父・ふじわらの道隆みちたか(井浦新)の力を背景に、若くして異例のスピード出世を遂げた伊周これちか。だが、父の死によって後継の座を叔父・道長みちなが(柄本佑)に奪われると、続けて“ちょうとくの変”に連座。伊周は大宰だざいへ配流されることとなった。演じる三浦翔平に、自分の役柄やドラマに対する思いを聞いた。


大石静さんに「“長徳の変”からはどんどん落ちていくから、そこで華やかに散ってほしい」と言われました

——大河ドラマのオファーを受けたときのお気持ちは?

大河ドラマはひとつの目標でもあったので、お話をいただいたときは本当にうれしいと思いましたが、同時に不安もありました。誰にも正解がわからない平安時代。キャラクターを作っていく行程でいろんな史料を読んで、どれだけ正確な所作や言い回しの芝居ができるかと……。

——平安時代については、どんな印象を?

個人的には「正解がない」と思っています。現代の感覚だと「そもそも、全員親戚でしょ?それを呪い殺す?」って(笑)。道長が道隆を毒殺した、なんて説もあるし、真実は分からないじゃないですか。事件の背景など、現代の解釈では理解できないところもあって。

だからこそ、平安時代は興味深い。残された史料と、大石静さんの脚本の流れがうまくまとまっていて、とてもおもしろいと思いました。

——撮影に合流して、いかがでしたか?

リハーサルはいいですね。いろんなことを試しながら芝居を固められるし、非常に効率的だと思います。台本に書かれた感情をリハーサルですり合わせるんですが、監督さんが何人もいらっしゃるので、解釈も何通りもあって……。

その回の担当の監督さんとお芝居について話して、「このパターンとこのパターン、どっちがいいですか?」みたいにやっています。

——役作りは、どのように?

撮影前に京都を訪ね、伊周ゆかりの場所にはひと通り行きました。晴明せいめい神社を拠点に、ぐるっと回ったんですけど、近くに伊周たちが住んでいたお屋敷の通りがあって……。今は当時の面影は全く残っていなくて、ヒントになるものは少なかったです。あとは京都御所にも行きました。さすがに大宰府には行けませんでしたが、残された文献と想像で作り上げています。

お稽古ごととしては、乗馬、舞、弓……、台本に書かれていることは、全部やりました。馬にちゃんと乗ったのは今回初めてだったのですが、楽しかったですね。機会があれば、もっと馬に乗るシーンを増やしてほしいなと思ったくらいです。

大石静さんとお話しする機会があって、「伊周は、ものすごく華やかで、才色兼備の素晴らしい色男なんだけれども、“長徳の変”からはどんどん落ちていくから、そこで華やかに散ってほしい」と言われました。

そして「台本の中で伊周に関して足りないところが出てくるかもしれないけど、そこはあなたが埋めてくださいね」って……(笑)。ありがたいことですし、とても嬉しい反面、プレッシャーもありました。

——台本をお読みになって、感じることは?

一人称を「わたし、俺、我」などと使い分けて書かれているので、なぜこの場面ではこの一人称なんだろう? というところまで読み込む必要があって、なかなか大変ですね。でも、いざ現場に入って誰かとお芝居をすると、しっくりくるんですよ。それは凄いなあ、と感じています。

あとは台本に「!」と書かれていなくても、結構叫んでいます。その表現で合っているのか大石さんに聞いてみないと分からないのですが、おそらく、こういうイメージなんだろうな、と。

何となく肌感覚で「求めているものは、こんな感じかな?」とわかる時もあるんですけど、今回は平安時代ですのでね……(笑)。言葉が難しくて、共演者のみなさん、すごいなと思っています。

——10代から演じる機会って、そうそうないですよね。

ないでしょうね。14歳でしたからね、伊周の初登場は。自分でも「無理があるでしょ」と思いながら演じていましたが、みなさんそうなので(笑)。先々では、ひげもさらに生えてくると聞いていますので、どんな感じになるのか楽しみです。

これだけ長く一人の人間の人生を演じるというのは、おそらく大河以外ないんじゃないかな。たくさんの登場人物の人生がじっくりと描かれていくのは、本当にすごいことですよね。


泣きわめき、みじめで情けない感じになって……。でも人間の本質って、きっとこうだよな、と

——「華やかに散って」という大石さんからのオーダーは、どのように意識しましたか?

甘やかされ自由に育ってきたけれども、由緒正しき家で、しきたりはきちんと叩き込まれている長男ですから、きらびやかで、どっしりと、自信過剰なぐらいの言葉や行動を意識しました。

最初に台本をいただいたときは「長徳の変」の後の伊周の落ち方というのがまだ見えていなくて、どの程度「華やかに」やればいいのかな?と思いましたが、いざ現場に入ってみると、ものすごいしっの嵐の中で出世していくので「もっとやっていいんだな」と思いました。

落差を大きくすればするほど、伊周の散り際がよくなると思い、前半はとにかく優美な感じで作りました。伊周のスタート時のブーストのかかり方って、父上のおかげで異常なほどじゃないですか? 前半は、撮影していて楽しかったですね。

今は後半の撮影に入っているんですけど、涙や絶望、うらみなど、負の感情の芝居が続いていて、つらいです。

——伊周には意外と弱い部分もありますね。

かなり繊細ですね。おそらく今まで負けたことがなかったんでしょう。出世のレールに乗ったのは、父上の力のおかげ、ということに気づけない若さがあって。一度歯車がみ合わなくなると、心がポキポキ折れていく……。芝居は楽しいんですけど、精神的にはかなりつらいものがあります。

スタートのころに比べると、だいぶ落ちてますね。「あんなにきらびやかだった伊周は、どこに行ったんだろうか?」というくらい、泥にまみれている感じです。

泣き喚き、惨めで情けない感じになって……。でも人間の本質って、きっとこうだよな、と。とにかく、行くところまで行ってやろうと思っています。

——道隆役の井浦新さんとの共演はいかがでしたか?

新さんとは、同時期に民放のドラマで恋人役を演じさせてもらっていたのですが、その撮影現場で「光る君へ」の話をよくしました。新さんがクランクアップしてからは、「大河は今どんな感じ?死んじゃったから、もう台本をもらえないんだよね」なんて気にされていて(笑)。

第18回「岐路」の中で、伊周が(中宮ちゅうぐう定子さだこ(高畑充希)に対して「皇子みこを産め」と詰め寄るシーンがあるのですが、道隆とリンクさせたかったんですよ。道隆も定子に「皇子を産め」と言っていたので。

新さんに「あのシーンって、どうやりました?セリフが一緒だから、演技もかぶらせたほうが面白くないですか?」って話したら、「面白いね。それ」って。

それで監督さんに「あのシーンとダブらせたいです」と提案して、新さんのお芝居を映像で見せてもらって、それに重ねたりして。もしかしたら、大石さんはわざと同じセリフにしたのかもしれませんね。

——伊周にとって、道隆はどのような存在ですか? 

伊周は、道隆の影の部分を見ていないと思うんです。いいところしか見えてない。だから、ものすごく憧れているし、父上のようになりたいと思っているし、それが夢なんでしょうね。自分の進む道を示してくれた人と思っています。

——母親の貴子(板谷由夏)については、いかがですか。

伊周って、めちゃめちゃマザコンだと思うんですよ。大宰府へ向かう途中で母上と引き離されるシーンでも、泣きじゃくりながら貴子に甘えてますからね。何かあったときには、最終的に母上のもとへ行くんでしょう。「自分で何とかする」と言いながら、結局できずに、「助けて」って。母上のこと、大好きだと思います。

——中宮になった定子との関係について、変化はありますか?

他の人がいるときは中宮様としてたてまつっているけど、やっぱり心の中では妹、家族です。そもそも「定子が頑張れば、こっちの天下になるんだから、ちゃんとしろよ」という気持ちがあったと思います。

心が安定しているときの伊周は、中宮様として扱うけれども、自分のことでいっぱいいっぱいになると、周りも見えないぐらいの家族関係に戻っちゃうかな?というイメージでいます。

——弟の隆家たかいえ(竜星涼)については、いかがですか?

すごく自由で、型にはまらない人物なんですけど、何を考えているのか……(笑)。でも、ちゃんとしている伊周と、無鉄砲すぎる隆家という、いい両極端になっていると思います。

なかの関白かんぱくの構図だと、父上が「けんかはやめなさい」と言うと、「はい、お父様」って言う兄と、「なんでだよ」って言う弟がいて、「さすがね、伊周」「まったく、隆家は」って言う母上がいて、それでバランスを取っていたのかな。

そこに一条いちじょう天皇(塩野瑛久)に愛された定子がいて……。いろんなところで、ちょっとずつ歯車が嚙み合っていれば、この家は政権を維持できたかもしれない、と思います。


道長に許しを請うシーンの撮影をした日は、精魂尽き果てるくらい疲れました

——伊周にとって、一条天皇は、どのような存在ですか?

神のような存在ですよね。心のどこかで「仲よくしていたら、自分もその力で上に行ける」という気持ちはあったと思いますが、小さいころから一緒に遊んできた弟みたいな人だから、決して狡猾こうかつに「利用してやろう」という感じではないと思います。

それなのに、「伊周を関白にできない」と言われてからは、関係性がどんどん崩れてしまうんですよね。

断る一条天皇もつらかったでしょうけど、伊周にとって、道長に先を越されてしまったことは絶望でしたね。そんなことが起こるなんて1ミリも思ってなかったので、天皇に対しても「なんで俺じゃないんだ!」と、八つ当たりみたいな気持ちになって。

一条天皇とのお芝居には、いろんな感情があって、いちばん難しいですね。一条天皇も伊周に対しては特別な感情があると思うんですよ。愛する定子の兄、というだけではなくて、伊周という人間に対してちょっと特別な感情、ふたりにしかわからない絆があるのかなと思っています。

——道長役の柄本佑さんとの共演はいかがですか?

あまり会わないんですよね、佑くんとは。でも、佑くんは非常に穏やかで、引きこまれるような目でお芝居をされているので、伊周が怒りを爆発させる場面でも、涙ながらに許しを請うシーンでも、こちらの感情をすごく上げてくれます。

道長に許しを請うシーンの撮影をした日は、1シーンだけの出演だったのに、芝居のエネルギー量が普通の1シーンのレベルじゃなくて、精魂尽き果てるくらい疲れました。

じゅについては完全な冤罪えんざいだし、花山院に対して矢を射かけたのは弟の隆家だったし、むしろ「よせ」と言って止めていたのに……。

しかし、これまでの行いや態度に加えて、あの時に行かなければ、あの時にちゃんと止めていれば……というのが伊周には多くて。物事のタイミングが少し違っただけで、こんなにも落ちてしまうというのは、人間模様として考えると、おもしろいところではありますけれど。

——三浦さんにとって、大河ドラマの経験はどんなものですか?

大河ドラマの作り方は、自分のなかの新たな楽しみ、新たな吸収がいっぱいあるので、本当に楽しいですし、今はすべてがプラスになっていると感じます。

いま撮影しているのは中間地点くらいなので、伊周が左遷された大宰府から戻ってきてからどうなるのか……。どんな芝居ができるのか。何を求められているのか。楽しみです。

今後の展開としては、自信とプライドだけで突っ走っていた男が、すべてを失い、屈辱を味わい、泥にまみれて闇に堕ちたところから都に戻ってくるので、表情や芝居もまた変わってくると思います。ぜひ楽しみにしていてください。