兼家かねいえ(段田安則)の代から藤原家の隆盛を陰で支え、いまでは道長みちなが(柄本佑)が最も頼りにする陰陽師おんみょうじべのはるあきら。大雨、日食、地震と続く天変地異をおさめるため、晴明が進言したのは、道長の長女・あき(見上愛)の入内じゅだいだった……! 演じるユースケ・サンタマリアに、自分の役柄やドラマの見どころについて聞いた。


仕事で天体を観測する昼夜逆転人間。基本寝不足で疲れているので、目の下のクマはマストです

──これまでにない晴明像が話題ですが、反響をどうとらえていますか?

僕は、あまりエゴサーチ(ネットで自分のことを検索すること)をしないので(笑)。でも、割と好意的に受け止めてもらっているようなので、ホッとしています。安倍晴明って、すごく熱心なファンの方がいるキャラクターなので、バッシングを受ける覚悟でやってました。

ただ、初期のインタビューの中で言った「ビジネスマンとしての陰陽師」というフレーズが、思った以上に、あちこちで活字になってしまって……。狙ってインパクトのある言葉を選んだところはあるんですけど、今になって「本当にそうか?」と後悔しています(笑)。

俳優だって、撮影序盤のうちは自分の役について全部は把握していないわけですよ。探りながらやってるところがある。で、「よし、つかんだ!」っていう頃に終わる。そういう仕事です。
それで、今はどう考えているかというと、“謎な人”でいいんじゃないかと思っています。本当に不思議な力なんて持ってるの?くらいで。

そもそも晴明って、他の登場人物と比べると住んでいる世界が違うというか、実は身分もそれほど高くないですし、どうやっても物語の中で異質感が出てきます。それを型にはめること自体、おこがましかったのかもしれません。

“なんだかよくわからない人”でいいと思ってからは、楽ですね(笑)。感じたままに演じるというか……。皆から「うさんくさい」と言われるけど、それは別に狙っていません。とはいえ、メークを終えた顔を鏡で見ると、我ながらひどい顔色をしてるな、とは思います。

──たしかに、晴明はいつも顔色が悪くて体調もよくなさそうです。

それは、当時としては珍しかったであろう、昼夜逆転人間だからです。仕事で天体を観測するので、夜は遅くまで起きていて、昼は寝ている……。それなのに、昼間に呼び出されることも多い。基本寝不足で相当疲れているはずなので、目の下のクマはマストなわけです。

以前、何を考えているかわからないサイコパスの犯罪者の役をやったことがあって、そのときにメークさんが入れてくれた目元の赤い色が、すごく効果的と思ったのを覚えていたので、「晴明にどうですか?」って言ったら、こうなりました。本当にあやしいですよね(笑)。

──晴明を演じるうえで、ほかにこだわっているところはありますか?

表情ですね。監督からは「晴明は相手によって態度を変えない」「感情を表に出さない」「無表情」と言われているし、もちろん僕もそれは意識して演じています。それでも、人間じゃないですか。好きな人もいれば、嫌いな人もいる。合うとか合わないもある。

それで言うと、道長のことはけっこう気に入っているんですよね。お兄ちゃんの道隆みちたか(井浦新)のことは、あんまり……。思い返してみれば、晴明の態度もちょっと冷たかったですよね(笑)。一方、兼家とのやり取りは、あれはあれで楽しんでいた気がするんですよ。

そんなふうに、ふだんが無表情な分、たとえば相手から目線が外れたときとかに、つい出てしまう微妙な表情の差が、実は非常に大事で……。ドラマを見ているみなさんに、気づいていただけたらうれしいですね。


道長にとっての晴明は、映画『スター・ウォーズ』のルークに対するオビワンみたいな立ち位置かな?

──兼家と組んでいた時のダーティーな雰囲気は和らいだように感じます。

兼家とのシーンを撮ってるときは、まだ探り探りだったんです。それに、晴明からすると兼家は身分がはっきりと上でしたから、たいする時の緊張感が違いますよね。僕自身も先輩の段田さんに対して緊張しましたし。

道長も身分は上だけど、年はずいぶん下ですから、心持ちもだいぶ違ってきます。言葉遣いこそ敬語ではないけど、道長が晴明を敬ってくれているのは伝わってくるし。映画の『スター・ウォーズ』でいったら、ルークに対するオビワンみたいな立ち位置かな? 僕自身も、柄本くんと芝居をしていてしっくりくる感じがしています。

──晴明の目に、道長はどう映っているのでしょうか?

現代社会でもそうですけど、戦はなくても、誰もが腹の中でいろいろな策略を立てて、相手を出し抜いて生きていこうとしている。だから大人になると、最初は真っ白い画用紙みたいだったところに、だんだん色がついて、どんどん真っ黒になっていく。そういうものですよね。

でも、道長はそうじゃない。彼の純粋さって失われないんです。そういう部分を、晴明は見抜いていて、きっと個人的にもすごく気に入っていたんだと思います。明らかに、今まで見たことがない才能をもった人を見る目で、道長に接していますよね。

あえて比べるなら、兼家は「自分のため」、あるいは「自分の家のため」という人でしたけれど、道長はそうじゃない。己が理想とするまつりごとのために晴明の力を頼っているんです。実は、晴明もよく言うんですよね、「国家安寧のため」的なことを。しかも、案外、本気で思っている気がする。道長には、そういう意味でも期待しているのかもしれませんね。

──第26回で、一条天皇(塩野瑛久)と定子(高畑充希)との間に皇子みこが生まれることを予言したうえで、「じゅいたしますか」と、道長を試すようなことを言いました。

晴明は、この物語の中では唯一かんでものを見ている人物でもあるんです。持ち込まれる問題はいつも自分のことじゃない。だから、どこかゲーム感覚で……。

一方、今の道長は、なにもかも自分に関わる問題で、すごくストレスフルですよね。だから、晴明や陰陽の力に頼って、提言をもらおうとする。晴明は晴明で、自分が出した提言を道長がどう受け止め、どう行動するかをよく見ている。そして、やっぱりお父さんの兼家とは一味違うね、と思っていると思います。


須麻流のことは、大切な仲間、優秀な助手だと思っています。彼がそばにいてくれると、安心するんです

──晴明の従者である須麻流すまるについて、どんな存在だと思っていますか?

「基本いつも一緒です」と言われていたんですけど、いないことが多いんですよ。そのせいか、「実は須麻流は晴明にしか見えていないんじゃないか」「あれは晴明が操っているしきがみなんじゃないか」っていう説が(視聴者の間で)あるらしくて。

確かに、彼は僕以外とは話していませんし、周りも彼を認識していない……。そういうのを自由に発想していただくのは、すごく面白いなあと思います。

でも、正体がどうであれ、晴明は須麻流に雑な扱いをしていません。式神だからと下に見たりするわけじゃない。大切な仲間、優秀な助手だと思って接しています。

須麻流のほうも、晴明の力を信じて、ものすごく尊敬してくれているし、一生この人に仕えるんだという思いを感じますね。実際、彼がそばにいてくれると、安心するんですよ、僕も。だから、もっと毎回いてくれないかなあと思ってます(笑)。

──須麻流を演じるDAIKIさんとは、どんなお話をされているんでしょうか?

特にお芝居のことで相談などはしないですけど、普通にしゃべりますよ。彼にはセリフがあまりなくて、黙って僕のそばにいるだけのことが多いので、いつもセリフに四苦八苦している僕を「大変そうだなあ」という感じで見守ってくれています。

やっぱりダンスをやっている方ですからね、その「いるだけ」っていうたたずまいがいいんですよ。ただいるだけって、案外、難しいんですけど。彼の場合、実にいいんです。