「NHKプラス」に見るメディアの説得効果とは?の画像
NHKプラスは総合・Eテレの番組を放送中から一定期間、PCやスマホで楽しめるサービス。

NHKの番組の見逃し配信などが行われているサービス「NHKプラス」を見るようになって驚いたのは、「SDGs」が一つのカテゴリーとなり、多くの番組がまとめられていることでした。

「バリバラ」(Eテレ 毎週木曜ほか)、「ストーリーズ【ノーナレ】」(総合 土曜ほか)、「時論公論」(総合 月~金曜ほか)など各番組が、おのおのの切り口で同じテーマに取り組んでいることがわかります。

メディア経由の説得効果については、さまざまな研究が行われています。人々は単に、メディアが何かしらの意見を伝えたからといって、ただちにそれをのみにするわけではありません。

その意見にどのように接したか、あるいはそれがどのように伝えられたか。説得方法によって、受け手の感じ方や納得度合いが変わるのです。

相手がどのような道徳感覚を持っているのかによっても、向いている説得/向いていない説得があります。アメリカの社会心理学者であるジョナサン・ハイトの「道徳基盤理論」では、西欧人における主な道徳基盤が類型化されています。

それは、「ケア⇔危害」「公正⇔まん」「忠誠⇔背信」「権威⇔転覆」「神聖⇔堕落」「自由⇔抑圧」の6つ。

例えば政治的左派(リベラル層)は、このうち「ケア(人を傷つけない)」、「公正(フェアに協力する)」、「自由(支配に抵抗する)」を重視します。

一方右派(保守層)は、左派が距離を取る「忠誠(集団を維持する)」、「権威(分相応に振る舞う)」、「神聖(けがれを避け、純潔を求める)」なども重視します。

SDGsのメッセージが何をどのように強調するかで、届きやすい層も変わります。ジェンダー平等を訴えるメッセージで、「ケア(困っている当事者が現にいる、など)」や「公正(権利の不平等がここにある、など)」を強調すると、個人を尊重する左派には響きやすくなりますが、集団主義を尊重する右派には届きにくい可能性があります。

なぜなら、「権威(それぞれの分相応な役割がある)」や「忠誠(この集団の秩序を乱すのは許さない)」を重視する人が、伝統文化や集団秩序が急激に壊されてしまうのではないかと拒絶感を抱くためです。

逆に、右派が支持するメディアや政治的リーダーが、「日本国こそ、この問題で引っ張っていく必要がある」「他国に負けていて恥ずかしい」と連呼すれば、鼻白む左派もいるでしょうが、右派には届きやすいのかもしれません。

相手の道徳基盤のほか、性格特性などでも説得効果は変わります。勤勉性が高い人にはデータに基づいて説得することが効果的でしょうし、協調性が高い人には物事のプラス面を、協調性が低い人にはマイナス面を強調するのが効果的だと言われます。

また、「多くの人がすでに取り組んでいます」「気候危機対策は経済的にもプラスになります」など、言い方によっても届く層が変わるはずです。

NHKプラスでは、性質の異なる番組が同じテーマに独自の視点で切り込んでいました。そのことで説得できる層が広がっている点に、妙な心強さを覚えました。

(NHKウイークリーステラ 2021年12月17日号より)

1981年、兵庫県生まれ。評論家、ラジオパーソナリティー。NPO法人・ストップいじめ!ナビ代表、社会調査支援機構チキラボ代表。TBSラジオ〈荻上チキ・Session-22〉(現・〈荻上チキ・Session〉)が、2015年度、2016年度ギャラクシー賞(DJパーソナリティ賞、ラジオ部門大賞)を受賞。近著に、『みらいめがね』(暮しの手帖社)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『すべての新聞は「偏って」いる』(扶桑社)など。