9月9日の「クローズアップ現代+」のテーマは、「校則」でした。NHKが校則についてのアンケートを行った結果、4割の自治体が公立高校の校則の見直しを進めていました。その詳細は、NHK NEWS WEBや番組のサイトで紹介されています。番組では、教員や生徒、そして地域の識者らの、校則についての議論が紹介されていました。
校則をなくすことによって、学校が“荒れる”のではないかと恐れる教員。自由を得る代わりに不公平な空間になることを心配する生徒。しつけを学校に依存したい保護者など、多くの理不尽な校則が維持されている背景に、関係者それぞれの思惑も見えてくるものでした。
他方、校則を見直した自治体のうち、「学校が荒れるなどの悪影響があった」と答えたところは0でした。それはそうでしょう。ポニーテールがOKになったり、靴下がカラフルになったところで、直ちに生徒の喫煙率があがったり、生徒が暴力的になったりするわけではありません。今後も校則見直しの取り組みが進むにつれ、より多くのデータが集まってくるでしょう。
番組に出演していた、弁護士かつ現役教員でもある神内聡氏は、校則についての検討を、「民主主義の実践を学ぶ場」であると表現していました。同意見です。しかし多くの学校では、「校則改変要件」が記されておらず、校則の決定プロセスや設計意図が不透明な状態です。
生徒はどのように意思表明すれば校則が変えられるのか分からず、「ルールとして決まっている」と一方的に押しつけられる。これでは、学習性無力感を育てるだけでしょう。だからこそ、生徒を主権者と位置づけ、生徒総会などで校則の柔軟な選択を可能にすることが求められます。
校則が特集番組で大きく取り上げられるのは、感慨深いものがあります。私は2017年に仲間たちと、「ブラック校則をなくそう!」プロジェクトを発足。調査や署名活動を行い、その結果を国会や役所に届けました。このような活動の意義の一つは、「議題設定効果」にあります。
これは、現代のメディア影響論を語るうえで重要な理論です。例えば、マスメディアなどが特定のテーマを繰り返し報じるようになると、そのテーマの優先度が高まります。
ニュースに触れた人々の意見が簡単に変わるわけではありませんが、それぞれの意見がより見えやすくなります。つまり、報道の頻度などにより、そのテーマの優先度が上下すると同時に、人々の態度を顕在化させたり潜在化させたりするのです。
校則については、多くの人が「理不尽なものが多い」と思っています。学校や教師、教育委員会ですら、個別の校則が本当に合理的で妥当なのか、説明することができません。
あいまいな空気の中で決まっていたルールのおかしさについて、真正面からメディアが取り上げることで、より合理的で透明に、当事者の合意と納得が得られるルールが、対話によって作られていく。子どものころから「理不尽慣れ」をしないためにも、校則論議はもっと活発化してほしいものです。
(NHKウイークリーステラ 2021年10月8日号より)
1981年、兵庫県生まれ。評論家、ラジオパーソナリティー。NPO法人・ストップいじめ!ナビ代表、社会調査支援機構チキラボ代表。TBSラジオ〈荻上チキ・Session-22〉(現・〈荻上チキ・Session〉)が、2015年度、2016年度ギャラクシー賞(DJパーソナリティ賞、ラジオ部門大賞)を受賞。近著に、『みらいめがね』(暮しの手帖社)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『すべての新聞は「偏って」いる』(扶桑社)など。