番組で語られるジェンダー「視点取得」で社会が変わるの画像
「クローズアップ現代+」は総合で、毎週火〜木曜の午後10時〜ほかで放送中。今回取り上げた回の関連記事は、公式サイト(https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4569/)に掲載。

11月(2021年)の初め、ジェンダーをテーマにした番組の放送が続きました。「ハートネットTV」(Eテレ毎週月〜水ほか)は「みんなで考えるジェンダー」という特集(11月2、3日)を組み、「視点・論点」(Eテレ毎週月〜水ほか)では「ジェンダー平等をどう実現するか」(11月8日)というテーマで議論が行われました。

「NHKスペシャル」(総合土日ほか)では、「ジェンダーサイエンス」(11月3、6日)というテーマで、「性差」や「生理」について取り上げていました。

「性差」の回では、「男性ホルモン」と呼ばれがちなテストステロンは、男性にも女性にも分泌されていて個体差が大きいことや、人の脳はモザイク状で「男脳/女脳」という分かりやすい区別はできず、例えば一日の中でも大きく変化するといったデータが紹介されていました。「男性ホルモン/女性ホルモン」という呼び方はもはやナンセンスであり、10年ぐらいしたらなくなるのではないかという、スタジオでの指摘が印象的でした。

「性差にまつわる“神秘”の世界」(神秘とは人知の及ばない領域のことですが、この番組は人知=科学で迫る番組のはずです)というナレーションや、「LGBTの方々(の脳)」というセリフが登場するなど、やや引っかかる表現もいくつかありましたが、総じてキャッチーな手法で性差がスペクトラム(連続体)であることを説明していました。

NHKプラスで11月5〜12日に見逃し配信された「クローズアップ現代+」の「ジェンダー格差を解消するヒント?“他者の靴を履く”とは」(2021年7月8日)も印象に残りました。

アイカメラと通話機能を用いて、男性社長が女性社員の仕事を体験したり、夫が妻の視点で家事をしたりする実験を繰り返していました。

例えば男性社長が女性社員の社内掃除を追体験する中で、「おれだって家ではやっているのだから会社でできないことはないんだけど、会社の中ではなぜ給湯室のことは女性に任せているんだろう」という気づきを得るなど、見えている世界が違うことを確認しつつ、それぞれの視点を語り合うという対話が紹介されていたのです。

①自分とは異なる存在として他人を認知し、②相手の立場になって考える、ことは、最初からできるものではありません。

ついつい人は、①'自分にできることは相手にもできる、と思ったり、②'自分とは違って相手は苦痛を抱かないはず(男の自分と違って女性は家事を楽しむはずだ、など)と軽視し、思い込んでしまいがちです。

自分と他人の視点の違いを認識したうえで、他者の立場から見た感情や思考などを推し量り、社会的な判断を下す能力のことを「視点取得能力」といいます。

「クロ現+」のこの特集が面白かったのは、視点取得能力を向上させるような取り組みを紹介しながら、番組を通して、視聴者に対しても新たな視点取得を促している点です。

視点取得には、偏見やステレオタイプを緩和したり、いじめや差別を抑制したりする効果があるとされています。メディア経由で視点取得の手がかりを得た視聴者が、日常でも視点取得の努力を行うようになるといいのですが。

(NHKウイークリーステラ 2021年12月3日号より)

1981年、兵庫県生まれ。評論家、ラジオパーソナリティー。NPO法人・ストップいじめ!ナビ代表、社会調査支援機構チキラボ代表。TBSラジオ〈荻上チキ・Session-22〉(現・〈荻上チキ・Session〉)が、2015年度、2016年度ギャラクシー賞(DJパーソナリティ賞、ラジオ部門大賞)を受賞。近著に、『みらいめがね』(暮しの手帖社)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『すべての新聞は「偏って」いる』(扶桑社)など。