「虎に翼」の脚本を担当するのは、吉田恵里香さん。

来週から始まる放送に先立ち、吉田さんがこのドラマに込めた思い、主人公の“トラコ”こと猪爪寅いのつめともに託すもの、そして寅子を演じる伊藤沙莉さんに期待することなどを語っていただきました。


夢だった朝ドラで、初の“現代が舞台ではない”ドラマに挑戦します!

“朝ドラを書く”というのが脚本家になってからの一つの夢だったので、とても光栄です。お声かけいただいたのは、2年前。「虎に翼」の制作統括でもある尾崎裕和プロデューサーと一緒に作ったドラマ「恋せぬふたり」(2022年1〜3月放送)で向田邦子賞をいただいた年のことです。2つ同時に夢が叶ってしまって、この事実が現実味を帯びてくるまでに、若干、時間がかかりましたね(笑)。

最初は、オリジナルの現代劇でいこうと思っていたんです。これまで現代を舞台にしたドラマしか書いてこなかったし、歴史的な知識という面でも自信がなかったですし。でも、しばらく考えた結果、やっぱり“朝ドラといえば”という、あの時代……戦前から戦後にかけての時代を舞台にすることを選びました。

不安がないといえばうそになりますが、ある意味、貴重な機会でもありますし。今も、日々勉強しながら、実に心強い「虎に翼」チームの皆さんに助けてもらいながら、脚本を書き進めています。まだまだ執筆中かつ勉強中ではありますが、朝ドラのお陰で、描けるものの幅が広がった感覚があります。

そして、主人公のモデルとなる人物を探す中で出会ったのが、初の女性弁護士で、のちに女性裁判官になるぶちよしさんでした。彼女は、時代の変化とともに法律もまた変わっていった時代、いろいろなことに翻弄されながらも、強い意志で法に携わる仕事をし続けた女性です。そんな女性の姿を朝ドラで描くことには、意義があるなと思いました。

もうひとつ、三淵さんを選んだ理由に、さまざまなエピソードからうかがえる彼女の“人としての強さ”にかれたということがあります。というのも、私は、“おしとやかで物わかりがいい”女性ではなく、世間からは“生意気で腹が立つ”と言われるような主人公を描きたいと思っていたからです。

気が強くて、賢くて、言いたいことをはっきり言って、悪い奴ではないけどすごくいい人かというと疑問が残る、みたいな……。三淵さんご本人がそういう方だったということでは、決してないですよ! ただ、「虎に翼」の主人公の猪爪いのつめとも、トラコについては、信念を持って、そういうキャラクターに描いています。


生意気で気が強い寅子。でも伊藤沙莉さんなら嫌な感じにならない

そういう強い主人公に惹かれるのは、きっと、私自身の性格によるものでしょうね。私は実は、感情が顔に出てしまって嘘がつけないタイプ(笑)。そのくせ、周りの空気を読んで無理しちゃうというところもあり……最後まで自分を貫く強さが足りないんですよね。だから、気が強くて自己肯定感が強いキャラクターがうらやましい。私がトラコに込めているのは、そんな願望かもしれません。

そんな主人公を演じるのが伊藤沙莉さんに決まった時には、「やった!」と素直にうれしかったですね。というのも、やっぱり、朝ドラの主人公である以上、寅子には、視聴者のみなさんに愛されてほしい。でも、このまま私が書きたいように書いていくと、もしかしたら生意気すぎるかも……と、多少、不安にも思っていたからなんです(笑)。

その点、伊藤さんならばっちりですよね! だって、ドラマや映画に伊藤さんが出ているとなんだかうれしくないですか? 私が好きな作品によく出演されているということもありますけど、「この人になら信頼してトラコを任せられる」、そう思える俳優さんです。

そして、その感覚は、私だけではなくて、間違いなく制作チーム全体で共有しています。寅子役が伊藤さんに決まったことで、「この作品はきっとここまでいけるぞ」という、自信みたいなものが出てきたのを、はっきりと感じましたから。

まだそれほど親しくお話する機会はないんですが、現場で時々お見かけする伊藤さんは、いつもとても楽しそうにしておられて。その姿を見ると、ちょっとクセのある寅子のことも、きっと楽しみながら演じてくださるに違いないと、安心して強気に筆を進められます(笑)。


寅子が立ち向かう壁──ほぼ毎回「信じられない!」と言いたくなるかも

でも、なぜ、そんなに強いヒロインが必要なのか? を、別の角度から言うなら、このドラマの舞台である昭和初期から戦後にかけての時代に、寅子たち女性が置かれている立場が、信じられないようなものだからです。

現代の私たちからすると高すぎる、厚すぎる壁が、彼女たちの前には立ちはだかっています。それと闘わなくてはいけないトラコは、簡単に泣いたりできないし、引き下がれない──。その必然性から生まれた人物像だとも言えるかもしれません。

具体的には、三淵嘉子さんの生涯に沿って、当時の法律のことを調べながら脚本を書き進めているのですが、調べれば調べるほど、昭和初期の男女の格差には驚いてしまいます。

ドラマでも、特に最初のうちは、女性からするとほぼ毎回「信じられない」って言いたくなる出来事が出てきます。「当時はこんなことが許されていたの?」のオンパレードになるかもしれません。でも、もっと深く考えていくと、「今もそんな価値観は全然変わってないな」という気づきがあったりもする。

もちろん、これは朝ドラだし、エンターテインメントなので、朝から、あんまり難しくしたいわけではありません。わかりやすく、それでいて右の耳から左の耳へスーッと抜けていってしまわないようフックは効かせつつ、このドラマを描いていきたいと思っています。

“リーガルエンターテインメント”とうたっていることもあるので、その部分も楽しんでもらえるようにしたいですし。それらのあんばいを工夫しながら、これからも筆を進めていきたいと思います。半年間、応援、どうぞよろしくお願いいたします!

よしだ・えりか
1987年生まれ、神奈川県出身。脚本家・小説家として活躍。主な執筆作品は「DASADA」「声春っ!」(日本テレビ系)、「花のち晴れ~花男 Next Season」「Heaven?~ご苦楽レストラン」「君の花になる」(TBS系)、映画『ヒロイン失格』、『センセイ君主』など。NHK「恋せぬふたり」で第40回向田邦子賞を受賞。
ステラnetでは、コラム『脚本家・吉田恵里香の「グッときた日記」』を連載中。