どうも、朝ドラ見るるです。

今週は何といっても高等試験の巻! トラコ(とも)は再挑戦の結果、無事に合格したけど、女性を取り巻く厳しい現実に絡め取られ、一人、また一人と仲間たちが法の道から退いていきました……。

祝賀会でのトラコの演説には、そんな仲間たちの思いもしっかり込められていましたよね!(泣) こうしゅくさん(改めヒャンちゃん)、涼子様、梅子さん、そして今回は不合格だったけど闘い続けるよねさん。あと、受験をあきらめた優三さんも! みんなにも、自分の人生を自由に翔ける大きな翼がありますように!

いや〜それにしても試験、大変そうでしたね〜‼︎ 今だって司法試験は「法律系資格の最高峰」と言われてるくらいだもん、当時はさらに狭き門だったんだろうな。なあんて考えていたら、当時の高等試験が実際はどんな感じだったのか、だんだん気になってきたぞ!

というわけで、今回もお話をお聞きしてきました。NHK解説委員の清永聡さんなら、当時の高等試験についてもきっと詳しく知ってるはず!(←頼りにしております!)
それじゃ、今週もやっていきましょう。教えて、清永さん〜!

スクープ! 当時の“司法試験”の受験本を入手

清永さん こんにちは、見るるさん。ちょっと面白いものをご用意したので、さっそくこの本を見てください(ズイッ)。

見るる 清永さん、こんにちは! なんだか今日はテンション高めですね⁉︎ ……面白いものって、何を発見したんですか?

清永さん これは1942(昭和17)年に出版された『新制高等試験 行政・司法・・本試験 受験法』という本(のコピー)。つまり、当時の“司法試験”などのマニュアル本なんです。ドラマ制作の資料として探し出したものなのですが、当時のことがいろいろ詳しく書かれていて面白いんですよ。

見るる え、戦前の司法試験のマニュアル⁉︎ それってめちゃくちゃレアじゃないですか! でも、そもそも、当時の試験と、現代の司法試験、どこが違うんですか?

清永さん まずは名前ですね。この本のタイトルにもあるとおり「高等試験」という名称でした。かつては「高等文官試験」、略称“高文”とも呼ばれました。この試験のうち行政科が、いわゆる「キャリア官僚」の試験に相当します。合格すれば当時の言葉で「高等官」、いわば“高級官僚”への道が開けたわけです。
そして「司法科」というのが、いまの司法試験にあたります。現代の司法試験は独立した試験なのですが、戦前は「キャリア試験」の一部という位置づけだったんですね。ちなみに、司法科の試験に合格すると、男性ならば弁護士、検察、裁判官のどれかになることができたのです。

見るる なるほど〜。

清永さん ところで、この本の面白いのが、このあたり。出願から受験票が届くまでの手順や試験前日の心がまえ、試験会場に出ている出店のラインナップなんかも書いてあるんです。

増永遙『新制高等試験 行政・司法・豫備・本試験 受験法』「第五章 出願から受験合格までの実際」のページ。こちらの内容は、「心の動揺を少しでも避けたい試験会場でまごつかないために」、左上には受験票の見本も載っている。

見るる え、出店が出てたんですか?

清永さん はい。牛乳、寿司、プリントなど、さまざまなものが売られていたようです。食べ物はまだしも、試験当日にプリントを買ってどうするんだろうとは思いますが……(笑)。

見るる 確かに(笑)。でも、そんなことまで書いてあるなんて親切ですね。そんな本が、当時出版されていたなんてびっくり!

清永さん 当時、国家公務員になるということは、今よりはるかに地位が高かったと想像されますから、人生の一発逆転をねらって受験する人も多かった。そのために、このような本が出版されたのでしょう。
国にとっても次世代の国家を担う人材を選ぶ大切な試験という位置づけだったようです。この本によると、試験会場は「貴族院と衆議院が使われた」と書かれています。国会が試験会場になるというのは、いまでは考えられません。

見るる 確かに! それだけでも重要さが伝わってきます。……やっぱり、狭き門だったんでしょうね?

清永さん 倍率もこの本に載っていますよ。寅子のモデルであるぶちよしさんが合格した昭和13年の出願者数は2942人。うち口述試験も合格したのは242人ですから……12倍くらいの倍率ということになります。
当時、高等教育を受けた人の数が今よりずっと少ないことを考えると、これはやはり高い倍率と言えそうです。

見るる 三淵さんの合格は本当にすごいことだったんですね。それで、試験の内容はどんなものだったんですか?

清永さん この本によれば、筆記試験の回答はすべて論述形式でした。当時はマークシートなんてありませんからね。それから、口述試験の問答集なんていうのも、この本に載っていました。

見るる 本当だ! なになに……「占有とはどんなことですか」「占有は所持であります。実力的支配であります」……なんか、ドラマで練習してたのとも似てますね。あ、もしかして、久保田先輩が勉強会の時に持ってた本って、この手の本だったのかも?

同じく、『新制高等試験 行政・司法・豫備・本試験 受験法』より。口述試験にそのまま役立ちそうな「問」と「答」に分かれてのやりとり、つまりQ&Aが詳しく書かれている。

清永さん はい。ドラマでも、この本の記述を参考にしてシーンや小道具が再現されていますからね。ちなみに、優三さんのように浪人して何度も試験に挑戦している人のことは“ふるつわもの”として紹介されています。しかしその中でもやはり、受からず諦めた人は多かったでしょう。

見るる ふ、ふるつわもの! 言葉のチョイスがすごいです! しかし合格の人がいれば不合格の人もいる。それが受験……。おかげさまでだいぶ、寅子たちが受けた高等試験についてわかってきました。清永さん、ありがとうございました!

……で、実は見るる、もう一つ気になることがありまして。今週はハシゴしちゃいました!

「その2  寅子、先輩2人と一緒に日本初の女性弁護士に!実際に、三淵さんのほかに2人いた?」はコチラ

参考:増永遙『新制高等試験 行政・司法・豫備・本試験 受験法』(大明堂書店/1942年)

清永聡(きよなが・さとし)
NHK解説委員。1970年生まれ。社会部記者として司法クラブで最高裁判所などを担当。司法クラブキャップ、社会部副部長などを経て現職。著書に、『家庭裁判所物語』『三淵嘉子と家庭裁判所』(ともに日本評論社)など。「虎に翼」では取材担当として制作に参加。
※清永解説委員が出演する「みみより!解説」では、定期的に「虎に翼」にまつわる解説を放送します。番組公式サイトでも記事が読めます。
2024年4月22日放送の『みみより!解説「虎に翼」解説(2)にぎやかな法廷と「権利の濫用」』はこちらから(NHK公式サイトに移ります)。

取材・文/朝ドラ見るる イラスト/青井亜衣

"朝ドラ"を見るのが日課の覆面ライター、朝ドラ見る子の妹にして、ただいまライター修行中! 20代、いわゆるZ世代。若干(かなり!)オタク気質なところあり。
両親(60&70代・シニア夫婦)と姉(30代・本職ライター)と一緒に、朝ドラを見た感想を話し合うのが好き。