藤原為時(岸谷五朗)が官職に就けず、貧しい生活を強いられているまひろ(吉高由里子)の家族を気にかけ、ちょくちょく様子を見にくる藤原宣孝。型破りでひょうひょうとしたキャラクターが印象的だが、彼こそまひろの夫となる人物……。演じる佐々木蔵之介に役柄や作品について聞いた。
世渡り上手でちゃっかりしつつ、でも、おおらかな目線は忘れないように
──大石静さんの脚本作品には、連続テレビ小説「オードリー」(2000年)ほか多数出演されています。今回の脚本を読んだ感想は?
大石さんのセリフ回しはどの作品も楽しくて素敵ですし、今作もとても面白く読ませていただきました。プレッシャーは感じないんですが、やはり撮影中は「大石さんに笑ってもらえるかな」「どこまで期待に応えられるかな」とは考えてしまいますね。台本を通じて、大石さんからの無言のメッセージを受け取っているイメージです(笑)。
──大石さんから何か声かけは?
撮影が始まってから、お食事をしてお話をしたり、メールをいただいたりしました。「これから宣孝が結婚するシーンを執筆するから、蔵之介さんにダメをもらわないように書かなきゃね。緊張します」と言われたことも。いやいやいや、ダメなんてつけませんよ……という話をしました(笑)。
──出演前に準備されたことは?
『源氏物語』や平安時代に関する資料は読みました。その中で、宣孝のエピソードを中心に史実は頭に入れておこうと思いました。ただいろいろ調べても、当時の女性に関しては本当に残っている史料が少ないんですね。だから、その部分は大石さんがオリジナルで描かれるんだろうなと思っていましたし、それが楽しみでした。
──所作などで気を付けていることは?
まず烏帽子ですね。高さを把握するのが難しい! 車と障害物の距離を計るセンサーみたいに、何かにぶつかりそうになったら音でも鳴ってくれればいいんですが(笑)。藤原実資さんは、(第12回で)赤痢になって床に伏していても烏帽子はつけていましたから、この時代には大事なものだったんでしょうね。
あと、何をするにも指を袖から出さないというのがなかなか難しいです。物を持つときどうするねん、と(笑)。「あそこ」と遠くを示すときも指は出さない。仕事する気ないやろ、とさえ思いますね(笑)。御所に行っても、この衣装を着ていたらなかなか仕事なんてできません。
とはいえ、衣装が華やかなのは素敵ですよね。重ね着するからすごく重いんですけど、お芝居のやりがいがあります。まあ素早く動いて立ち回りをするわけでもないので、楽しくやらせていただいています。
──宣孝役と聞いてどのように演じようと考えましたか?
最終的にまひろの夫になる人であることは視聴者の皆さんも分かってらっしゃるので、“気のいいおじさん”から始めるのがいちばんいいんだろうなと考えました。為時さんが生真面目で朴とつなキャラクターなので、僕は対照的に“陽”のキャラとして、明るく朗らかにいこうと思って。
彼の魅力は、世渡り上手でちゃっかりしつつ、派手な衣装を着て御嶽詣に行ったりする自己主張の強い一面もあるところですね。御嶽詣のエピソードは史実として残っているぐらいだから、相当知られた話だったんでしょう……今でいうと、ラメとか電飾とかが付いた服のような感じなんでしょうか?
一方で、宣孝は清濁併せ呑む、非常に合理的な一面も持っています。ただ、為時さんの家族を見守っていたいな、そばにいて寄り添っていたいなとも感じている。そのおおらかな目線は忘れないようにしようと意識しています。
宣孝のビジュアルについては、とても気に入っています。細かいことですが、他の人はやらないような、もみあげの部分を散らしたり、髪型でちょっと遊んだりもしていて。それは、彼の楽しんで生きたいという遊び心を反映しています。でも、日常的にすごく目立っているわけでもない。そこが、上手に遊んでいる宣孝の振る舞いを反映していると思います。
なにしろ、つねに愉快であろうと思っているんですね。ネチネチしないこと。僕としては、宣孝が登場しているシーンは、クスッと笑えるものになればいいなと思っています。大石さんもそのように書いてくださっているから、そのおかげで宣孝が嫌味のない、いい塩梅のキャラクターになっていると思いますね。
為時家にいちばんいいのは、まひろに旦那がつくこと。だからプッシュしているんですが……
──まひろの家族の印象は?
まあ……貧乏だなって(笑)。でもあたたかい家族ですよね。お互いが支え合って、たまにはけんかもするけれど、家族の絆みたいなものはすごく感じます。だから、何とか家族みんなで幸せに暮らせればいいなと思うんですが……。宣孝自身も、何かあればこの家族と一緒にいられたらなというふうに思いながら過ごしています。
演じていても、為時とまひろと3人でやり取りするシーンはとても楽しいですね。みんながそれぞれの役割をわかっているからこそ、呼吸を合わせて場を作れている実感があります。
──宣孝は、どうしてまひろの家族に入れ込むのでしょうか?
最初気になっていたのは、たぶん為時さんなんです。彼は教養もあり人柄もよいのに、ただただ不器用な人。だからこそ何とか見守ってあげて、家族全員がちゃんと暮らせるようになってほしいと願っていたんでしょう。そうやって為時家と関わっていくうちに自分も家族の一員みたいになってきて、だんだん放っておけなくなってしまったのだと思います。
──では、まひろのことはどう思っているのでしょう?
今のところ親戚の娘さんみたいな雰囲気ですかね。ただ彼女の利発さや好奇心の旺盛さ、いろんな物事に果敢に向かっていく姿勢は並の子じゃないと思っている。ただ、それゆえ損をすることもあるだろうし、これからうまくこの世を渡っていけるのかどうか……。心配だから、この子が幸せになればいい、この家族が幸せになればいいと願っていますね。
為時家にとっていちばんいいのは、まひろにいい旦那さんがついて、この家族が経済的に自立することなんですね。だから、やたらと婿取りをプッシュしているんですけど……(笑)。タイミングよく為時さんに仕事があればいいんですが、まひろの結婚の方が可能性あると思っているので。なんとか婿取りがうまくいって、この家を支えてくれと思っています。こちらもホッとしたいんですよ。
──まひろの気質を好ましく思っている宣孝ですが、彼女の行動をたしなめたりもしています
まひろの性格や気質はいいのですが、行き過ぎた行動は彼女だけではなく家族全体に影響するし、それによって不幸になってしまうこともありえる。だから、もうちょっと広い視野を持つべきだと諭すのが、“親戚のおじさん”の立場かなと思います。
まひろはこれからさまざまなことを学んでいくんでしょうけれども、学ぶ前に大変な事態になっては遅いですから。この辺りは宣孝の世の中に対する見方が表れているなと感じます。為時さんに対しても、いろいろ助言をしているので、宣孝は為時家の外部アドバイザーのようですね。
──宣孝にとって、道長とまひろの関係は?
宣孝は道長と1回しか会ってないですし(第4回)、そのときは彼が右大臣家の三男坊だとも認識していなかったと思います。こいつ誰や?という感じで。「あいつとはもう会うなよ」みたいなことを言っていますが、誰なのかは分かっていない。今のところ道長とまひろがどうなっているのかも知らないんです。
宣孝は事情通で、宮廷での出来事もいち早くキャッチしている。でも道長とまひろのことについては、まだアンテナが向いていないんですよね。まあ、知らない方が宣孝にとってはいいのかもしれませんが(笑)。
──まひろ役の吉高由里子さんの印象は?
吉高さんと道長役の柄本佑くんとは、以前、大石さん脚本のドラマでもご一緒したんですが、吉高さんはそのときと変わらないですね。すごく構えるではなく自然に、しなやかにまひろを造形している気がします。ガチガチでもなくゆるゆるでもなく、ちょうどいい具合にお芝居されています。
そこに、たとえば書道や琵琶、踊り、乗馬など、さまざまなお稽古を通して平安時代にいるまひろを作っているから、よりいっそう素敵なものになっている。それを積み上げながら役を作っていって、まひろ本人になっていく過程を見せていただいているなという印象です。それこそ“親戚のおじさん”目線で(笑)。これが大河ドラマなんですね。
──最後に「光る君へ」の魅力を教えてください
平安時代を扱う作品は、まず本当に少ないですよね。文字どおり平安で厳かにゆったりした時代ですが、反面、女性がひじょうに能動的に動いている時代でもあると思います。大石さんが書く脚本だからかもしれませんが、女性がすごくアクティブ。とくに心が自由なんですよね。それが、歴史ドラマとして珍しいですし、面白いなと感じます。
宣孝と結婚してさらに後のことになりますが、まひろは『源氏物語』を書き始め、しだいに政治に関しても切り込んでいくようになります。戦国時代のような合戦がなくても、宮廷ではいろいろ勃発しますからね、そんな描き方が面白いなと思います。