「NHK健康チャンネル」というウェブサイトがあります。そこには、病気や医療関連の記事のほか、ダイエットの工夫のための記事もあれば、ダイエットによる健康被害への警鐘記事もあります。
近年、過剰なダイエットのネガティブ面が知られるようになったことで、ダイエットは「ボディーメーク」と言い換えられていますし、「プラスサイズ・モデル」「ボディーポジティブ」といった、ダイエットとは相反する概念が注目されたりもしています。
今、「痩せイメージ」をめぐっては、メディアによる自己吟味が進んでいます。メディアが、「痩せイメージ」を不用意に広げることで、過剰なダイエットによる健康リスクを高めたり、人々の思考にネガティブな影響を及ぼしたりしているのではないか、と検証しているのです。
実際、メディアと人々の「痩せイメージ」「痩せ願望」との関係については、近年、いくつもの研究が行われ、その結果、確かにメディアによる身体イメージの発信は、人々の自分の身体への評価や食生活などに、一定の影響力を持つことがわかっています。
まず、人が外見的魅力を重視する思考のことを「外見スキーマ」と呼びます。外見スキーマは、美容関連商品の広告や魅力的な女性の映像などを見たり、自身の外見に注意を促すようなメッセージを受け取ったりする、などの刺激を受けると、より強く活性化します。
外見スキーマが活性化されると、受け手の「身体的不満足感」が増加します。これはその名のとおり、自分の身体への不満や自己否定の感情を指します。メディア上に頻繁に登場する身体イメージを「理想的」あるいは「標準」と捉え、それと比べて自分の身体イメージを、太っていたり、劣っていたりするものと捉えてしまうわけです。
そして自分に対する「身体的不満足感」は、対人不安や抑うつ感、自尊心の低下などをもたらします。さらには、摂食障害のリスクを高めてしまいます。
「痩せなくては」というプレッシャーは、運動や食事管理など、健康になるための活動のモチベーションにつながる一方で、「太っている自分は価値がない」「自分はずっとサボっている」といった自己否定の感情をも生じやすくさせるのです。
海外のある実験では、痩せた女性の画像を被験者に数分間提示した後の、自己評価の変化を調べました。その結果、強く外見スキーマを内面化している女性ほど、自己の身体イメージを低下させてしまう傾向がありました。
日本で行われた研究でも、ファッション雑誌を購読したり、メディア情報を重視したりする人ほど、「痩せ願望」が高い、身体的不満足感を抱きやすいという傾向がありました。
さらに「身体的不満足感」には、ジェンダー差も指摘されています。女性は、「痩せ」に対する「身体的不満足感」を抱きやすいのですが、男性は「たくましさ」に関連した「身体的不満足感」を抱きやすい傾向が見られたのです。
みなさんもぜひ、メディアがふだん、どのような身体イメージを発信しがちか、気にしてみてください。もしかしたら、あなたの外見スキーマもメディア経由で作られているかもしれません。
(NHKウイークリーステラ 2022年2月25日号より)
1981年、兵庫県生まれ。評論家、ラジオパーソナリティー。NPO法人・ストップいじめ!ナビ代表、社会調査支援機構チキラボ代表。TBSラジオ〈荻上チキ・Session-22〉(現・〈荻上チキ・Session〉)が、2015年度、2016年度ギャラクシー賞(DJパーソナリティ賞、ラジオ部門大賞)を受賞。近著に、『みらいめがね』(暮しの手帖社)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『すべての新聞は「偏って」いる』(扶桑社)など。