まひろ(吉高由里子)が越前で出会った宋の医師・ヂョウミンは実は日本人だった。まひろとの交流を重ねるが、その真意は……!? 演じる松下洸平に役柄や作品について聞いた。


セリフの半分以上が中国語だったので、しばらく頭が真っ白になりました(笑)

——大河ドラマは初出演ですが、オファーされた時のご感想は?

「いつかは!」と思っていた大河ドラマに呼んでいただけて、嬉しかったですね。共演者の方も、吉高(由里子)さん、岸谷(五朗)さん、ドラマや舞台でお世話になった方がたくさん出演なさっているので、久しぶりに会えるのが楽しみでした。

——放送を見ての印象は?

地位やくらいは、現代の僕らにとって身近なものではないですけれど、誰かを思ったり、しっしたりする気持ちは、平安時代も現代も変わらない。派手ないくさのシーンがなくとも、もっと深い情念の部分で、心をかき乱されています。

——現場の雰囲気はいかがでしたか?

1話からずっと拝見していたので、まひろの衣装姿や岸谷さんのたたずまいを見て、「あ、本物だ」って思いました(笑)。大河ドラマの撮影は、りんとして厳格な現場なんだろうと想像していたのですが、ほんわかした優しい空気が流れるアットホームな現場で、すごく安心しました。

——セットが今までとは随分変わりました。

これまでに放送されてきた景色と全然違っていましたね。異国情緒のあるセットがとても素敵でした。さすが大河ドラマという壮大なセットで、規模も大きいですし、庭園にはちょっとした池があるなど、本当に細かく作っていらっしゃって、すごく感動しました。

——台本が届いて、セリフがほぼ中国語と知った時はどう思われましたか?

びっくりして、しばらく頭が真っ白になりました(笑)。中国語とは伺っていたんですけど、セリフの半分以上が中国語だったので、これはまずいことになったなと(笑)。

——中国語はいかがでしたか?

すごく難しかったです。中国語指導の先生に伺ったら、中国語には日本語にない音節がたくさんあって、日本人が使う音は120ちょっとなんですけれども、中国語は400以上の音が存在していて。自分のセリフのところをカタカナ表記に直してくれているんですが、あくまでも目安として書かれているもので、実際には口の中の動きや音階が複雑にあるんです。

そういったものは表記できないので、カタカナで覚えようとしても無理でした。なので、セリフはとにかく音で覚えるしかなく、先生がしゃべってくれたものを録音して、細かい発音やイントネーションを、ひたすら聞きながら練習して、なんとか乗り切った感じです。

中国語の会話はヂュ仁聡レンツォン)さまとが多かったのですが、(朱を演じる)浩歌ハオゴーさんはいつも現場でどっしり構えてくださっていて安心感がありました。早口でしゃべるとイントネーションや発音がブレるので、許容範囲のなかでゆっくりしゃべったんですけど、僕が浮かないように、浩歌さんは僕のテンポに合わせて会話をしてくれたんじゃないかなと感じています。


怒りや悲しみ、迷いに関しては、20代の頃を思い出しながらやっていました

——周明という役についてはどう捉えましたか?

日本人でありながら中国人として生きていかなければいけないところに、葛藤や苦しみ、悲しさがあると思いました。

まひろや朝廷を利用しようとしているところからもわかりますが、周明は決して善人ではありません。一方でそうせざるを得ない周明の境遇や、国を背負って越前までやって来た当時の宋の人たちの苦しみも感じました。

彼らのたくらみは、日本側から見ると正しいことではないのかもしれないけれど、そういう時代があったという事実が伝わるといいなと思って演じました。

——周明にとって故郷は、日本と宋のどちらだと思いますか?

故郷がない、ということが周明にとってのコンプレックスであり、背負わなければならない悲しい運命なのかな、と思っています。日本と宋、どちらの国でも決して裕福ではなく、つらい思いもたくさんしてきました。自分が何者なのかがわからない……。そのり所の無さが周明を作り出しているような気がします。

ニコニコ笑うような性格ではないけれど、決して暗い人物でもない。一人ぼっちの周明が見せる表情に、故郷がない苦しみみたいなものが表現できないかな、と思いながら演じました。

——ご自身と周明とで重なる部分はありますか?

夢をただただ追いかけていたり、自分が何者かが分からず迷っていた時期があります。誰のせいにもできない怒りや悲しみ、迷いをぶつける矛先がないことに関しては、僕にも理解できる部分があったので、20代の頃を思い出しながらやっていました。

——お芝居で難しかった点は?

時代物を演じる時のリアリティーをどこに置くかが、すごく難しいと思いました。例えば、目上の方に対する所作や態度も今とは違いますし、日本と中国の違いもありますし。

中国の時代考証の先生に、「この時、ひざをついていいんですか?」とか、「この時のお辞儀の角度ってどれくらいですか?」とか、逐一聞きながらやっていました。

診察するシーンやはりを打つシーンでは、当時のしん​灸きゅうに詳しい専門の先生に来ていただいて、手順や問診、触診の仕方などを丁寧に教えていただきました。少しでもリアリティーにつながるといいなあと思いながら、細かなところも意識して演じました。


まひろの感じる歯がゆさに、周明は勝手に共感みたいなものを抱いたんじゃないか

——吉高さんとのご共演はいかがでしたか?

以前にドラマで共演させていただいたこともあって、とても安心して芝居することができましたし、以前とはまた違う役柄の関係性で芝居ができたのはすごく嬉しかったです。現場の空気がほんわかしていたのは、吉高さんの明るさのおかげだと思います。

すごく難しい大役を務められているのに、それを感じさせない大らかさを持っていて……。でも、芝居になった途端にグッと目の色が変わって、僕がどんな芝居をしても全部受け止めて返してくれるんです。

例えばセリフの言い方も、本番までにリハーサルで回数を重ねられるので、そのたびに探りながら、ちょっとずつ芝居を変えてみたんですね。それに対して全部違った受け止め方、返し方をしてくれて……。本当にすごい方だと改めて思いました。僕も、吉高さんが違う球を投げてきてもしっかり打ち返せるようにしなきゃ、と思いました。

——周明の目に、まひろはどう映っていましたか?

まひろは書物や芸術的な面で宋という国に興味を持っていますけれども、周明の知る宋は、心休まる故郷ではなく、牛や馬のように働かされる、厳しい場所です。幼いころから苦しいことの連続で、夢を持つこと、希望を持つことに対して臆病になってしまう。そんなコンプレックスが周明にはあると思うんです。

夢や希望を持つことは、大切なことなのに、周明にはそれができない……。だから、周明にとって、まひろは今まで会ったことのないタイプだったんじゃないかと思います。まひろ自身も思い通りにならない歯がゆさを感じているので、周明は勝手に共感みたいなものを抱いたんじゃないかなと。

——ロケはいかがでしたか?

京丹後市の琴引浜まで山を何個も越えて行ったのですが、景色がすごくきれいでした。ただ、撮影は3月上旬のとても寒い時期だったんです。撮影するシーンは夏の設定ですし、そもそも周明はたくさん着込める役ではないので、すっごい寒かったです。(のぶたか役の佐々木)蔵之介さんもいらっしゃって、みんなで肩を寄せ合って撮影しました(笑)。

日本海から、周明の育った中国は見えないんですよね。でも、海の先にあると思うと、なんとも言えない切ない気持ちになって胸が苦しくなりましました。