ききょうは、“あえて空気を読まない”したたかさを兼ね備えている
――出演オファーが来たとき、どんなお気持ちでしたか?
いつか出演できたらと夢みてはいましたが、まさか誰もが知る清少納言役で、とは思ってもみなかったので仰天しました。でも特別大きな不安はなかったです。
というのも、正式オファーの前に、脚本の大石静さん、制作統括の内田ゆきチーフ・プロデューサー、チーフ演出の中島由貴さんとお話しする機会があったんです。思えばそれが“面談”だったのかもしれないのですが、女性ばかりの楽しいおしゃべり会みたいな時間でした。
なので、ある程度、私のキャラクターを知った上で役をいただけた、つまり、私自身と大きくかけはなれた役柄ではないのだろうと思えたんです。むしろ長い撮影の期間、1000年前のお話の中でどんなふうに生きていけるのか、楽しみの方が大きかったですね。
唯一心配だったのは、私の名前です。よく「なんだ? このよくわからないカタカナの名前は! 競走馬か!?」って言われているので(笑)。やっぱり歴史作品には合わないかもと思って、必要なら名前を漢字やひらがなにもできます! とお伝えしたほどでした。
でも、蓋を開けてみたら、安倍晴明役はユースケ・サンタマリアさん! このままで、ぜんぜん大丈夫でした(笑)。キャスト発表もユースケさんと一緒のタイミングだったので、その場から浮かずにすんでありがたかったです。
――衣装がすごく似合っています。平安女性を演じての感想は?
うれしいです! じつは抜群の平安顔でして(笑)。この顔に産んでくれてありがとう! と心から両親に感謝しました。昔から着物が似合うと言っていただくことが多かったんですが、そういうところもハマったという喜びがあります。
ただ清少納言は、あんまり美女ではなかったらしいんですよ。資料によっては、縮毛だったとか、見た目が良くないから顔を隠していたとか。そういう悪口を言われていたらしくて、その点でもちょうどいいと自分では思っています(笑)。
――清少納言には、どんなイメージを持っていましたか?
清少納言は、一般的なキャラクターイメージがかなり明確な人物だと思っています。役をつかむために、『まんがで読む 枕草子』などの歴史漫画をいくつか読んでみたんです。
それで気づいたんですが、清少納言ってだいたいキツそうな顔に描かれているんですね。ちょっと私の顔に似ているんですよ。なるほど、私にオファーがくるはずだと合点がいきました(笑)。
また『枕草子』を読むと、彼女の情景描写のセンス、才気煥発ゆえ悪口の切れ味も抜群で、文章から滲み出るエネルギッシュさが、平安時代の日常風景を鮮やかに想像させてくれます。
ただ、自身のことは卑下したり恥ずかしがっていたりと、奥ゆかしく書いていたりするんですね。“推し”(憧れの対象)の定子のことは自慢しても、自身のことは少し謙遜して書いてみたりと、バランス感覚もすごい。
さらに「光る君へ」で描かれるききょうは、“あえて空気を読まない”選択が出来るしたたかさを兼ね備えているんだと脚本を読んで感じました。
切れ者ゆえ空気を読む能力はもちろんあって、読んだ上でわざわざこの表現を選んでいる、「周りの空気に合わせて己を殺すくらいならブチ壊した方がマシ」という強さや自信を感じます。
これからドラマでも描かれると思いますが、家庭をほっぽりだして宮中に入り、中宮定子の女房になることを選んだ人でもあります。家庭よりキャリアを優先したわけで、バイタリティーはあるけどちょっと利己的な人かも。
でも、心から尊敬している定子様にとっては、賢くて優秀な部下でもあるんです。人を蹴落とすのではなく、自分のやりたい道や夢を追求するタイプ。クセの強い人ではありますが、ある種のキャリアウーマンの先駆けで、すごく尊敬できる人ですね。
『枕草子』には定子様や一族とのエピソードが数々ありますが、一貫して彼女たちの素晴らしさ、栄華を極めている様子しか描かれていません。史実では没落し、やがて定子も早くして亡くなりますが、その辺りの描写はほぼありません。
悪口はもちろん、悲しい描写がないのは、愛する人たちのもっとも輝いていた頃を残したいという清少納言の愛とプライドを感じ、読みながら何度も涙しました。感極まります。
私がききょうを演じることで、皆さんに「そうそう、そこが清少納言のいいところだよ」って思っていただけるよう頑張りたいですし、『枕草子』を読んでみようって思っていただけたらうれしいですね。「このシーンは、『枕草子』のこの部分か!」みたいな楽しみもあると思います。
――平安時代が舞台ということについては?
衣装は美しいけど、ものすごく重いです。逃げられないようにするためなんじゃないかと思うくらい(笑)。そう考えると、こんなふうに重い衣装に押さえつけられ、部屋の中に閉じ込められていた当時の女性たちは何を思っていたんだろう、と考えちゃいますね。
部屋から見える植物や空、星や月を見て、歌を詠んだり恋人を待つくらいしかすることないよなぁって(笑)。
でも、そこそこ上級の貴族たちは、外の世界に出たいなんて思わなかったのかもしれません。勉学に励んで、広い世界を見たい、可能性を試したい! なんて思う女性は少なかったのかも。
すると、まひろもききょうも、定子様も、平安貴族の世界ではすごく稀有な存在だったんでしょうね。あるいは、もっと位の低い人たちは何を考えて生きていたんだろう? そんなことを、あの重い衣装とかかつらをつけ、セットに入ることで初めて考えました。
ききょうは、まひろに無意識のうちに救われているんですよね
――ききょうとまひろ、それぞれどんなキャラクターだと捉えていますか?
ドラマのききょうは、清少納言の一般的なイメージをベースとしつつも、愛嬌と優しさと自信がより濃く出ている気がします。あと、少し鼻に付きます(笑)。裏表のない性格ではありますが、定子に仕える時と、まひろといるときで違う一面が見られるのも、このドラマならではかなと。
一方で、主人公を際立たせるために、まひろと対になるキャラクターでもあります。イメージでいうと、清少納言が「陽」で、紫式部が「陰」ですね。
例えば、「あの人ってほんとダサいよね〜」って、友達とお茶しながら話すのが清少納言。逆に、口には出さず自分のノートにつらつら恨み言を書き綴っていくのが紫式部(笑)。アウトプットの仕方が、陰陽で異なるという感じかな。
2人の発想や着眼点には、じつは近いものがあったと思うんですよね。紫式部と清少納言は史実では面識がなかったとされていますが、もしドラマのように直接出会っていたら、意気投合していた可能性もあるし、親友とまでは言わないまでも、すごく気の合う友達にはなれたかもしれない。その分、敵対するとすごくバチバチしそうですけど(笑)。
――ききょうは、まひろのどこを気に入ったのでしょう?
まひろは位の低い家の娘なので、貴族界では本来ならば積極的に仲良くなろうとは思ってもらえない人かもしれない。でも、ききょうは人のことをよく見ていて、彼女のポテンシャルの高さを見抜いたんでしょうね。
「まひろさんは面白いし、私の言っていることが理解できる賢い人」だとすぐにわかったんだと思います。
まひろは、倫子やさわなど女友達が何人も出来ますよね。一方で描写はないけど、たぶんききょうは友達少なそう(苦笑)。「周りの女子はみんな頭悪くて話が合わないから、私は男と“推し”が居ればいい」とか思ってそう。
そんな、陰気キャラに見えつつ意外と友達付き合いの上手いまひろが、「来る者拒まず、去る者追わず」のスタンスで、ききょうのことも受け入れてくれる。だから、ききょうは「あ! 私の話をこんなに楽しそうに聞いてくれる! やっぱりこの子は違うんだわ」って思っちゃうんですよ(笑)。
つまりききょうは、まひろに無意識のうちに救われているんですよね。本人は気づいていないかもしれないけれど。そんな中で、「あなた知らないの?」「連れてってあげるわよ」とか、先輩風を吹かせて言っているんですけどね。
ききょうにとっては、自分の腹を見せる行為は最大の信頼だと思うんです。定子様にも見せない、まひろにしか見せないききょうが存在している。たぶん、そうさせる包容力みたいなものが、まひろにはあるんだと思います。