藤原ふじわらの道隆みちたか(井浦新)の長女として、一族の権力強化の使命を帯び、一条いちじょう天皇(塩野瑛久)に入内じゅだいしたさだ。教養と機知に富んだ彼女は、女房の清少せいしょう納言なごん(ファーストサマーウイカ)とともに華やかな宮廷サロンを主催した。演じる高畑充希に自分の役柄や、ドラマの内容について聞いた。


定子に関しては、本人がめちゃくちゃ強かったというより、環境が強くさせてしまった部分もあると思う

——大河ドラマは「軍師官兵衛」(2014年)以来ですが、オファーを受けた時のお気持ちは?

NHKドラマ自体が久しぶりだったので、大河のオファーをいただけるんだと嬉しかったです。大河ドラマといえば、いくさがあって男性たちの争いがあって盛り上がってというのが定石ですが、平安時代を舞台に、女性の人生を描き、かつ大石さんが「セックス・アンド・バイオレンス」とおっしゃっていて、新しいチャレンジが面白そうだなと……。

それに、朝ドラ「ごちそうさん」のプロデューサー内田ゆきさんから何年越しのご縁で声をかけていただけたのがすごく嬉しくて……。 ぜひ参加したいなと思いました。

——脚本を読んでのご感想は?

大石さんはなんて情熱的でスマートな感覚をお持ちなんだ! と思いました。史料が少ない平安時代を、こんなにドラマチックな物語のなか、どのキャラクターもとっても素敵に描いて、やっぱりすごい方だなと改めて思います。何より、ゆりちゃん(吉高由里子)と(柄本)たすくさんを愛していらっしゃる、それをひしひしと感じていました。

——演じるにあたって事前に調べたことはありますか?

スタッフの方が貸してくださった書籍を読みました。 でも、清少納言が描く定子って、良くも悪くも“った”状態なので、実際どういう人だったかは、つかみづらい部分もあって……。なので、大石さんの書かれる定子を追いかけて、やらせてもらっています。

——大石さんの描く定子はどういう方ですか?

序盤の定子は結構ポップというか、すごく頭がいい人ですし、ユーモアもあって、ある意味カラッとした部分のある人だと思います。一条天皇とも子ども同士の仲の良さが恋愛に発展した感じで。

それが、中盤になると、どんどん窮地きゅうちに追い込まれていくので……。楽しいシーンは序盤の間に減っていって、その後はずっとつらい、みたいな。たまに清少納言と楽しい時間を過ごすけど、基本つらい時間が去年末の撮影から続いてますね。

なんか湿気がすごいっていうか……。ドロドロはしていないんだけど、サッパリもしてない。サッパリしていない役は久々だな、と思いながら、楽しく取り組んでいます。

——歴史好きには定子ファンが多いですが……。

ファンが多い役は怖いんですよね。「こんなんじゃない」とか言われたらどうしようって、今からもう震えあがってます(笑)。

——当時の女性が置かれた立場については、どう感じますか?

思ったより今と変わらないのかなって思います。今も男女平等とはいえ、やっぱり女性って、どこか“全部”持ってないといけないような節がある気がしていて。キャリアも生活も、全部持ってやっとスタート、みたいな。男性より強さが必要な面もあるという印象です。

大石さんが描かれるこの時代、女性の方が真の強さを秘めていないとやっていけない、荒波を越えていけない感じは、現代に通ずるものがあると思います。特に定子に関しては、本人がめちゃくちゃ強かったというより、環境が強くさせてしまった部分もあると思うので。

自分のサロンをはじめ、華やかな部分を仕切るインテリジェンスを持ちつつ、でも一条天皇に対する本当の愛情があって……。登場シーンが限られるなか、あっちもこっちも感じることが多く、すごく難しかったです。

——衣装をお召しになった感想は?

着物だと、みんなが座ってるだけで、幼いころ、ひな祭りのひなだんを見た時のようなウキウキがあって、すごく素敵だと思います。こんな美しいお着物を着られることはこの先あるかと思うくらい幸福なんですけど、重さがすごくて……(笑)。すそが長いので前を歩く人の着物を踏まないようにとか大変な部分もあります。

あと、かつらが一番重いです。ずっと首で支えている状態なので、朝から晩までつけていると、次の日使いものにならなくなります。肩こりと腰痛との闘いですね(笑)。出番の少ない私でさえそうなので、ゆりちゃんはもっと大変だろうなと思います。

——セットはいかがですか?

位が高くなると御簾みすがあって、とにかく相手と目を見てお芝居ができないんです。一条天皇と清少納言とは目を見て話せますけど、他の人とはだいたい御簾ごしなので……。

この間、佑さんとやっと会話するシーンがあったんですけど、それも御簾のわずかな隙間から見えるか見えないかみたいな感じでした。なので、位が高ければ高いほど、すごく孤独な時代だったんだろうなと思います。

——一条天皇役の塩野瑛久さんの印象は?

塩野君とは十代の時に共演していて、今回、10年以上ぶりに再会しました。
私たちはラブ担当だから、楽しくやりたいなって。塩野君が、「ていファンなんだ」と言ってくださって、お芝居でも愛情を前面に出してくれて、助けられました。

でも、彼は誰よりも位が高い天皇を演じているので、私にも増して、みんなとのお芝居が御簾ごしなんですよね。だから、共演者との心の距離がなかなか縮めづらいと……。唯一定子が横にいて、なんでもない話をできる相手だったのに、私がそろそろクランクアップなので……。

「孤独が辛いんだ」とおっしゃっていて、私はどうしてあげたら良いのか……(笑)。ここからしばらく、また一人で頑張らなきゃいけないので、弟を見守るような気分で応援してます。


お着物も大きいし、体の接触もなく、いかに親密な感じを出すかっていうのは、すごく難しいチャレンジ

——入内するとき、定子は両親(道隆とたか)のような夫婦像を描いていたのでしょうか?

どうでしょう。 そのあたり、もっとドライなのかなとも思うんです。 仲むつまじいことは当たり前ではないってことも分かっているし……。

多分、一条天皇に対しては、「いい夫婦でありたい」という冷静さより、単純に生き物としてかれ合ってた、情熱的に何があっても離れられない関係だったのかなと思います。それに2人を引き離そうとする力が毎回いろいろ大きいので、余計それが燃え上がらせて、ロミジュリ現象になっていたのかなとも思います。

でも、平安時代の難しさというか、今だったら抱きしめたりキスしたりと愛情表現をしやすいですけど、お着物も大きいし、体の接触もなく、いかに親密な感じを出すかっていうのは、すごく難しいチャレンジで、皆さんと相談しながらやってます。

——所作などのご苦労は?

とにかく肌が見えないんですよね。足も見えないですし、手も指先まで生地があって、手先が見えるのも恥ずかしいみたいな感じで、物をつかんだりするのがすごく難しいです。慣れるのに時間がかかったんですけど、そこにひんが宿っている感じもして、素敵だなって思います。

あと、この時代のセリフや言い回しが難しいんですよね。私、一言一句を覚えるのが苦手なんですけど、今回は一言一句間違えないようにしないと何を言ってるか分からなくなるので、セリフには苦労しました。

——ファーストサマーウイカさんの印象は?

ウイカちゃんとは去年、民放ドラマで共演していて、友達役だったんです。だから気心知れた感じなんですけど、わざとなのか、年上の彼女が、カメラが回っていない時から私のことを「定子様ていしさま」って呼んで、丁寧な敬語で接してくれて……。

普段から定子と清少納言みたいな関係性にしてくれたので、カメラ前だから「よいしょ」って気持ちを上げなきゃいけない感じもなく、それはウイカちゃんのおかげと思ってます。

——琴を弾くシーンはいかがでしたか?

練習しました。難しかったです。でも、一条天皇のりゅうてきがすごいなあと。お琴ははじけば音が鳴るけど、笛は吹いても鳴らない時があるので。お琴とか笛とかって、あんまり触れることがないので、撮影中でしたけど、音色と空間にひたれるのはやしの時間でした。

——雪遊びのシーンはどうでしたか?

ありましたね。キャッキャしてました、あの頃は。現代劇だったら雪を丸めて投げたりになりますけど、平安時代なので、雪に触ってるのか触ってないのか分からない感じで、動きは男性陣に任せて、私はただ楽しむ担当で……(笑)。

思えば清少納言との“こうほうの雪”あたりが一番幸せでした。定子と言えばサロンだけど、サロンの描写は2シーンくらいしかなくて。もうちょっとサロンやってたかったなっていうのはあります。