NHK放送文化研究所は2021年10月、「テレビ出演者のジェンダーバランス」についてのトライアル調査結果を発表しました。出演番組ごとに、性別などの偏りがどれくらいあるのかを調べたものです。
女性割合が少ない順に分野を並べると、バラエティー(32.4㌫)、音楽(34.8㌫)、ドキュメンタリー(36.1㌫)、ワイドショー・情報番組(40.9㌫)、ニュース・報道番組(44.2㌫)、スポーツ(49.8㌫)という結果でした。また出演者の年齢層を見ると、男性は40代が最も多く、女性は20代が最も多いという結果でした。
テレビに出演する際の「職業」にも男女差が見られます。日本のテレビでは、「男性のお笑い芸人」が最もテレビに露出していて、「女性文化人」の出演が特に少ない状態にあります。
一方女性に求められる役割は、「アナウンサー・キャスター・リポーター」が最も多かったのです。
「ジェンダーバランスは適切か」という議題設定がなされたことにより、今テレビのさまざまな番組では、その男女比を徐々に見直す動きが見られます。メインキャスターのみならず、ゲストとして呼ぶ専門家やコメンテーターでも、これまでなされてこなかった配慮が見てとれます。
メディアが、特定のロールモデルを映し出すことは、人々の職業選択意識などに大きな影響を与えます。例えば子どもが“YouTuber”(ユーチューバー)”になりたがるのは、実際に活躍している場面を目の当たりにする機会が多いからです。
逆に、目の当たりにしない職業には憧れにくい。このとき、自分と同じ属性の人がそこに存在するか否かもまた、大きな意味を持つのです。
さて、そのメディアが映し出すニュースでは最近、アメリカのバイデン大統領が呼びかけ開催された「民主主義サミット」が取り上げられていました。
2021年12月9日の「NHKニュース7」ではこれをトップニュースで取り上げていました。民主主義の必要性を訴えるバイデン大統領と、専制主義側と目されるプーチン大統領や習近平国家主席。
みごとに女性リーダーが不在であるなと思い知らされます。このときのVTRでは、かろうじてアメリカのサキ報道官がリーダー層として映っていたのみでした。
イギリスのメイ首相がジョンソン首相に、ドイツのメルケル首相がショルツ首相に代わったことで、G7加盟国は一人も女性首脳がいない状況に戻りました。「女性抜きの民主主義」が継続している様子が浮き彫りになります。
来年は北京で冬季五輪が開催されますが、それに対する外交ボイコットも話題となっています。
私はそもそも五輪の役割を見直す必要があるという立場で、だからこそ北京だろうがパリだろうがミラノだろうが開催に賛成しないのですが、やはりウイグル・チベット・香港問題や性差別問題を抱える“北京”が五輪憲章を掲げることは、大きな矛盾であると思います。
それらを指摘する民主主義各国にも、それぞれ自国の問題がある――。ニュースの中に現れる、さまざまな矛盾。それを取り上げるメディアの側も、自らの矛盾とひとつずつ向き合わなくてはいけないのです。
(NHKウイークリーステラ 2022年1月7・14日合併号より)
1981年、兵庫県生まれ。評論家、ラジオパーソナリティー。NPO法人・ストップいじめ!ナビ代表、社会調査支援機構チキラボ代表。TBSラジオ〈荻上チキ・Session-22〉(現・〈荻上チキ・Session〉)が、2015年度、2016年度ギャラクシー賞(DJパーソナリティ賞、ラジオ部門大賞)を受賞。近著に、『みらいめがね』(暮しの手帖社)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『すべての新聞は「偏って」いる』(扶桑社)など。