いくつかの意味で「これぞNHKならではの番組」と言っていいでしょう。「解体キングダム」(総合テレビ)は、「解体工事」というニッチなテーマを扱いながら、時間と労力をかけて徹底的に掘り下げることでゴールデンタイムらしいエンタメ性を生み出す、知られざる名番組。

番組のコンセプトは、「町で見かける解体工事。白い防音シートの奥では一体、何が行われているのだろうか? ふだん見ることのできない現場の奥の奥に潜入し、驚きの職人技に密着する」。2020年のスタートから不定期特番と短期レギュラー放送で重ねたエピソードは30を超え、直近では「解体ファイル33 旧カトリック清水教会」が放送されました。

同番組は「解体工事」というニッチなテーマでありながら、なぜゴールデンタイムで支持を集められるのか。NHKが誇る産業ドキュメントの「新プロジェクトX~挑戦者たち~」「魔改造の夜」に勝るとも劣らない人気の理由を掘り下げていきます。

「創造と破壊」両番組の補完関係

まず“日本の技術力をフィーチャーした産業ドキュメント”そのものに着目すると、「モノを作る」番組が多い一方で「モノを壊す」番組はほとんどありません。また、民放はスポンサーの関係性などから「モノを壊す」番組を積極的に仕掛けづらいこともあって、その希少性は際立っています。

「創造と破壊」という観点で見ると、「解体キングダム」の“破壊”は「新プロジェクトX」「魔改造の夜」の“創造”とは真逆のベクトル。「互いの長所を際立たせる」という点で補完関係が成立しているようにも見えます。

ただ、「モノを作る」創造の番組は、努力、苦労、挫折、絆などをフィーチャーするという構成に偏りやすく、番組数の多さもあって「押しの強さや暑苦しさを感じる」という人も少なくありません。なかには「感動の押し付け」と揶揄やゆする人もいるなど、好き嫌いがはっきり分かれやすい番組になりつつあります。

一方、「モノを壊す」破壊の番組は、努力や難しさをフィーチャーすることはあっても、押しの強さや暑苦しさを感じさせることはめったにありません。解体に携わる人々のテンションはいい意味で低く、集中して職人技を見せるクールなカッコよさを感じさせます。

つまり、「静かな仕事人たちのカッコよさ」と「重機などを扱うスーパーテクニック」が「解体キングダム」の強みであるということ。日ごろスポットが当たることはほとんどなく、当たり前のこととして称賛されないヒーローたちの姿が実に魅力的であり、その技術は圧巻です。

2024年2月12日放送「重要文化財を後世に 築320年の古刹を解体せよ」より

しかし、日ごろ彼らにスポットを当てていないのは大人たちだけで、解体工事の職人たちは幼児にとってのヒーロー。街中の工事現場に目をやり、重機に目を輝かせ、それを操るオペレーターに手を振る幼児の姿をよく見かけます。

余談ですが、多くの子どもが通るおもちゃのトミカでは、油圧ショベル、クレーン、ブルドーザー、ホイールローダー、ミキサー、ダンプカーなどの工事車両が大人気。砂場遊び用のおもちゃなども含め、「解体キングダム」はその本物が見られる番組として幼児の視聴者も少なくないようです。

もちろんオペレーターたちの技術は大人にとっても見どころ十分。まるで外科医のような繊細な手さばきは驚きのレベルで、実際に2月14日の放送ではタワークレーンオペレーターの技術をフィーチャーしていました。

2024年2月14日放送「解体工事“七不思議” ナゼそこに○○が!?」より

快感、感謝、哀しさに揺さぶられる

もう1つ、「キングダム」の魅力と言えば、あまり考えず視覚的に楽しめる気楽さと爽快感。

「皿、びん、家電などを思う存分ぶっ壊せる」というストレス発散が目的のサービスが人気を博しているほか、買ったばかりのおもちゃをバラバラに壊して遊ぶ幼児もいるなど、解体=快感は人間の本能に近い感覚なのかもしれません。SDGsの重要性が叫ばれる中、「やってはいけないことをやっている」「それを楽しんで見る」という禁断のムードも当番組のだいでしょう。

ただ、そんな禁断のムードと相反する感動も「解体キングダム」における魅力の一つ。解体する建造物の長い歴史や、それにふれてきた人々の思い。とりわけ役割を終えたことへの感謝やねぎらい、朽ちていく寂しさや哀しさなどが見え隠れするたびに感情を揺さぶられます。

これまで番組で解体してきた主なものを挙げていくと……巨大オフィスビル、巨大ガスタンク、巨大煙突、巨大鉄塔、超高層ビル、首都高、巨大変圧器、漁船取締船、特急列車、巨大風車、巨大百貨店、巨大岩など、“巨大”なものばかり。そのスケールに圧倒されるとともに、番組を見るたびに「こんなビッグプロジェクトが知らない間に行われている」という気づきが得られます。

2024年6月5日放送「世界遺産!? 巨大岩を解体せよ」より
2024年1月24日放送「首都高日本橋 都心の水中解体」より

さらに、それらのビッグプロジェクトを真っ向から扱えることこそNHKならでの強み。その長期取材力と撮影技術力は、経費削減と視聴率獲得に悩まされる民放が模倣できないものであり、だからこそ異質な番組として支持を集めているのでしょう。

そんな支持の背景にあるのは、放送間隔のリアリティー。「解体キングダム」は2020年から不定期放送されていたほか、レギュラー放送の際も月2回程度が多く、強引に毎週放送して内容を薄めるようなことはしません。今春も3月にレギュラー放送を終了させましたが、6月に復活すると不定期放送に変わっていました。

これは「それくらい時間をかけて、めったに見られない貴重な映像を見せている」「放送間隔にとらわれず、質を下げずに放送を続ける」ことで視聴者の信頼を得ようとしているのではないでしょうか。不定期放送は視聴習慣がつきづらいことから、視聴率獲得が求められる民放各局には難しい編成であり、この点でもNHKの強みが表れています。

よくあるキングダムの解体も見たい

このところ、やや気になるのは「“キングダム”というコンセプトにこだわりすぎているのでは」と感じさせるエピソードのチョイス。キングダムは主に「王国」「国王が統治するエリア」などの意味ですが、解体の難易度を重視したようなエピソードが続いています。

今年に入ってからの放送では、「戦前の傑作 木造教会を解体せよ」「世界遺産!? 巨大岩を解体せよ」「巨大迷宮 渋谷駅を解体せよ」「重要文化財を後世に 築320年の古刹を解体せよ」「国宝・瑠璃光寺五重塔を 解体修復せよ!」などの繊細な技術を要求される高難度のエピソードがズラリ。

「重要文化財を後世に 築320年の古刹を解体せよ」より
「世界遺産!? 巨大岩を解体せよ」より

教会の移築・保存、重要文化財の解体・再建、五重塔の解体修復は、「傷をつけずに解体しなければいけない」。高速道路に石ひとつ落とさずに巨大岩を解体、渋谷駅の線路を解体は、「少しのミスも許されない」。もちろん高難度のエピソードも当番組らしく面白いのですが、よくある普通の解体にもすごわざがあるだけにそれを見せてもらえたらと思ってしまいます。

テレビ番組の作り手はどうしてもロールプレイングゲームのように難しいほうへと進みたがりますが、視聴者のニーズはそれだけではないでしょう。たとえば、普通の一軒家、よくある古い団地、閉校した学校などをどう解体しているのか。

その中でどんな凄技が使われているのかなどのバリエーションも見られたら……。少し目線を変えれば、一軒家、団地、学校なども、それぞれの王国であり“キングダム”なのかもしれません。

高難度のエピソードにこだわる制作姿勢は良くも悪くもまじめなNHKらしいところにも見えますが、もっと庶民目線の“キングダム”も見たいと思ってしまうのは、これを書いている私自身、番組に魅了されているからでしょう。

コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。