ふじわらの宣孝のぶたかは、古くからの友人・ためとき(岸谷五朗)の娘・まひろ(吉高由里子)を妻に迎えた。すでに多くの妻子を持ったうえでの、年の差婚であった。まひろの良き相談相手だった宣孝が、どのように感情を変化させていったのか。演じる佐々木蔵之介に、役柄について思いを聞いた。


まひろの良さというのは、吉高さんの良さでもあるんです

——まひろを妻に迎え入れるまでの展開を、佐々木さんはどう感じましたか?

前半は、まひろと道長みちなが(柄本佑)の恋愛模様が色濃く描かれていて、「どうやって、まひろと宣孝は夫婦になるの?」と疑問に感じていました。それが、台本が進むにつれ、まひろと宣孝の間にもいろいろなドラマが起こり、に落ちる流れになったのではないかと思います。

——一番のきっかけは何でしょう。

理由として思い浮かぶのは、越前えちぜんという物理的な距離です。

宣孝は為時の家を、経済的にも精神的にも気に留め、援助してきた部分がありましたが、為時が越前守に出世した時点で、経済的な問題はなくなりました。でも、為時家が離れた場所に行ってしまい、「ん?」と考えた。まひろから受けていた刺激もなくなったことで、物足りなさを感じたのかもしれません。

そんなときに、越前のことがだいで話題になったことや、宋人を見に行くという約束もあり、越前に足を運んだところ、見知らぬ宋人・ヂョウミン(松下洸平)とまひろが話をしている姿を目撃する。偶然にも為時は留守で、思いがけずプロポーズしてしまった……という感じですかね。

——まひろの良さはどんなところですか?

昔からまひろの良いところと思っていたのは、自由な意識と、自立した己を持って行動する点です。一方で、まひろのその性格が家族に様々な影響を及ぼし、彼女自身にも危うさをもたらすように感じていましたが、それも含めておもしろいと見守っていたと思います。

例えば、“かんの変”が起きて父の為時が官職を失ったときに兼家かねいえ(段田安則)に直談判じかだんぱんしに行ったり、為時がこくになる際に、淡路から越前へ任地替えを希望する申し文を代筆したり、「お前、すごいな」と思うことは、たびたびありましたね(笑)。そして何よりも、まひろの良さというのは、吉高(由里子)さんの良さでもあるんです。

——吉高さんの良さ?

撮影現場の雰囲気を作ってくれるし、書や琵琶びわなどの稽古に関しても誰よりも努力をしている一方で、「このセリフが言えない」と弱音を吐いて、弱みも見せられる。なんだか応援したくなるんです。だから、現場全体が彼女を精一杯支えようとするんですよね。


道長はまひろの「忘れえぬ人」ではありますが、宣孝は敵視していないんです

——宣孝は、まひろの心に「忘れえぬ人」がいることを知りながら、彼女を受け止めました。

宣孝が、まひろと道長との関係をどこまで分かっていたのかは置いておいて、その過去にふたをしようとする彼女の強さと弱さを感じていたように思います。宣孝は、そういう関わりは大切にして、左大臣様(道長)をうまく利用したらいいじゃないかと考える、清濁せいだくあわむタイプなので。

セリフでも言ってましたよね。「わたしは不実な女でございますが」「わしも不実だ。あいこである」って。宣孝はまひろの過去と現在を、まひろは宣孝の清濁併せ呑む性格を受け止め、分かりあったうえで、結ばれようと結論を出した。今の倫理観では“打算”になるかもしれませんが、当時の状況下としては、ふたりらしい結論だったと思います。

——道長に結婚宣言したのは……。

やましろのかみを仰せつかって、「御礼を申し上げます、ついでにお伝えしますと、まひろと結婚することになりました」と報告するわけですが、さらにそれを言ったこともまた、まひろに報告するし(笑)。ドンとおもしろく発表するところがチャーミング、と受け取っていただけたら、ありがたいです(笑)。

道長はまひろの「忘れえぬ人」ではありますが、宣孝は敵視していないんですよ。むしろ、道長を味方だと考えていたように思います。まつりごとにおいても優秀な人間だから、上司としても大切だし、自分の妻にとっても大切な人だと感じていたと思います。

——柄本佑さんについては、どのように思われますか?

自然な演技がとても魅力的です。物語の最初の三郎のときは、ぼーっとしている中に「ちゃんと世の中を見ている」という雰囲気を漂わせていて、物語が進むなかで成長する姿が見えて……。淡く移ろいでいく様がとても自然です。色気もありますし。


宣孝がただ愉快で包容力があって、というだけではないところが、面白い

——いざ夫婦生活が始まると、けんかも起きるようになっていますね。

結婚前、まひろが貧しい子どもに読み書きを教えていても、宣孝は「おかしなおなじゃのう」としか返さなかったのに、結婚後、大水おおみずと地震から生き残った子どもたちに食べ物を配っていると、こつに嫌な顔をして「飢えて死んでも、子どもの命とはそういうものだ」と言う。まひろにしてみれば「どうして?」ですよね。

それから、まひろとの文のやり取りをあちこちで見せていたことを無自覚に報告して怒られるなど、いろいろと行き違いもあり、最終的に、まひろにとりを投げつけられて……。そのケンカを経てからの、まひろの懐妊という流れになります。宣孝がただかいで包容力があって、というだけではないところが、面白いなぁと思います。

——まひろが道長との子を宿すことについては、いかがでしたか?

まひろと結婚する前から、まひろとの子どもは宣孝の子ではないかもしれないな、となんとなく想像していたので、台本を読んで「ああ、そうなりますか」と。ドラマチックな展開ですよね。視聴者の方のなかには、『源氏物語』のエピソードから、この流れになるかもしれないと予想を立てている人がいらっしゃって、よく読み込んでるなと感心しました。

——「だれの子でもわしの子である」と言う包容力はどこからくるのでしょうか?

基本、まひろのことが大好きなんでしょうね。いろんなタイプの女性がいる中で、彼女の発想力であるとか、決断力や実行力にれ込んでいて……。やっぱり、まひろのことを手離したくなかったんだと思います。

清涼殿に上がるシーンでは、「ようやくここまで来た、俺」みたいな気持ちになりました(笑)

——宣孝も立場が変わりましたね。

宣孝は、それなりに出世してるんですよね。まひろとの関係なしに、ちくぜんのかみや山城守を拝命していましたから。ただ、参内さんだいするようになったのは、最近になってからですね。

先ほどせいりょう殿でん(天皇の御殿)に上がるシーンを撮影してきたんですが、ここまでセットが違うものか、と驚きました。為時邸とは大違い。「ようやくここまで来た、俺」みたいな気持ちになりました(笑)。まひろと道長の関係があるおかげで、自分もいい目をみさせていただいていると、ありがたく思っています。

——平安時代の人物を演じての感想はいかがですか?

着ている服が大きくて重い、烏帽子えぼしも着ける、部屋の仕切りがないといった、いろんなことがおもしろいですね。男女の関係も現代の道徳とか倫理感と違って、いろいろな発見があります。

そして、平和な時代が江戸時代よりも長く続いたことに驚きます。今、いろいろな方から平安時代について勉強させてもらっているんですが、何も知らない遠い時代を、大石静さんが書かれると身近に感じられるし、セリフも現代語に近く、より親しみやすさが伝わってきます。

——大石さんの台本の魅力とは?

ラブストーリーを主軸にしながら、政治や権謀けんぼうじゅっすうが織り込まれるし、越前では“世界”を感じるステージに入って……。平安時代の京都を舞台に、宋のような海外の大国を相手にした物語が進んでいくという展開が、おもしろいですね。自分の出ていないシーンがどんな映像になるのか、毎回の放送が楽しみです。

——改めて、「光る君へ」に出演されての思いを聞かせてください。

大河ドラマに出演させていただくのは、役者人生のなかで大きく貴重なトピックです。これまで「風林火山」ではさな幸隆ゆきたか、「りんがくる」ではしば豊臣とよとみ秀吉ひでよしを演じさせていただいて、今回は平安貴族の藤原宣孝。

僕自身も京都人ですし、実家がかつての内裏の中にあることを知って、いろいろな意味でメモリアルな作品になりました。このご縁を大切にしながら、最後まで心を込めて演じたいなと思っています。