放送中の土曜ドラマ「パーセント」(毎週土曜 総合 午後10:00~10:45ほか)の舞台はテレビ局。主人公は念願のドラマ班に異動したばかりの新人女性プロデューサー。テーマは「多様性」「障害者の機会均等」。
「いかにもNHKらしい、まじめそうなドラマだな」と感じた人は多いのではないでしょうか。実際、率直に書かせてもらうと、エンターテインメントという観点ではやや物足りなさを感じますが、一方で「視聴者に考えさせる」という問題提起型のドラマとしては極めて高品質。何より“自省的”であり、“自虐的”にも見えるNHKの制作スタンスは一見の価値ありです。
さらに主演は現在「燕は戻ってこない」(毎週火曜 総合 午後10:00~10:50ほか)にも主要キャストとして出演中の伊藤万理華さん。「業界内での注目度が高い彼女がどんな演技を見せるのか」もポイントの1つでしょう。
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では、どんな制作スタンスが「一見の価値あり」で、伊藤さんのどこに注目すればいいのか。忖度なしで掘り下げていきます。
トップダウンの多様性キャンペーン
劇中には、「テレビ局は本当に多様性と向き合えているのか?」を問いかけるようなシーンとセリフが目白押し。
最初の問いかけは、編成部長・藤谷光彦(橋本さとし)が主人公・吉澤未来(伊藤万理華)に話した“多様性月間”というキャンペーンと、キャッチコピーの「違いを超えた、世界を作る」。しかもこれは「新会長が打ち出した」というトップダウン型のプロジェクトでした。
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藤谷編成部長には、「出演者の10%に障害者を起用する。それを大々的に打ち出すってのはどうや。イギリスのBBCでもこういう数値も目標掲げてやっとるやろ」というセリフもありました。
この言葉に植草秀樹チーフプロデューサー(山中崇)が「そんな数字に意味はあるんですか?」と返された藤谷編成部長は「堅いこと言うなや。それらしいことなんぼでも言えるやろ」と一蹴。
さらに、「今回、君(未来)の企画が通ったのもそれと同じことやがな。ジェンダーバランスを考えて『そろそろ若い女性の企画を入れとこ』ってなったんやから、そういうとこちゃんと気をつこうてるからウチはいい組織なわけやん」と続けました。
NHKなのか民放なのかはさておき、実情がまったくないのであれば、あえてこれらのセリフを使う必要性はないでしょう。なかなか覚悟の必要な自虐ゼリフであり、これが通るという意味で「NHKの制作現場はそれなりに風通しがよいのでは」と感じさせられました。
ドラマ制作を進めようとする未来自身も、「車イスっていうわかりやすい障害なのも絵的にいいかなって。ドラマなんだし」と何気なく語ってしまうシーンがあり、新編成部長・長谷部由美(水野美紀)から「彼女たちの身体や生き様にそんなペラペラの物語を貼り付けるのは失礼」と酷評されてしまいました。
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その他でも、未来は車イスの高校生・宮島ハル(和合由依)から、「『障害にめげず』とか『障害を乗り越えて』とか書いているけど、障害ある人が何かで壁を感じるときって社会のほうに問題がある。今、高校生でも習う当たり前のこと」と出演依頼を断られてしまう。
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実情を希望につなげるドラマの魅力
また、恋人の町田龍太郎(岡山天音)から、「説教やろ。こんな上から目線でもの作って。そらみんなテレビ見んようになるわ」「障害者の話になんてしたくなかったんちゃうん?」「そんなの感動ポルノやん」「テレビの世界浸かりすぎて感覚おかしなってんちゃう」などと厳しく指摘され、口論になってしまう。
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同期でアシスタントプロデューサーの蘆田孝雄(結木滉星)から、「当事者からエピソードをもらうだけが取材じゃなくて、その人たちのことを深く知らなければいけない」といさめられる。
局内プレゼンの場で「車イスの俳優使って撮影って現場大丈夫なの?」「(障害者俳優ではなく)華のある俳優使ったほうが若い人にはリーチすると思うんだけどね」などと不理解の声が次々にあがる。
これらのシーンは、「もっと変えていかなければいけないんじゃないの?」というスタッフ自らの反省であるとともに、局内への問いかけに見えました。そう見える理由の1つが、「障害のある俳優の起用」であり、「枠を設けずにオーディションを行った」こと。
つまり、「劇中だけでなく、それを手がける自分たちから変えていこう」という内外に向けたメッセージ性を感じさせられます。
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さらに「パーセント」には、障害のある人への取材を通して得たエピソードやスタッフの実感をふんだんに盛り込んだノンフィクションのような要素もあります。逆に言えば、ノンフィクションのようなリアルさがあるからこそ、いい意味でエンタメ性を感じづらいのかもしれません。
それでも自省や自虐に留まらず、主人公の姿を通して「こうしていくんだ」という希望を感じさせることが、ドラマとしての肝であり、素晴らしいところ。
未来は憧れ続けたドラマの世界に飛び込んだものの、障害や性別でくくろうとする自他の感覚に悩み、傷つきながらも、ハルたちとの出会いを通して一歩ずつ前に進んでいく……
こうしたハートフルな展開は、ノンフィクションでは得られづらいものであり、現実社会でのポジティブなアクションにつながりそうな希望を感じさせられます。
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NHKのドラマでは昨年12月放送の「デフ・ヴォイス」で、ろう者の俳優を起用し、リアリティーあふれる世界観を作り上げたことが記憶に新しいところ。
ただ「パーセント」は入社7年目で「バリバラ」のディレクターも務めた若き女性プロデューサー・南野彩子さんが手がけたことも含め、さらにその意識が一歩進んだ感があります。
くすんだ人間を演じられる元アイドル
最後に主演女優・伊藤万理華さんの演技について。
第1話冒頭、謝ってばかりのバラエティー班アシスタントプロデューサーとしての姿は、すでに「ハマリ役」と思わせるものがありました。
そこから、念願のドラマ班に異動できたことの喜び、障害者に偏った見方をしてしまうことへの戸惑い、ハルの一人芝居に泣き崩れた感動、企画を全否定されたショックと反発、みずみずしくも必死なプレゼンでの情熱……ハイテンポでグラデーションのように変わるさまざまな感情を違和感なく演じ分けられる技術の高さを感じさせられます。
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伊藤さんはすでに映画界での受賞歴を持つなど、業界内では演技力を評価された存在。元乃木坂46のアイドル出身らしく可憐ながら、どこにでもいる等身大の女性を演じるのが巧く、苦しげな表情や死んだような目など、人間のくすんだ部分もしっかり見せることができるところが評価されています。
もともと歌って踊れて芸術的なセンスもあるなど多彩なスキルで知られる人だけに、NHKで言えば朝ドラや大河ドラマへの出演も待ったなし。民放でも伊藤さん自身が望めば、ゴールデン・プライム帯のドラマ出演が増えていくでしょう。
5月25日(土)放送の第3話では、いよいよドラマがクランクイン。さらに多様性や障害者の機会均等に関するリアルな状況が描かれるはずであり、どんなことが重要で、どんなトラブルが起きやすいのか。NHK大阪放送局の制作らしいストレートでシビアなシーンが見られ、そのたびに考えさせられることは間違いないでしょう。
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コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレント専門インタビュアー。雑誌やウェブに月20本以上のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』『どーも、NHK』などに出演。各局の番組に情報提供も行い、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。全国放送のドラマは毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。