えちぜんのかみとなった父・ふじわらの為時ためとき(岸谷五朗)とともに、新天地へ向かったまひろは、宋のくすヂョウミン(松下洸平)と出会うが……。新たな展開を迎えるなか、まひろを演じる吉高由里子に役柄の変化や、ドラマの印象について聞いた。


身分の差だったり、生まれてきた瞬間から決まっている運命だったりも、まひろは理解するようになっていて……

——宣孝(佐々木蔵之介)から求婚されましたが、まひろにとって宣孝はどのような存在と考えますか?

幼いころから宣孝さんを知っていて、子どもが見る大人って、「おじさん」じゃないですか。もちろん恋愛感情は一度も持ったことがないですけど、それでも自分のことをよく知ってくれていて、為時家の良き理解者でもあって。まひろは居心地のよさを感じていたと思いますね。

佐々木蔵之介さんが演じている宣孝さんって、豪快で大胆なキャラクターで、まひろの固い頭を柔らかく、クスッと笑わせてくれるような要素があって、父親とは違う関係性を築いてきたんだな、と思いました。

——ドラマは早くも折り返し地点ですが、これまでの放送を見て、率直な感想はいかがですか?

なんだか照れくさいなぁ、と思いますね。なぜだろう? 撮影中はキャスト全員が平安時代のセットにいて、自分もその世界に浸っているので、衣装も馴染なじんでいる感じがするんですけど、現場を離れると「うわぁ、大河をやってるぅ~」みたいな感じがありますね(笑)。

あと、自分が座長であるというふうにはあまり考えてなかったのですが、オープニングの「出演」のクレジットで自分の名前が最初に出てくるときはぞわぞわっとしますね。放送が始まってからずっと。

自分が出ていないシーンについては、台本を読んでいても映像になると解釈が変わるというか、「矢印」がはっきり見えてきて、読んで分からなかった部分もすごく見えやすくなっています。

藤原ばっかりなので、私もお勉強しながら追いついています(笑)。自分が出演しているドラマで、こんなに知らないシーンが多い作品も初めてなので、すごく新鮮ですね。

——世間から支持されている実感はありますか?

大河ドラマという「枠」だからなのか、民放ドラマとは違う客層の方たちも見ているものなんだなと感じました。自分が把握している年代じゃない人たちにまで届いてるというか、たくさんファンの方がいるんだな、と。

“朝ドラ”(連続テレビ小説「花子とアン」)のころを思い出しましたね。あのときも今まで声をかけられたことがない客層の方々から話しかけられて、そういう「枠」を見続けてきたファンの人がいるんだなと、実感しました。

この間も、友達3人でバーへ行ったら、後ろの席に男女のカップルがいて、その男性のほうがずっと「光る君へ」の話をしていたんですよ。どうしても、そっちを聞いちゃって、友だちとの会話が頭に入ってこない、みたいな状況で(笑)。色々なところに届いているんだなと思いました。

――まひろは、かなり大人になった印象を受けますね。

完全に和解できたわけじゃないけれど、父を許すことで自分を許すこともできて、前を向いた関係性が築かれている感じですね。母がいない分、父と一緒に暮らす中で、時に娘であり、時に妻であるかような役割を果たしていたのかもしれません。

認めたくはないけれど認めざるを得ない身分の差だったり、生まれてきた瞬間から決まってる運命だったりも、まひろは理解するようになっていて。一緒に越前へ行って、旅をしながら自分の行く末を考えたりもしたと思います。

それにしても、行くところ行くところで、いろんなことが起きるなぁ、という感じはあります。身分も上がったり、下がったりして。各回のお話ごとに心を揺さぶられるな、と感じています。

——越前へ旅立つ前に、道長と口づけを交わしますが、どんな思いで演じましたか?

演じたときの気持ち? いやもう、とにかくミスしないように必死でした(笑)。第18回(まひろと道長がすれ違うシーン)と第21回(口づけのシーン)が同じ日の撮影だったんですよ。なので、「疲れたなー」という記憶しか残ってないですね。

ああいうシーンって、演じている私たちは「素敵に見せよう」とは思わないんですよ。スタッフさんたちが、美しく、はかなげに、切なく見せようという魔法をかけてくれるので、私たちはフラットな気持ちで。台本に書いてある気持ちに促されるように自分を持っていく、くらいしか考えてないですね。

――琵琶湖ロケはいかがでしたか。

やっぱり、外に出て撮影するのは気持ちいいなと思いました。ロケは移動も美術も大変だと思うのですが、大規模に、ダイナミックに撮ってる感じがすごく気持ちいいというか、貴重な体験でしたね。まさか平安時代の衣装を着て、撮影のために作られた船に乗って、琵琶湖に浮かぶことになるとは思わなかったので。

琵琶湖を訪れた経験はあるのですが、船で湖に入ったことはなくて、初めて入ったのが平安時代を思わせる船と、沈んだら浮かび上がれないであろう扮装で(笑)。

しかも船の縁が水面に近くて、本当にギリギリだったんですよ。風がちょっとでも吹いたら、波が入ってくるぐらい。「沈没したらどうしよう」なんて思いながら、水面に浮かんでいましたね。

でも、芸能考証の友吉鶴心先生(薩摩琵琶奏者)から「琵琶湖には弁財天(琵琶を抱えた神)がまつられているから、琵琶を弾いていれば絶対に沈まない」と言われて、その言葉にすがりながら弾いてました(笑)。

——越前編ではセットも中国風のものに変わりましたが、いかがでしたか?

ガラッと変わりましたね。赤がすごく映えるセットでした。キャストの方も中国語を話すようになって、エキストラさんも、指導の先生も、通訳さんも、もう聞こえてくる言葉が中国語ばかりなので、まるで違う作品の撮影現場に来たような気持ちになりましたね。本当に、環境がガラッと変わりました。

――まひろも中国語を話すようになります。

そうなんです! とても練習したんですけど、撮影に入ったら「まひろは下手でいいから」と言われて、「えー!?」みたいな(笑)。それは気が楽になるからいいんだけど、一生懸命練習していたんだけどなぁ、という思いもありました。


うまくいかない現実を目の前に突きつけられたような感じでしたね。また「道長に向き合え」と言われているような。

——越前編では、ヂョウミン(松下洸平)が登場しますが、彼に対する印象は?

まひろは直秀(毎熊克哉)のことをずっと引きずってきたと思うんです。「海の見える遠くの国」という言葉が、頭の中にこびりついていて……。

直秀が見たかった風景は、どんなものなのか、多分道長ではなく、直秀との思い出を振り返っている中で、越前に着いたら、自分と年が近い男の子がいた。だから普通に仲良くなりたいと思って近づいていると思うんですよね、まひろは。

「宋の国は、どういう国?」というのを単純に知りたかっただけなのに、周明は意外にも日本人だったという背景を聞いて、もっと気になって、もっと知りたいと思って……。それは興味を持った人に対しての自然な流れだと思うんです。

ところが、最後は陶器の破片を首に押し付けられて、「左大臣に文を書け」なんて脅されて……。自分が浅はかだったなぁと思ったし、まあこんなもんかって、何かをあきらめて欠落していく気持ちもあって……。うまくいかない現実を目の前に突きつけられたような感じでしたね。また「道長に向き合え」と言われているような(笑)。

——松下洸平さんとは、2021年のドラマ「最愛」(TBS系)でも共演されていますね。

あのドラマをつなげるファンがいっぱいいて、「前世でも出会ってる」と盛り上がっていますね。いっそ相乗効果で盛り上っていただきたいな、と思っていて(笑)。でも、もう3年も前なんですよ。大人になってからの3年って、あっという間なんだなと、時が経つ早さと怖さを改めて感じました。

でも、変わらないですね、彼は。大変だったと思うんです。途中からドラマに呼ばれて、なんだか民族衣装みたいな服を着せられて、中国語を上手に喋れと言われているわけだから(笑)。いっつも大変なことばっかりやっているよね、と話しました。

――道長との関係については、変化しましたか?

想う心は変わらないと思うんですけど、もうふたをしていると思います。過去の関係というか、「もう三郎とは呼べないわ」というセリフもあったように、三郎と道長は別の人だと考えるようにしようとずっと努力してきたし。

それでも、噂話うわさばなしが聞こえてくると、自分の話をされているかのように感じてしまうし、いざ会うと引き寄せられてしまって……。期待はしていないけれど、どこかで心が繋がっている喜びもあると思います。

父の為時が越前守を拝命したときも、絶対に「あの人の推挙でしょう?」と思っただろうし……。父は10年も無官で、全然仕事が取れない(笑)から「やっとかよ!」みたいな感じはあったと思いますが、道長もまつりごとに関われる立場になった、お互いの現在地が、そのことによって分かる関係性も素敵だなと思います。そして、やっぱり助けてくれた、という。

越前でもまひろは手紙を書いていたわけで、政に対する「初めての共同作業」じゃないですけど、自分の考えもちゃんと伝わって、うれしかったんじゃないでしょうか。

——吉高さんが「光る君へ」の世界に生まれていたら、まひろと仲よくなれそうですか?

うーん、つまらないかもしれない(笑)。友達になったとしても、なんかいっぱい聞きそう。「これ、どういう意味?」「これやってー」とか勉強系を全部頼んじゃうかも。楽しくて刺激がいっぱいなのは、ききょう(ファーストサマーウイカ)さんの方かなと思ったりします。

でも、今のまひろは進むべき方向が見えなくて、一番ネチネチしてる時代だから(笑)。見えたら、突っ走るからね。イライラして見てる人は、もうちょっとだけ待ってください、いまガソリンを溜めてる最中なんで……。

憧れるところは……何だろう? 勉強が好きで、文学が好きで、こんなに物語にのめり込んでいたら、台本を覚えるのがとても早いだろうな(笑)。

思ったことは何でもズバズバ口にするし、それは私も同じだけど、私と違って知性と理性があるから、こういう取材でも心に残るすばらしいコメントが出せると思う(笑)。それは、うらやましいかもしれないですね。