生存権の保障は国の責務困窮者支援に資する報道をの画像

生存権は、憲法にも定められている重要な権利です。憲法25条に、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」とあります。

憲法は、主権者(国民)による国家への“命令”ですから、人々の生存権を満たすのは国の責務です。

生存権を保障する手段として重要なのが、生活保護制度です。ただ、生活保護はそれを受けている人のスティグマ(社会的らくいん)が強く、心ない人からバッシングされたりするため、その受給資格があっても利用をためらう人が少なくありません。

「ハートネットTV」では、10月5~6日の2夜連続で「みんなの生活保護!」というテーマで特集を放送しました。2夜目に私も出演したのですが、ひい目なしに良い番組でした。

番組では、生活保護を利用する人への密着取材と、彼らを支援する人の声を紹介していました。漫画家の内田かずひろさんは2020年から貧困状況に陥り、2021年初めに生活保護の申請を試みましたが、保護費では画材の購入はできないと言われ申請を断念したといいます。

しかし番組スタッフが厚労省に取材したところ、保護費で画材購入は可能とのこと。このように、国の見解が現場で徹底されておらず、窓口で不当に追い返されてしまうケースが少なくないのです。

そのほか、番組ではさまざまなケースや視聴者の声を紹介しながら、生活保護の申請方法を細かく紹介していました。

扶養照会*は断ることができること。申請用紙に決まりはないので、自作のメモであっても「申請に来ました」と渡せば本来は断られないこと。ウェブ上に簡単に申請できる仕組みが作られていること、などなど。こうした申請ノウハウを、ここまで丹念に紹介したテレビ番組は見たことがありません。

同じ情報でも、伝え方によって受け手の印象は大きく変わります。これを「フレーミング効果」といいます。フレーミングとは枠組みのこと。同じ絵でも、立派な額縁に入れられるのとクリアファイルに入れられるのとでは、印象が異なるでしょう。同様に、あらゆるメディアにおいて、フレーミングのしかたで人々の受け止め方は大きく左右されるのです。

貧困報道のある研究をご紹介します。「貧困問題」全体を語るテーマ型フレーミングでは、受け手は「貧困解決の主体は政府にある」と捉えがちになります。

一方、「困窮する個人に密着」するエピソード型フレーミングでは、「解決の主体は困窮者自身にある」と捉えがちになるという傾向が指摘されています。

良かれと思って困窮者を取材したドキュメンタリーが、番組に出演した当事者へのバッシングにつながることがあり、その背景には、こうしたメディア原理も関わっています。

ただ、テーマ型/エピソード型それぞれ、伝え方の工夫によって受け手の印象をよりよく変えられることもわかっています。今回の番組のように、エピソードを交ぜながら生活保護制度そのものの利用方法を紹介する  。こんな工夫もあるのだと、メディア論的な観点から感心させられました。

*扶養照会…生活保護申請の際、福祉事務所が、申請者への援助が可能かどうかを親族に問い合わせるもの。

(NHKウイークリーステラ 2021年11月5日号より)

1981年、兵庫県生まれ。評論家、ラジオパーソナリティー。NPO法人・ストップいじめ!ナビ代表、社会調査支援機構チキラボ代表。TBSラジオ〈荻上チキ・Session-22〉(現・〈荻上チキ・Session〉)が、2015年度、2016年度ギャラクシー賞(DJパーソナリティ賞、ラジオ部門大賞)を受賞。近著に、『みらいめがね』(暮しの手帖社)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『すべての新聞は「偏って」いる』(扶桑社)など。