を行かせたくなかったでしょう。実際、道長から彰子を入内させたいと切り出されたときには、「入内してしあわせな姫なぞおらぬと、いつも仰せでしたのに」と嘆いていました。

でも、入内する以上は、彰子の立場を堅固なものにしようと、気持ちを切り替えた。これも母親としての愛情なんだと思います。

——娘を入内させる決心をする過程で、どのようなことを感じましたか?

「本当に娘のことを思いやっているんだな」と感じました。倫子自身は政治の道具にされた経験がないので、余計に許しがたい気持ちになったのかもしれません。また、どちらかというと政治を嫌っていた道長が変化したことも、ショックだったのではないでしょうか。

「娘を入内させる」と言われて、すごく戸惑ったと思います。だから、心理的に揺れるシーンが多かったですね。道長のことはもちろん愛しているけれども、同じくらい娘のことも愛している。「そこまでして出世しなければならないのか」という気持ちがある一方で、「そうしなければならないのだろう」と理解もしている。私としても、頭の中がかなり忙しい状態が続きました。

——倫子の魅力はどんなところにありますか?

聡明なところが私は好きですね。政治においても、身近な人間関係においても、駄目だめなことは駄目ってきちんと言える。そして、人を助ける気持ちがとても強い。聡明で、素直で、朗らかで、優しいんです。

私は、倫子って非の打ち所がない人だと思っています。家柄がよくて、後ろ盾があるから余裕があるのかもしれませんし、父と母から愛情をたっぷり受けて育ったのが大きい気がします。


まひろは、実は自分の希望をいろいろと叶えている

——演技をする上で、道長とまひろ(吉高由里子)の関係性を意識することはありますか?

道長とまひろの関係について、倫子は何も知らない設定ですから、あまり意識はしませんね。まひろに対しては、倫子のサロンで出会って以来の、楽しい友人として接している感覚です。

——黒木さんご自身は、道長とまひろの関係性について、どのように感じますか?

大変だなって(笑)。道長がよっぽどいい男だったのか、いつまでも初恋を引きずっていたのか。私にはちょっと理解できないところもあって(笑)。「違う人を探せばいいんじゃない?」と思ってしまいますね。

でも、二人は、友達の亡骸なきがらを一緒に埋める壮絶な経験も共有していますし、他人からは想像のつかない関係性があるのかもしれません。まひろの家とつちかど(倫子の実家)が近いことにも、何か縁を感じます。

まひろは、実は自分の希望をいろいろと叶えている気がするんです。妻にはなれなかったけれども、好きな人の子を産むことができたし、他にも自分のやりたいことを実現している。充実した人生だったんじゃないでしょうか。

紫式部の日記って、けっこう意地悪な内容が多いそうですね(笑)。そんな意地悪な視点もある人だからこそ、『源氏物語』のような面白い作品を書けたんだと思います。きっと世の中を斜めに見ていて、政治や社会に対しても批判的な目線を持っていたのではないでしょうか。

もちろん、まひろと道長の関係はドラマ上の設定ではありますけど、もし道長と結ばれて幸せになっていたら、すっかり満足してしまって、あのような面白いものは書けなかったのでは、なんて気もします。

——黒木さんからみると、道長という男性はどうですか?

モテるんだなって(笑)。あくまでも私の想像なんですが、道長は、異母兄のみちつな(上地雄輔)から、側室(しょう)の立場がいかにつらいかを聞かされていたんじゃないかと思うんです。道綱は側室の子として、母親のつらさを見聞きして育ってきたでしょうから。

だから道長は、嫡妻である倫子にも、もう一人の妻である明子(瀧内公美)にも、道長なりの優しさで、なるべく平等に接していたのではないでしょうか。『源氏物語』の主人公・光源氏に通じるところもあると思います。どんな女性にも、いい顔をしちゃう。


倫子は明子に関してだけは、抑えきれない心のざわつきがある

——娘の彰子はどんな人物だと思いますか?

本当に物静かです。今のところ、捉えどころがないというか、何を考えているのかよくわからない人として描かれることが多いですよね。

でも、ハッとさせられるシーンもありました。一条天皇(塩野瑛久)が笛を演奏したときによそ見をしていて、「そなたはなぜ朕を見ないのだ? こちらを向いて聞いておくれ」と言われたのに対して、彰子は「笛は聞くもので、見るものではございませぬ」と答えましたよね。口数は少ないけれど、賢い人なんだろうと思いました。今後、きっと素敵な女性になっていくはずです。

——道長の姉である女院にょいんあき(吉田羊)と、倫子の関係についてはどのように感じますか?

倫子は強いなって思います。詮子にいじめられても、うまくかわしますよね。私だったら、あんなふうにはできません。

あと、詮子のつらい境遇に、胸が押し潰されるような気持ちになりました。政治的に利用されて、愛した人からは嫌われて、奪われてばかりの人生だったと思います。切ないですよね。それはともかく、吉田羊さんは大好きな方なので、ご一緒できて嬉しかったです。

——道長の側室・源明子との距離感については、どのように感じていますか?

日頃の倫子は、何事にも動じないのに、明子に関してだけは、抑えきれない心のざわつきがあります。正室(嫡妻)と側室(妾)という関係性でいうと、倫子のほうが格上です。そういう自尊心があるし、焦る必要はないと思っているはずなんですが、それでもやっぱり、嫉妬する気持ちは出てきてしまう。

「自分のところよりも多く通っているんじゃないか」とか、どうしても気になりますからね。明子との関係は、倫子にとっていちばん感情を揺さぶられる要素だと思うので、私としても強く意識しています。自分なりに納得のいく演技を見つけたいですね。

——倫子は、道長には明子以外の女性との関係もあると気づいているのでしょうか?

そう思います。以前、道長が朝帰りをしたときに、「殿のお心には、私ではない、明子様でもない、もう一人の誰かがいる」ってセリフがありましたからね。今後、どんな展開になるのか、個人的にも楽しみです。