打きゅうの観戦の際、藤原道長(柄本佑)に一目惚れした左大臣・源雅信(益岡徹)の娘・倫子。その思いが天に通じたのか、ついに道長の嫡妻(正妻)となることが決まった。土御門殿のサロンの女主人としても存在感を示す倫子を演じる黒木華に、役柄や作品について聞いた。
紫式部と清少納言のライバル関係、当時の女性たちの生き方にはすごく興味がありました
――大石静さんの台本を読んだ感想は?
大石さんとご一緒するのは初めてで、まだお会いできていないのですが、歴史ドラマっぽくない現代的なところが面白いと思いました。ラブストーリーの名手と存じ上げていましたが、今作もまひろと道長のシーンがすごく叙情的に描かれていて素敵でした。
――『源氏物語』についてどんなイメージを持っていましたか?
以前は「男女の恋愛のもつれ話」というイメージでした。もともと私は恋愛話にあまり興味がなかったので、そういう物語を当時の女性が文字に残すことにどういう意味があったのだろうとは考えましたね。それに、紫式部と清少納言のライバル関係も含めて、文学を中心とした当時の女性たちの生き方については、すごく興味がありました。
平安時代といえば、光源氏より安倍晴明に興味があったので、晴明が登場する漫画は読んでいたのですが、平安時代に対するイメージはその程度でした。だから、今回オファーをいただいたときは少し不安もありました。恥ずかしながら、学生時代から歴史があまり得意ではなかったので……(笑)。
──撮影が始まって、とくに興味を引かれた部分はありますか?
この時代ならではの文化はとても興味深いですね。たとえば、宮廷にいる女性たちがはいているのは、引きずるほど裾が長い長袴なのですが、なぜなのか? 諸説あるらしいのですが、「彼女たちは自分で歩くことがあまりないので足の筋力がなくなってしまい、這うように歩いていたからこの形になった」という説を教えていただいて面白いなと思いました。
当時のおやつをスタッフさんが作ってくださって、撮影で食べたり、そういう昔の文化を体験させていただくことも楽しいです。
あとは政治ですね。娘を嫁がせることによって天皇に近づく……。身分が高くなることによって家が豊かになり、一族の暮らしが楽になる政略結婚は当時すごく大事なこと。
倫子もそういう理由で、いずれ娘の彰子を一条天皇に嫁がせることになります。それが娘の幸せだと思っているんですよね、きっと。権力を持っている家に嫁がせた方が幸せになる可能性は、現代よりもずっと高い時代ですから。
私としては、男性が主役になる“戦”がないこういう時代を、視聴者の皆さんはどのように楽しんでくださっているのだろう、ということに逆に興味がありますね。どこを面白がって見てくださっているのか、ぜひ聞いてみたいです。
――倫子を演じる上で何かお稽古はされましたか?
私の場合は、お箏と歌です。どちらもあまり経験がなかったのですが、教えてもらうと面白かったです。せっかくお箏に触れる機会をいただいたので、昔の楽器についてももっと知りたいなと思いました。
――当時の衣装での演技はいかがでしたか?
着物はとにかく重くて肩がこります(笑)。髪の毛が長いのも大変ですが、所作に関してはとくに大変なことはありませんでした。
所作指導の先生が、平安時代は江戸時代に比べて所作らしい所作がないと教えてくださったんです。畳の縁を踏んではいけない、部屋には左足から入る、という大まかな約束ごとはあるのですが、細かい所作があまりないというのはすごく楽ですね。
倫子は意地悪に見えるときもあるかもしれませんが、はっきりしているだけなんです
――倫子はどのような人物だと考えていますか?
(当時としては結婚適齢期を超えた)あの年齢でお嫁に行っていなくても許してもらえる両親がいて、これまですごく愛されて育ってきています。主催しているサロンでも、まひろを始めみんなに対して平等に接することができる――。余裕があって頭のいい人、という印象です。
――倫子はよく笑っている印象があります
じつは、はじめは倫子がよく笑う理由がわからなかったんです(笑)。「おほほほほ」という笑い方に意味があるのか、もしかしてちょっと嫌味なキャラクターなのかも? と、いろいろ考えてしまったことがあって……。
監督に伺ったら、別にそうではないというお返事だったので、今は朗らかさと言いますか、気持ちの余裕が表れている笑いなのかなと考えて演じています。でもやっぱり、そこに到達するまでは少し難しかったですね。
――演じる上で難しいところはありましたか?
今までやってきた歴史ドラマとは違って、セリフ回しがすごく現代的なところやキャピキャピしている雰囲気に、最初はどうしたらいいのだろうと戸惑いましたが、今は育ちの良さや、賢さを大事にすればいいのかなと思いながら演じています。
――倫子として大事にしているところは?
「道長様を絶対夫にします。この家の婿にします」と決めて、それを実現させる強さを持った女性ですから、その強さを表現したいなとは思っています。倫子にとってはそれが当たり前のこと。まひろからお願いされても、「それはできない、そういう関係じゃないでしょ」「私とあなたは違うでしょ」ときっちり線引きができる人。
はたから見たら、少し意地悪に見えるときもあるかもしれませんが、ただはっきりしているだけなんですよね。そういうふうに育ってきた環境と頭の良さがある。その部分は、倫子を演じる上で一本筋を通したいと思っています。
道長と結婚して、これから夫婦の会話が増えていくのが楽しみ
――両親の源雅信や藤原穆子(石野真子)の印象は?
お二人ともほんわかしていて、すごくいい家族だなと思います。お父さんは娘をすごく可愛がってくれているし、倫子の“おほほ感”はきっと穏やかなお母さん似なのだと思います。
――まひろを演じる吉高さんの印象は?
みんなに愛されていて本当に太陽みたいな人だなと、お会いするたびに毎回思いますね。演じているまひろと通じるところがあると思います。
――まひろとはサロンで出会って、仲よくなりました。倫子はまひろのどこを気に入ったのでしょう?
やはり、文学の才能があるところではないですかね。和歌の深い読みができるところや、想像力の豊かさといった部分は、倫子にはないものとしてすごく魅力的です。
それに、まひろには貧しさや逆境に負けない、たんぽぽみたいな逞しさがある。そこに惹かれたのではないかと思います。道長がまひろに惹かれるのも、よくわかります。
――一方、道長を演じる柄本さんとは?
以前にも共演させていただいていますが、変わらず優しい方です。こちらがどんな球を投げても、佑さんは返してくださるので、これから夫婦としての会話が増えていくのが楽しみです。
――倫子の道長への愛はとても強いですね
そうですね。道長への気持ちは台本には細かく描かれていないのですが、彼の上品さや打きゅうのうまさ、男らしさや色気……そういうもの全部ひっくるめての一目惚れだったと思います。
自分から抱きつくなんて歴史ドラマに登場する女性像として珍しいなとも思ったのですが、平安時代にはそういうことが結構多かったらしいんですよね。夜這いもそうですが、男女ともに性に対しての敷居が比較的低かったのかなと思います。そういう歴史の話を聞いたり、調べたりしながら演じています。
――これから道長はどんどん出世していきますが、そのことについては?
私個人としては、どんどん出世してもらって構わないのですが、倫子は、道長に対してあまり出世しなくてもいいと思っているのではないかなと。出世しなくていいから、もっとそばにいてほしいと……。そういう女性的なところもあるんですよね、倫子には。
――道長の妻として、倫子はこれからどのような女性になるでしょう
史実としては子だくさんですし、やはり家を支える妻になっていくのではないでしょうか。どっしり構えて旦那さまを仕事に送り出すような強さと、他に奥さんがいてもあまり気にしないような朗らかさを併せ持った女性になっていくのではないかと思います。