字の美しいのう書家しょかとして名をせたふじわらの行成ゆきなりは、道長みちなが(柄本佑)が政権を担うようになると蔵人頭くろうどのとう抜擢ばってきされ、細やかな気遣いと確かな実務能力で道長政権に欠かせない存在となった。演じる渡辺大知に、自分の役柄やドラマに対する思いを聞いた。


自分自身が力を手に入れたいという欲求がそれほどない人物だと思っています

——今回、行成は蔵人頭となりましたが、序盤と比べて変化はありますか?

登場したころの行成は、貴族の一員ではありましたが、仲の良いメンバーの中ではいちばん年下で、自分の意見を発することもありませんでした。

道長さんをはじめ、上の世代の人たちの思惑を聞きながら、観察しながら、「自分だったらどうだろう?」と、考えを巡らせているような立場だったと思います。政治に直接かかわることもなく、その動きを外から見ていたというか。

時が経ち、自分も蔵人頭という役職に就き、一条天皇(塩野瑛久)に仕える身となって、徐々に政治の世界に参入することになって……。そこから、自分に何ができるのか、何か事件が起こったときにどういう対処がいちばん適切なのかを、すごく考えるようになったと思います。

——そんな行成の変化を、どう演じようと思われましたか?

あまり触れられてないのですが、行成が最初に登場したシーンは、12歳という設定なんですよ(笑)。ですので、序盤はその若さを意識して、周りの人たちのことをしっかり見るとか、話を一生懸命に聞いているとか、そんなことを意識していました。

今は年齢を重ねて、自分の言葉ではっきりと意見を言う「強さ」みたいなものを、もう少し出すように心がけています。例えば、それは発声であったり、ちゃんと相手の目を見てしゃべったり。そういうところで、小さいころとはまた違ったイメージで演じています。

——行成は出世してからも独特のポジションにいるように見えます。

行成は、公任きんとうさん(町田啓太)や斉信ただのぶさん(金田哲)と違って、おそらく自分の欲、自分自身が力を手に入れたい欲求がそれほどない人物だと思っています。

その代わり、自分が好きな人、信頼している人に認められたいという意欲がある。自分が政治を動かしたいというよりも、一条天皇(塩野瑛久)や道長に仕える者として、どうやったら円滑に物事が進められるかを、すごく考えていると思います。人に喜んでもらえるように頑張る、みたいな。

学問においても書道においても優秀ですが、「自分の脳内でわかることはすごくちっぽけなことで、外のものを深く追うことが大事なんだ」と考えている印象を受けます。「もっと知りたい」とか、「もっとコミュニケーションを取りたい」とか、意識が外に向かっているのだと思います。

平安時代のことは詳しくないのですが、現代社会においても何かを動かすときに、こういう人が絶対に必要だって思わせてくれる、そんな人物を描けたらいいなと思っています。バンドで言うと、ドラマーみたいに、後ろの方で支えている感じのタイプ。そういう人が物事の基盤を作る、というイメージでやっています。

——バンドだとしたら、ドラム以外のメンバーは?

タイプ的には、公任さんがベーシストで、道長さんがギタリストかな。そして斉信さんがギター&ボーカル、みたいな感じのイメージを持っています。合っているかどうか、よくわからないですけれど(笑)。


時代が激しく変化していくのを目の当たりにしながら、4人がそれぞれの立場で成長していく

——一条天皇と道長、それぞれの魅力をどう捉えていますか?

一条天皇はとても聡明で、今どういう状況になっているか、よく理解されていると思います。お若いこともあり、自分の感情が先走ってしまうところも感じられて、そこに道長さんは振り回されてしまうのですが……。行成は振り回されながらも、自分の感情を大事にする帝の姿にいとおしさも感じているのでは、と思っています。

道長さんは、正直、まだあまりわからないというか……。これは序盤のシーンを撮っているときから思っていたのですが、彼の感情、「この人が本当は何をしたいのか?」というのが読みづらくて、実はそれが魅力なのかな、と。

何を考えているのかわからない人って、すごく気になるじゃないですか。本心を知りたい、もっと親密になれば、この人の本当の思いを見られるんじゃないかって。すごく大きな思いを持っているはずなのに、それを具体的に見せない。自分のためなのか、国のためなのか、単にやらなきゃいけないからやってるだけなのか……。

そういうところを外に出さないミステリアスさが、道長さんの魅力だと思いますね。それこそ「好きな人の前では、どんな顔をするんだろう?」っていうのが気になったり。追いかけたくなる魅力がある、ということなのでしょうか。

——久しぶりに行成が道長や公任、斉信と語り合う場面がありましたが、関係性に変化はありましたか?

仲よしの4人、ほぼ同年代の4人組って、すごく青春が感じられていいなと思っているのですが、時がたつにつれて、それぞれの立場や取り巻く環境が変わり、意識も思いも変わってしまうんですよね。

斉信さんは、自分はこうなりたいというビジョンをはっきり持っている人で、それを叶えるための動きをする。必要に応じて仲間を出し抜いたり、同志ではあるけれど、時に冷酷な関係で……。

公任さんは、政治的なものじゃないところに関心が向いていて、より「人生」というものを見つめてたりしますね。政権の一員ではあるけれど、漢詩や和歌、管弦を楽しむという個人の人生を豊かにしていくことを大事にしたりする。

そして行成は、自分よりお仕えしている方の願いをどう叶えるのか、に興味があるので、そういう意味では、それぞれの進んでいく道はバラバラになっている感じがします。

でも、それがこのドラマの魅力のひとつだと思っています。すごく狭い世界、藤原家を中心とするミニマムな世界の中で生きているんですけど、みんなの思惑が違っていて、いつも近い距離にいるのに、ちょっとした感情の変化や行き違いで歴史が変わってしまう感じが、面白いと思います。

「光る君へ」では、この4人が幼少期から最期まで描かれる存在なので、いちばんかんで世の中を見ている気がします。この4人を追うことで、平安時代の政治の全体像が見えてくるのではないでしょうか。


空気感をすごく大事にしています。そのシーンの空気が、張り詰めているのか、和やかなのか、温かい中にも切なさがあるのか……

——書道指導の根本さとし先生が、渡辺さんの字を褒めていました。 

ありがたいことです。根本先生に「いい感じだよ」と言ってもらえるのは、すごく励みになっています。とはいえ、練習は全然やってなくて。字を書くシーンがあるときは、そのために数日練習させてもらって、っていう感じです。先生の字を模写しているだけなので、書のモノマネはうまくなったかもしれないです(笑)。

自分の筆跡や自分が書きやすい持ち方を忘れることが難しかったです。筆を持った手が開いてしまうのを、立てて書くようにするだけでも、すごく難しくて……。自分が持ちやすい状態なら真似しやすいけれど、自分の癖を全部とって、筆を先の方で持つような持ち方で真似るのは、ちょっと苦労がありました。

——蔵人頭として天皇の前に出るようになると、所作も変わるんですか?

所作については全く知らなかったので、所作指導の花柳寿楽先生にいろいろ教わりながら、1シーンずつ撮影してます。所作が上達している実感はないです。全部が知らないことなので。

歩き方や、座ったり立ったりは、ようやく体に馴染んできた感じもあるのですが、お辞儀する、お辞儀をやめるタイミングは、そのときの状況や相手によって全く違います。

座っている時、天皇がしゃべっている時、あるいは御簾みすが上がっている、下がっているなど、シチュエーションごとに変わるので、台本を読んでいる段階では準備できないのが大変ですね。これ、どのくらいの角度でお辞儀するんだろう?とか、まったくわからない状態で、撮影現場に行っています(笑)。

でも、当時の人が実際にどうやっていたか、リアルな平安時代を見たことがある人はいないと思うので(笑)、100パーセント正解じゃなくても「どうやら、こうだったらしい」ということで、大目に見ていただければうれしいです。

——大石静さんの脚本は「ト書き」が特徴的で、「一条の美しさに胸キュンする」といった表現もありますが、どのように受け取っていますか?

セリフで説明されるよりも「(キュンとなる)」みたいにト書きに書いてあったほうが、ニュアンスがわかりやすいので、平安という、自分には馴染みがない時代が、目に見える世界のように感じられます。登場人物の感情も見えるような書き方なので、とても演じやすいですね。

セリフにもちょっとした機微があって、それが胸にスッと入ってくる理由なのかなと思います。役者が演じやすいからこそ、見ている人も感じ取りやすいのではないかな、と。言葉を語らずに「……」だけだと、やりようがありすぎて、役者としては迷う瞬間も生まれます。

それが大石さんの脚本だと、現代的な感覚で道筋を描いてくれているので、「あ、ここに行っておけばいいのかな」と導いてくれる感じがあります。どういう意味かわからない古い言葉も出てくるのですが、「このシーンが、どういう空気になっていればいいか」というのは、すごく伝わってきます。

——脚本から、シーンの持つ温度感を感じとる、ということでしょうか?

そうですね。演じるとき、自分の場合は、空気感をすごく大事にしています。そのシーンの空気が、張り詰めているのか、なごやかなのか、温かい中にも切なさがあるのか……。

その空気感を作るためにセリフがあると思っているところもあります。だから、脚本に書かれたセリフを大事に、声にはならないト書きに助けられながら、撮影に臨んでいます。

——今後の展開で期待することはありますか?

実はロケに行ったことがないんです。セットも美しくてリアリティーがあるのですが、出来上がった映像を見たとき、ロケシーンとの交わりがすごくすてきだなと思ったんですよね。平安時代にタイムスリップしたかのような気になれたというか。だから、願わくば、ちょっとロケにも行きたいです(笑)。