寅子(伊藤沙莉)とともに明律大学の女子部に通う大庭梅子は、結婚し、3人の子供を育てながら法律を学ぶ意欲ある女性。寅子たちに対してはどこか“お母さん”的な立場で、いつもにこやかに、場を和らげ、まとめてきました。

ところが第4週では、そんな梅子が実は家庭では辛い立場に置かれていたことが判明。梅子が法律を学ぼうと決意したきっかけも描かれました。そこで、梅子役の平岩紙さんに、笑顔の裏に隠された梅子の思い、演じるうえで大事にしたことなどを伺いました。


深刻な場面でも、どこか明るいところを残したい

――第4週では、梅子がなぜ法律家を目指そうと思ったのかが明らかになりました。これまで描かれてこなかった一面を演じてみて、どうお感じになりましたか?

夫が妻に対して上から目線なのは時代のせいもあると思いますが、それを差し引いても、旦那さんの態度はやっぱりひどいと思いました。

当時でも仲のいい夫婦はいたはずで、大庭家の場合は夫婦仲が冷めきっているんですよね。梅子さんとしては3人の子どもたちには愛情があるけれど、長男がどんどん旦那さんに似てきて、冷たい目で見てくる……すごく悲しい状況だなと。

ですから、梅子さんが普段暮らしている大庭家でのシーンの撮影は本当に空気が冷たくて、「ここで梅子さんは生活しているのか」と思うと悲しくなってしまいました。家族から無関心でいられるのって、一番つらいと思うんです。まだケンカしたり、怒られたりするほうがましなんだなと、演じてみて思いましたね。

学校にいるときの、いつもニコニコ人の世話を焼いている梅子さんの姿とあまりにもギャップが大きくて、見えないところで頑張っていたんだ、と胸が詰まりました。

――弁護士になること、法律を学ぶことのモチベーションが、離婚して親権を取るためだった、というのはとても切ないです。

当時の法律だと、離婚したら自分だけが家を離れて、息子たちとは暮らせないんですよね。でも、それを「何とかしよう」と法律を学ぶ決意をするのは、すごいことじゃありませんか?

普通なら諦めてしまうと思うんです。旦那さんが弁護士だから、その意識を持てたということはあるかもしれませんが、梅子さんって本当はすごく強い女性なんですよね。

――その旦那さん、弁護士の大庭徹男(飯田基祐)が明律大学に講師として現れるシーンは、いつもとは違うピリッとした空気がありました。

梅子さんとしては辛い場面なんですけど、実は演じているときはちょっと楽しかったです。脚本がちょっとコメディーチックになっていて、「スン」がキーワードだったので。これまでにも、いろんな人のスンが出てきているじゃないですか。ついに梅子さんにも、スンが回ってきたなって(笑)。

――ちなみに、梅子については、どんなスンにしようと思われました?

耳鳴りみたいな音が「ピー」って鳴っているようなイメージですね。実は現場で監督がその音を出してくれたので、すごくイメージしやすくて、自然に顔がスンとしました。

このシーンも含めて、梅子さんが今どんな状況にあるかが明らかになっていく中で、暗くなりすぎないよう、演技のさじ加減が重要だと感じていました。

やっぱり見てくださっている方が、朝から重たい気持ちになりすぎるのも、ちょっと違うんじゃないかなと。深刻な場面ではあるけれど、どこか朗らかな、明るいところを残せたらいいなと思いました。

たとえば、授業に来た旦那さんから「帰りは遅くなる」と言われて、梅子さんは「はい」と答えるんですね。

そのときの梅子さんは、表情も口調も家にいるときのモードなんですけど、旦那さんを見送って女子部のみんなのほうを振り返るときは、もう明るい、いつもの梅子さんがいて、「甘いものでも食べに行きましょうよ」って言ったりする。

胸に迫る真剣なシーンが生きるのは、やっぱり普段が明るいからだと思うんですよね。

――あのシーンは、いちばんつらいはずの梅子が逆に周囲を気遣うところが、梅子らしいなと感じました。

そうなんですよ。一生懸命「行きましょうよ」って誘うのに、みんな梅子さんの気持ちを思って顔が暗いんです。それを明るくさせたいと思ったら、「ね! ね! ねー!」と、どんどん語尾がエスカレートしてしまいました(笑)。

あのシーンの撮影が終わった後、寅子役の(伊藤)沙莉ちゃんが「悲しい、悲しい」って言っていたのが印象的です。

第3週はよねさん(土居志央梨)の過去が明かされましたが、梅子さんだけでなく、女子部のメンバーそれぞれが何かを抱えていることが描かれるので、みんな自分のことのように痛みを感じるのかもしれません。


「そこに梅子さんがいる意味」を忘れないようにしました

――先ほど、お芝居の加減のお話もありましたが、梅子を演じるにあたり、何か大事にされていることはありますか?

最初にどう梅子さんを演じようかなと考えたとき、自分の素の声よりもちょっと高めの声にして、テンションも少し上げようと思いました。

「作りすぎていないかな、大丈夫かな」と思って監督に相談したら、「梅子のキャラクターがよく伝わってきたし、いいと思いますよ」と言ってくださったので、じゃあ自信を持ってやろうと。

――声高めにしたいと思われたのは、なぜだったんですか?

女子部5人でいる時のバランスですね。落ち着いた雰囲気の涼子さん(桜井ユキ)、反抗期みたいなよねさん、可愛い末っ子みたいな香淑さん(ハ・ヨンス)、前向きで一生懸命なトラちゃん。

その4人の中で、梅子さんはどういう“居方”がいいのかなと考えたとき、やっぱり、年上だけどみんなが接しやすい明るさがあるといいなと。

あと私、あの時代の空気感がすごく好きなので、着物に合った声、扮装にあった声を出したいとも思いました。当時のモノクロ映画の女優さんが喋る、ちょっと高くて丁寧で、おっとりとした独特の口調ってあるじゃないですか。それが着物姿にぴったりくると思っているので、意識しました。

あと、「そこに梅子さんがいる意味」を忘れないようにしましたね。同級生たちと思い切り楽しんでいるときはあっても、なぜこの大学に通っているのか――「子どもの親権をとって離婚する」という明確な目標があるということを疎かにしてしまうと、キャラクターがブレてしまう気がして。

たとえば授業中のシーンであれば、ただノートをとるだけでも、眼差しの真剣さ、気持ちのあり方は大事にしたいなと思いました。それは見る人には伝わらないかもしれませんが、自分の中で抜け落ちないように気を付けたつもりです。

――最後に、視聴者の皆さんにメッセージをいただけますか。

まず脚本がとても面白いですし、女子部のみんなのチームワークの良さや、それぞれが事情を抱えつつも、懸命に前へ進んでいくところが伝わればいいなと思いながら撮影しています。あの時代、はかなくも強く生きようとするみんなの姿から、何かを感じてもらえたらうれしいです。

【プロフィール】
ひらいわ・かみ
1979年11月3日生まれ、大阪出身。NHKでは、連続テレビ小説「ちゅらさん」「ゲゲゲの女房」「とと姉ちゃん」、大河ドラマ「新選組!」、「これは経費で落ちません」「心の傷を癒すということ」「大奥 Season2 幕末編」など。近作にドラマ「侵入者たちの晩餐」「ブルーモーメント」、舞台『ウーマンリブ Vol.15「もうがまんできない」』ほか。