関白・藤原ふじわらのよりただの息子にして、漢詩・和歌など文化面に秀でた貴公子・公任きんとうみなもとのとしかたや藤原ただのぶ、藤原ゆきなりとともに、ゆくゆくは「ごん」(一条天皇の時代に活躍した4人のぎょう)に列せられる人物だ。そんな公任を演じる町田啓太に話を聞いた。


公任にとって、道長は信用がおける人。斉信には突っ込みたくなり、行成は可愛い弟みたい

――公任は当時の政界のサラブレッド。どのような印象をお持ちですか?

子どものころに「百人一首」で遊んでいて、漢字で書かれた彼の名前は目にしていました。今回は、「これを『きんとう』って読むんだ」から始まって。その後、できる限り彼について調べていったんですが、調べれば調べるほど面白い人物だなと感じています。

やはり父親が関白ということで将来を期待されていて、実際に能力もある人ですね。りゅうてきを奏でたり、漢詩を読んだりと文学・音曲に造詣が深いので、そういう文化的なところが伝わればと思っています。発言も大胆で、思ったことをしっかりと口にする人だったようですね。大石静さんの脚本にも、スパイスが効いた発言だなと思えるところがあるので、それをできるだけ表現できたらという思いです。

とはいえ、初登場のころは公任とみちなが(柄本佑)が19歳、斉信(金田哲)が18歳くらいで、行成(渡辺大知)は13歳くらいですからね。みんなが集まっているときは、何だろう、「男子校の会話」みたいな(笑)。そんな一体感を出せるといいなと思いました。みんな育ちはいいんですけれど、それぞれのキャラクターの違いが際立つように。

――道長、斉信、行成とよく一緒にいますが、公任の目には3人はどのように映っていたのでしょう?

道長はボーっとしていてマイペースですが、人としてものすごく魅力を感じていたのだと思いますね。いつもはっきりと物申す公任が、道長に対してはすごく優しいし、寛容なんです。公任とは別ベクトルではっきりした人なので、逆に信用がおけるというか。

一方、斉信に関しては、彼の見栄っ張りなところにどうしても突っ込みたくなるんでしょうね(笑)。あまりにも核心を突くから、斉信がかわいそうにもなります。でも、何でも言い合えるという意味ではお互いに大事な存在だったのかなと思います。

行成はだいぶ年下で、2人だけで話す場面が多くないので、まだ距離感を探っているというか……。道長、斉信と一緒に可愛かわいがっている感じでしょうか。弟のような存在というか。いろいろ頼んだらやってくれるし、字もうまいし(笑)。

――現場での皆さんはどんな雰囲気ですか?

やはり、金田さんは率先してコミュニケーションをとってくださいます。歴史がすごくお好きで、柄本さんもすごく歴史好きですから盛り上がっていますね。僕も「へぇぇ、そうなんですか!」みたいな感じで、積極的に加わっています。

例えば「ふみ」の話。今で言うラブレターですが、そんな話もしたり。思い返してみると、10代のころはそういう話って大好物だったよな、って(笑)。「誰々が誰々から文をもらったらしい」なんて、現代でも話題になるし、平安の世だとそれが出世にも関わってくる。そんな会話もしつつ、忙しく勉学にも励んでいたというのが、なんだか面白いなと感じます。

平安時代が再現されたかのようなセットの中で、あの扮装をして演じていると、不思議なことに当時の感覚なのか、ゆったりとした時間感覚になるんです。何かと忙しい現代と違って、当時はいろいろなものに余裕があって、そのゆったりとした時間を大切にしながら、芸術にいそしんでいたのかもしれない。そんなことを考えたりもしています。

 

打きゅうの撮影は結構大変でした。烏帽子焼けもしました(笑)

――第7回では、打きゅうのシーンもありました。馬に乗りながら片手でつえを扱っていて、筋肉痛になりませんでしたか?

筋肉痛は意外と平気でした。お馬さんたちが本当にいい子たちで、本当に賢くて、うまく僕たちを“乗せて”くれました。実際、彼らは多くの時代劇に出演している、(僕にとっては)先輩たちなので(笑)、共演してもらえてうれしかったです。

ただ、あのシーンは朝からロケ地に入って1日で撮る予定だったのですが、結局2日間かかってしまいました。結構大変な撮影でしたね。真夏の炎天下だったので、烏帽子えぼし焼けもしました(笑)。

――打きゅうのあと、公任は「女は邪魔にならないのがいい」と言っていましたが。

そうですね。公任にとって女性は色恋の対象ではないんです。そのときもはっきり言っています。「大事なのは恋とか愛とかじゃない。いいところの姫に婿に入って……家の繁栄を守り、次の代に継ぐ」と。どこまで本心なのかはわかりませんが、このセリフを言いながら「この時代だからなんだろうな」と思いました。

現代の人が聞いたら「ん?」となると思いますが、公任は嫌味なくそれを言っているし、ほかの人たちも「それが世の常識」だと思っている。視聴者の皆さんにそういう時代だったことがちゃんと伝われば、今後のまひろと道長の切ない関係性もよりわかっていただけるだろうなと思いながら演じました。

「あのシーンは、紫式部が書いた『源氏物語』のある情景を想起させる」と考証の先生に教えていただいたので、僕自身も興味深かったです。わかる方は「あっ!」と気づかれるかもしれません。

――公任のまひろ評は、「地味でつまらない」というものでしたね。

そう言っていましたね(苦笑)。でも、父親である藤原ためとき(岸谷五朗)のことは知っているけれど、直接本人と関わっていなくて、彼女のいでたちだけで判断した評価なんですよね。どこかで、ちゃんとお話しする機会が来るかもしれません。

ちなみに『紫式部日記』には、「公任が酔って彼女を訪ねていって『若紫』と呼びかけた」という記述もあるようですし、公任は文学などの才能がある人をものすごく好きだと思うので、これからまひろとどんな関係になっていくのか……。それを大石静さんがどのように表現されるのかはわかりませんが、「地味」と評した相手の才能に接したときに、公任はどう思うのかな? 楽しみです。

権力を握った道長を柄本さんがどう演じるのか、今からゾクゾクします!

――まひろ役の吉高由里子さん、道長役の柄本さんの印象は?

吉高さんとは連続テレビ小説「花子とアン」(2014年)で最初にご一緒したのですが、あの時から本当に変わらず、ナチュラルな人付き合いをしてくださるので、安心して現場にいられますね。今作では吉高さんとの共演シーンが多いわけではないのですが、現場に向き合うスタンスも「花子とアン」のときから全然変わっていない気がします。

冗談半分にいろんなことを言われるんですけれど、そこにすごい気遣いがあるというか、現場がなごむ冗談であったり、さらっとうまいツッコミを入れてこられたりする。独特の感覚というか、「すごいなぁ」「いつも何を感じているんだろうな?」と思います。

でもお芝居に入るとスパッとスイッチが入るので、こちらは「えっ!? 今まですごく笑ってたじゃん!」って思うんですけど(笑)。その不思議な魅力は変わらないし、時々ゾクッとするような迫力を感じていて。面と向かってお芝居をするシーンはまだないので、今後そういう機会が来るのを楽しみにしています。

一方、柄本さんはもう道長にしか見えないですね。もともと「不思議なオーラを持っている方」だと思っていたのですが、お芝居はすごくリアリティーがあり、空気感も大事にされていますね。優しくて朗らかなんですが、ものすごく芯がある。そういった部分が物語の後半、どんどん道長が権力を握っていったときにどう出てくるのかと思うと、ちょっと今からゾクゾクするというか、本当に早く見てみたいです。

――今回の大河ドラマの見どころは?

戦国時代や幕末のような乱世とは違い、戦があるわけではありません。でも、それと同じぐらいか、それ以上に権力争いを人間ドラマとしてヒリヒリ・ドキドキしながら見ていただけると思います。それにプラスして、やっぱり平安の世ですから、けんらん豪華でみやびな世界観も見どころです。道長とまひろのもどかしい恋愛模様もすごく楽しんでいただけると思います。

平安文学がお好きな方には、「このシーンやこのセリフは、あの歌をもとにして作ったのかな?」などと当てはめてもらうと、より深く楽しんでいただけるかもしれないですね。

これまで2回、幕末が舞台の大河ドラマ(「西郷せごどん」「青天をけ」)に出演させていただきましたが、今作はまったく異なる平安時代が舞台ですから、その世界観をちゃんと体現できるように、藤原公任という人物を体現できるように、雅の世界を生きられたらいいなと思っています。