藤原道長の父であり、己の出世と家の繁栄のためなら手段を選ばない “剛腕”右大臣・藤原兼家。演じる段田安則に役への思い、共演者の印象、作品の見どころなどを聞いた。
●お公家さん役は、京言葉で演じてみたかった
──藤原兼家はどういうキャラクターだと思いますか?
あんまりいいやつだとは思わないですよね(笑)。しかし、自分ひとりが出世したいのではなく、家全体を繁栄させ続けることが第一目的なんです。そのためには少々悪どいことや荒っぽいこともするという……少々でもないか(苦笑)。まあ、そうやって家を守ってきたお父さんなんだろうと思っています。
史実を調べると、妾(正妻ではない妻)の数も、子どもの数も(ドラマで描かれるより)もっと多いようですし、描ききれないほどエピソードも豊富。だから本作では、策略家で、自分や息子たちの地位を引き上げるために悪巧みを厭わない……という、わかりやすい面が強調されているのかなと受け止めています。
──演じるにあたって役作りは?
当時の国のトップ近くにいた人なわけですからね。やはり威厳を……僕にはあまりない威厳をなんとか出そうと、皆さんの力を借りながら必死にやっています。と言いつつも、どんな人物であっても多面的に描くのが大石静さん作品の特徴です。政敵や息子の前ではともかく、妾の前では弱気になったり甘えたりもしています。
でも、無理しているというわけではなくて、おそらくどちらも本当の姿。人間誰しも一面的ではないでしょ? 僕だって、真面目そうにも見えますが、そうでないところもあるし(笑)。そういう人間味を出していきたいですね。
──演じるために、準備されたことはありますか?
彼らの屋敷「東三条殿」辺りを歩いて、当時の人たちの生活に思いを馳せたり……。驚いたのは、ドラマでものちに描かれますが、花山天皇(本郷奏多)が出家した元慶寺の場所です。僕は京都市出身で、花山中学校を出たんですが、元慶寺はその母校の近くにあって。だから、台本を読んで「これって……⁉︎」と、ご縁にびっくりでした。
出身地ゆかりの方を演じるのは感慨深いですね。“お公家さん”役は一度やってみたいと思っていました。残念なのは、セリフがみんな標準語なところ。おそらくは、明治時代以前は、京の貴族はみな京言葉でしゃべっていたでしょう。でも、そんなことをしたら、ほかの俳優さんたちがものすごく大変になっちゃうでしょうけど(笑)。
●兼家が死んでいくシーンを撮影するのが楽しみ
──平安時代の面白さはどこにあると思いますか?
平安時代は……実はよくわからないです(笑)。教科書に載っていたなあと思い出すことがあるくらいで、まったく想像がつかない。国というかたちも、あったのかどうか。今でいう「国」とは全然違っていたのかもしれない。
──兼家の悪いところ、ずるいところに何か感じるものはありますか?
そもそも、彼のことを悪い人とも思っていないんだけどね(笑)。ただ、あの人は実際、どんな人だったんだろう? 何を考えて生きていたんだろう? と想像するのは、ドラマを見るときも、演じるときも楽しいですよ。だけど、人間って原始時代からあまり変わらない。この時代の貴族も現代に生きる人間も。そう思っています。
やっぱり、策略家を演じるのは楽しいです。ただのいいお父さんよりずっと。天下をとるためにクーデターを企てたり、人に毒を盛ったり……。俳優としては“楽しい”芝居ですね(笑)。
──右大臣・兼家とともに朝廷の「三巨頭」である関白・藤原頼忠(橋爪淳)、左大臣・源雅信(益岡徹)との悪巧みも楽しそうです。
そうですね。みな、年齢が近いこともあって、同年代のやり取りの楽しさがあります。僕(兼家)は、どんどん出世していきますからね。ちょっと気持ちいいんです。出世すると、身につける衣装も変わるんですよ。下級貴族のほうが着るのは楽なんですけど、でも、どうせ着るなら、派手で偉い人の衣装のほうが気持ちいいですからね(笑)。
──出世欲旺盛な兼家から見て、帝(天皇)とはどんな存在だと思いますか?
どう思っているんでしょうねえ。権力の象徴でありながら、出世のために利用する対象だと思っているのかもしれないですね。不都合があればすげ替えてしまえ! 不出来であればいいように操ってしまえ!という。でも、それは案外、今も昔も変わらないんじゃないですか。権力争いのためにうごめいている人たちにとっては。
──大石作品には数多く出演されていますが、大石さんからお声かけは?
「もう段田さんが主役だと思って書いているわよ!」とか、「(ストーリー上で)兼家が死んじゃったらもう書く気が起きない!」とかって言われましたが、どこまで本気なんでしょうねえ(笑)。まだまだ先は長いですから、頑張っていただきたいと思います。
──ご自身の役で「これぞ大石節!」みたいなシーンはありましたか?
やっぱり、妾にベタベタ甘えさせたりするところは、大石さんっぽいなあと思いますね(笑)。
──これから撮影が楽しみなシーンは?
死んでいくシーンですね、これはもう絶対。あれほど権勢をほこった人物でもね、最後はかわいそうにどんどん弱っていく。それを演じるのが楽しみですね。
●兼家がいちばん信頼を置いている息子は……
──子どもたちについて、それぞれどんな印象をお持ちですか?
真面目な長男・道隆(井浦新)、猪突猛進の次男・道兼(玉置玲央)、ぼやっとしているけど全体がよく見えている三男・道長(柄本佑)。残念ながら娘の詮子(吉田羊)とはうまくいっていないけど、妾・藤原寧子(財前直見)との子である道綱(上地雄輔)も出てきますしね。
演じる俳優さんたちは、皆とても真面目でいい印象ですね。いい芝居をしているなあと思います。それに道隆役の井浦さんは初めてご一緒しましたが、井浦さん以外は、これまで共演したことがある方々で気心も知れている。芝居のやりとりが楽しいです。うちのチームワークはいいと、父は勝手に思っています(笑)。
──兼家が息子の中で最も信頼を置いているのは?
それは道長でしょうね。こいつに託したいと思っているのが伝わってきます。ふつうなら、そこは長男で、となるんでしょうが、どうも兼家は道隆のことはいまひとつ評価していないような気がします。かわいそうなのは道兼ですよ(苦笑)。いっぱい悪いことを彼に押し付けて……。それは悪いなと思ってしまいます。
──まひろ役の吉高由里子さんや藤原為時役の岸谷五朗さんとは初共演だそうですね?
そうなんです。意外にも共演したことがなくて。岸谷さんとはいつか共演するだろうと思っていたんですが、まさか、まだだったなんて。それに吉高さんとは、本作でも1回しか一緒のシーンがないんですよ。だから、兼家は主人公とほとんど顔をあわさない、言葉もほとんど交わさないまま死んでいくという‥…(苦笑)。
──今作のいちばんの注目ポイントはどこですか?
逆に、皆さんにぜひお聞きしたい。台本を読んでいると、ものすごく面白いんですよ。自分のシーンもそうだし、兼家とほとんど絡まないまひろ周辺のストーリーもとても面白い。でも、それが組み合わさってドラマになった時にどうなるのか。やはり視聴者の皆さんに決めていただきたい。早く皆さんに感想をお聞きしたいですね。
自分の役についてだけで言えば、兼家の策略家ぶりは見ていただきたい。あと、いわゆる戦国時代のようなチャンチャンバラバラにはならない大河ドラマですから、そこがいちばんの見どころになるんじゃないでしょうか。