その高貴さと凛としたたたずまいで、女性のあこがれの的である家族の令嬢・桜川涼子。寅子(伊藤沙莉)と同じ明律大学の女子部に入学、全くタイプの異なる同級生たちと切磋琢磨することになる涼子を演じるのは、桜井ユキさんです。

華族の女性を演じるにあたっての役作りや、寅子たちと出会ってからの涼子の変化などについて、桜井さんの思いを伺いました。


涼子は寅子に感化されて、みるみる人間味を帯びていきます

――華族の令嬢である涼子ですが、桜井さんはどんな人物だと感じましたか?

自我を内に押し込めざるをえない家庭環境で育った人だと思います。クランクイン前、華族について番組側から資料をもらったり、個人的に映画や本を見たりしたのですが、現代の私たちからすると「よく生活できていたな」というくらい制限が多いんです。

たとえば、歯を見せて笑ってはいけない。男性にこういうことを言ってはいけない。こういう話をしてはいけない……。かなり細かく教育されていたことを知って。たぶん異性と接する機会もほとんどないところからの学生生活だったと思います。なので、女子部法科に入学してきた段階では、割と内向的なんですよ。

――なるほど。でも、涼子は海外留学の経験もありますよね。いわゆる箱入り娘ともまた違うのかなと思ったのですが……。

実は桜川家って、お父さんが婿養子で、涼子の母である寿子さん(筒井真理子)が実質は家を継いでいるんです。

劇中で細かい描写はありませんが、たぶん寿子さんは、娘の“見せ方”を考えて――何かを学ばせたいというより、華族の一人娘として「こういうふうに見せたい」という思惑があったから、涼子を留学させたんじゃないかなと想像しています。

寿子さんから日焼けしたことを叱られるシーンがあるんですけど、外見も教養も含めて、トータルに常に完璧であってほしいという母の強い願望を感じました。そこには世間に向けたイメージ戦略があったのかなと。もちろん純粋に、娘のために、という気持ちもあるとは思うんですけどね。

――自分を押し込めて、母のイメージ戦略の下で生きてきた涼子が、女子部法科でとも(伊藤沙莉)と出会います。撮影現場の雰囲気はいかがですか?

すごくあいあいとしています! 撮影に入る前は、もうちょっとピリッとした、かたい雰囲気の中撮影されているのかなというイメージがあったんです。でも、全然違いました。女子部は、わりとみんな年齢が違うんですけど、毎日楽しく撮影しています。

それは、沙莉ちゃんが常に現場を盛り上げてくれていることが大きいですね。毎日、朝から晩まで撮影しているのに、ずっと元気で。キャストもスタッフもそんな沙莉ちゃんに活気付けられているから、いい空気の中で撮影できているんじゃないでしょうか。本当にありがたいです。

――涼子も、寅子からいい影響を受けていそうですよね。

そうですね。徐々にトラコ(寅子)に感化されています。表情がどんどん豊かになっていくなと演じていて思いますし、お人形さん的な感じだったのが、みるみる人間味を帯びていく。もっと自分の感じていることを口にしていいんだ、もう少し上を目指していいんだと、気づき始めたんだと思います。

――桜井さん自身が伊藤沙莉さんについて、影響を受けたり、素敵だなと思ったりしたエピソードはありますか?

そうですね、座長として素晴らしいんですけど、いい意味で座長を振りかざさないというか、みんなと同じラインで楽しく話していらっしゃるところでしょうか。矛盾しているようですけど、座長らしいところと、座長らしくないところの塩梅が絶妙なんです(笑)。

締めてくれるところは締めてくれますし、各シーンで「ここはこうなんじゃないか」という意見もされます。でも、そこで私たちが気を遣ってしまうことが全くないんです。そこは彼女の本当に素敵なところですね。


知らないことを掘り下げていく作業が楽しかった

――そんな涼子を演じる上で、大切にしたいと思ったことはありますか。

いっぱいあるんですが……見た目で言うと、所作が一番大きいですね。涼子の場合、着物の所作と華族の所作の両方に気を付けないといけないんです。

芝居上、笑うシーンが出てきますが、さっき言ったように「歯を見せて笑ってはいけない」という縛りがあるので、出来るだけ口を閉じて笑うようにする。あと、指を開かないようにする、というのもありました。

着物の所作プラス、より細かい所作がたくさんあるので、難しくて。分からないことは、都度、所作の先生にお聞きしつつやっています。

私は普段、役と自分を切り離すことはあまりしないんですけど、今回はあえて意識的に切り離して演じるようにしています。そこは、今までのお芝居とは大きく違いますね。

――それは、ご自身と涼子さんがあまりにも違うからでしょうか?

違いますし、自分の中にあるものを役に投影することって、気持ちの面ではできるんですけど、体の動きに関しては、私自身とは切り離さないとやはり厳しいなと。日々勉強です。本当に。

――他の役にはない、涼子ならではの大変さがあるんですね。

学ばせていただくことは多いです。着物を着てのお芝居を、私はこれまであまり経験していなくて。過去に少し日舞を習っていたんですけど、間が空くと動きを忘れてしまうので、もう一度日舞で習ったことを勉強し直しました。あとは、涼子だけ英語の勉強もありましたね(笑)。

もちろん大変でしたけど、不思議と楽しかったです。学校で歴史の授業はあっても、その時代の女性がどういうふうに生きていたかとか、それこそ華族が何を思っていたかなんて、習わないじゃないですか。

知らないことを掘り下げていく作業が楽しかったから、これまでにないくらい朝から晩まで本を読んで勉強したことも、全く苦になりませんでした。結果、本で学んだこと、映像で見た知識が、日々の撮影に活かせているなと自分で思えたのは良かったですね。

――最後に、この作品の魅力は、どこにあると感じますか?

登場人物みんなが本当に素敵で、1人残らずちゃんと背後にその人生が見えるところです。

それとトラコの魅力も大きいですね。沙莉ちゃんが演じることによって、ひとつひとつの場面がとても輝いて見えるし、なんだか応援したくなるんですよ。物語として面白くて、次が気になるのはもちろん、見ている側が勇気をもらえる作品だなと思います。

特に私は、これからトラコが女子部から明律大学の本科に進んでいく中で、また一段階アクセルがかかって、みんながまっすぐに進んでいくあたりは、すごく見応えがあると感じていて。視聴者の方にも、女子部メンバーと一緒に「今日も1日頑張ろう」と思ってもらえたらうれしいですね。

【プロフィール】
さくらい・ゆき
1987年2月10日生まれ、福岡県出身。NHKでは、連続テレビ小説「ちむどんどん」、第46回放送文化基金賞演技賞を受賞したよるドラ「だから私は推しました」、「満天のゴール」など。近作にドラマ「ONE DAY〜聖夜のから騒ぎ〜」「ジャンヌの裁き」、映画『この子は邪悪』『君は放課後インソムニア』ほか。