藤原道長の姉で、えんゆう天皇に入内じゅだいしたものの、父・かねいえの謀略が発覚し、みかどから疎まれることになったあき。演じる吉田羊に役への思い、共演者の印象、作品の見どころなどを聞いた。


●詮子は、愛し愛される家族を作りたかったのかも

――大石静さんが描いた詮子の印象は?

詮子さんと言えば、兄上たち顔負けの気の強さと政治的才覚を持った、女帝とも裏の政治家とも呼ばれる、とにかく強い女性というイメージですが、今作の詮子さんはいい意味で揺らぎのある、なんだか素直でかわいい、裏表のないまっすぐな人という印象を受けました。

個人的に感じたのは、彼女がずっと「家族愛」を求めていたのではないかということ。幼いころから政治的な役割を持たされ、父親のかねいえから当たり前のように愛されることもなく、結果的に夫である円融天皇からも憎まれることになり……。

演じていると「孤独だな」と感じる瞬間が結構あるんですよ。一方で、弟の道長や息子のやすひと親王(のちの一条天皇)を溺愛しますし、先のことになりますが、一条のきさき・さだ亡きあと、定子の子を養育した記録もあるので、自らの孤独感を惜しみない愛情に置き換えることで「愛し愛される家族」を作りたかったんじゃないのかな、と考えました。

――そんな詮子は、吉田さんにはどう見えますか?

信用できる人だなと思いますね。正直で嘘がつけない人ですし、基本的には家のために、嫌いだけど父のために、そして弟や息子のために身を呈して尽くしていく人ですから、すごく愛情深い、愛おしい人だなと思います。


●京都の街を歩きながら詮子を感じました

――事前に準備されたことはありますか?

(現代語訳の)「おおかがみ」や「しょうゆう」「まくらのそう」など、いくつか参考文献を読ませていただいたのと、2泊3日でゆかりの地巡りをしました。藤原家の氏神をまつる春日大社からスタートして、京都を本当に東西南北歩いて、上賀茂神社、下鴨神社、さらに詮子が参詣したとされるお寺や神社をくまなく回りました。

いわ清水しみず八幡宮、滋賀の石山寺、阿弥陀如来の伝説が残る真如堂とかんこつ堂、彼女が眠るとされる宇治陵……。あと、住んでいた東三条殿の跡地とつち御門みかどの跡地の碑を見て、「ここかー!」と(笑)。当時のものは残っていませんが、平安京であるとされる地域を南から北まで歩いてみて、「遠いな」とか、「このあたりに住んでいたんだ」とか、思いを馳せました。

時間をかけて歩くからこそ見える景色みたいなものもあって、歩きながら当時の彼女――ほとんど宮中から出なかったと思いますけれども――の歩幅に合わせて歩いているような、そんな気分になりました。

――撮影に入ってから、苦労されたことはありますか?

この時代、段の上り下りは必ず左足からなんですよ。でも私は普段、何をするにも右からスタートすることが多くて。段の手前で「あ、まずい!」と、長袴の下でズズズっと歩幅を調整することが何度かあって、所作指導の先生に注意されています(苦笑)。

それと、当時は指先、爪を見せないことがよしとされていたので、手を合わせるときも、なるべく着物の袖で指先が見えないように隠すのが常なんですよ。今の感じで手を合わせてしまうと、「手が見えています。隠してください!」と言われてしまいます(笑)。

――詮子は位が高いので、いちばんいいお召し物では?

そうなんです。いちばん良い物で、いちばん重たい(笑)。十二じゅうにひとえと言いつつ、撮影用のものは肌着を入れてマックスで8枚重ね。それでも相当重たいですし、「私の肩はどこ?」みたいな感じですね(笑)。髪も床につくぐらいの長さでかつらを作っていますので、肩は落ちるし首は重いし、つい前傾姿勢になってしまいます(笑)。

実際、自分一人じゃ着られません。衣装さんたちが手伝ってくださってようやく着られるものだから、当時も女官さんたちにたくさん助けていただきながら過ごしていたんだなぁ、と。着物を一枚一枚重ねながら、その時代に、詮子に入っていく準備ができるという感覚はありますね。


●自分でも驚くほど感情的になったシーンは……

――平安時代の女性たちの印象は?

高い身分の世界では、権力闘争に燃える男たちの陰で、女性たちが暗躍し、政治において女性の存在が一目置かれていた時代でもあったなと思っています。女性たちもそれぞれ自分の「役割」をきちんと理解していて、まだ幼くして入内ですとか、良家に嫁ぐことこそ「務め」「誇り」といった考え方など、この時代なりの女性のステイタスを自ら進んで享受しようとする姿は、現代の価値観で見ると、なんとも複雑な気持ちになります。

――大石静さんは、吉田さんの「哀れと強さに激しく揺れる芝居がすごい」とおっしゃっていました。

プレッシャーでしたね(笑)。おそらく第4回の、父・兼家が帝に毒を盛ったことに対して、詮子が激高するシーンを指していると思うのですが、撮影しながら大石さんがどこかでご覧になっているんじゃないかと(笑)、かなり緊張感を持って演じさせていただきました。

演じていると、もちろん怒りマックスなんですけれど、不思議と怒りよりも悲しみのほうが増してきた自分がいたんです。政治を自分の意のままにするためなら娘婿である帝にさえ毒を盛るのかという、父への絶望と悲しみの感情が沸き上がってきて、自分でもびっくりするぐらい感情的なシーンになりました。

――兼家役の段田安則さんとの共演はいかがでしたか?

舞台でも何度かご一緒していますが、今回もお芝居に圧倒されています。段田さんが体現される「父」兼家には、詮子への愛情は微塵も感じられませんし、私へ向けるまなざしの奥には思索と計算が透けて見え、本当に悲しい気持ちになります。

かと思うと、カメラが止まるとお茶目で、子供たちを相手に軽口をたたく気のいいお方。普段の段田さんが温かい方だからこそ、兼家スイッチの入った段田さんがなお恐ろしく、憎たらしいです(笑)。詮子は父に従うことを拒否しますが、皮肉なことに、詮子は兄弟の中で誰よりも自分の役割を理解しているし、のちに発揮される彼女の政治的才能は父親ゆずりなんだろうなと思いますね。

――詮子の弟・道長に対する気持ちと、演じている柄本佑さんの印象は?

道長は、詮子にとって素直に心を開くことができる存在です。小さいころから、ほかの兄弟とは違う気だてのよさと優しさがあって、それが本当に大好きで。大人になって位を得てからも、彼にだけは姉弟として本音を話せる唯一の人物だったと思います。

そんな道長に、柄本さんはぴったりです。穏やかで柔和で物腰柔らかく、ああ道長のこういう所が詮子は好きだったのだろうなあとつくづく思わされます。元々、大好きな俳優さんなので、個人的にはすごくテンションがアガっております(笑)。

本当に自然にいてくださいますし、ちょっとコミカルに描かれているシーンも意図的に面白くするのではなく、「道長のキャラクターとして」、絶妙なところを体現してくださる。お芝居中、うっかり笑いそうになる瞬間が何度もあります。

――円融天皇役の坂東巳之助さんとの共演はいかがでしたか?

歌舞伎俳優さんならではなのでしょうか、セリフ回しがまるで歌のように美しくて、佇まいもまた洗練されていて高貴で、まさに円融天皇でいらっしゃいました。

詮子は円融に拒絶されて、「二度と顔を見せるな」とまで言われてしまうのですが、それでも生涯愛するのは彼ただ一人。あまりにも切ないのですが、巳之助さんの美しくやんごとなき佇まいに、「この方に一生お仕えしたい」という思いにさせていただきました。すごく助けていただき感謝なことでした。

――吉高由里子さん演じるまひろとの接点は、ほとんどありませんね?

そうなんです(苦笑)。スタジオでお会いしたのも一度きり。ただ、お芝居の集中力が高い方ですし、いつも気負わずにいてくださる彼女のお陰で現場が和みます。周りのスタッフさんも変に緊張せずにお仕事されているなぁ、という印象で、現場の緊張と緩和のバランスをうまく取られる方だなあと思いますね。

――最後に、作品の見どころを教えていただけますか?

大石さんの脚本によって、平安時代の光と影がありありと、自由かつ躍動的に描かれています。合戦や武将といった雄々おおしい大河ドラマとはまた違う、おごそかな頭脳戦の、時に残酷なしたたかさをたたえる人間たちの怖ろしさに震えながら楽しめるドラマです。大石さんが得意とする恋愛要素もあり、幅広い方々に楽しんでいただけるのではないかなと思っています。

平安時代の人々の思いわずらいは、権力争いに出世競争、流行はやり病や占星術、家族、恋愛に噂話……と、現代とたいして変わらないなと思います。魅力的かつ個性的なキャラクターたちの生きざまを、是非応援していただきたいと思います。