日本では、数多くの海外ドラマを見ることができます。NHKでも複数の海外ドラマが放送されています。こうしたフィクションの世界の描写は、人々にさまざまな影響を与えます。そこから知識や趣味を学べるだけでなく、ステレオタイプ形成のあり方にも影響を与えるのです。
例えば、これまでのメディア研究では、ハリウッド映画におけるアジア人の表象のされ方がしばしば注目されてきました。その中で、アジア系の人物は、実際のアメリカの人口比の半分程度しか映画に登場していないという指摘があります。
そして彼らの描写は、「エキゾチックでオリエンタル」「不気味で残忍」「ミステリアスで不可解」といった位置づけが与えられることが多いと言われています。
とりわけ、アジア系女性の場合は、冷たく攻撃的な存在として描かれる「ドラゴン・レディー」タイプや、男性に対して献身的で性的魅力の高い存在として描かれる「ゲイシャガール」タイプなどが特徴的です。
一方、アジア系男性では、「寡黙で頑固で見えっ張りな父親像」や「ナヨナヨしてモテないギーク(技術オタク)」「中性的で勤勉、無害なモデルマイノリティー(社会的少数者のお手本)」といった役回りが目立つとされています。
皆さんがこれまで見たハリウッド作品では、アジア系のキャラクターの描かれ方はどういうものだったでしょうか。これらの類型に当てはまる人物、あるいは当てはまらない人物が、それぞれどのくらいいたか、ぜひ振り返ってみてください。
少し前の(特に欧米の)映画・ドラマ界では、「日本人」の役を、アジア系ではあるが、別の国にルーツのある俳優が演じている作品もよく見られました。その役柄をステレオタイプに描写するだけでなく、それを演じる俳優の代表性・表象性に対しても、大ざっぱな配役でさほど問題ないだろうと考えられてきたわけです。
最近の作品では、こうしたステレオタイプな描写や代表性・表象性について、真正面から改善に取り組むものも増えています。
ときに「政治的正しさが作品をつまらなくする」といった意見を耳にすることがありますが、むしろ、多様な登場人物を描くことで、これまで見ることのなかった創造性が発揮された作品も多いと思っています。
NetflixやAmazon primeなどの動画配信サービスが広まったことで、アジア発の作品が世界各国で見られる機会も増えました。
特に、韓国のドラマや映画が世界の視聴ランキングの上位を占めることも珍しくありません。最近では「イカゲーム」が、世界中の人々の人気を勝ち得たことも記憶に新しいでしょう。
ハリウッド発ではない動画コンテンツなどが世界中で見られることで、より当事者性の強い人物描写が広がること。こうした現象は、旧来の動画産業では考えにくいことでした。
日本のドラマは、さまざまな理由により、海外市場にはまだ本格的に参入していません。放送法が変わり、ウェブ配信のあり方も広く検討できるようになった今、NHKのドラマがどのようにウェブ展開していくのか、注視したいと思います。
(NHKウイークリーステラ 2022年2月11日号より)
1981年、兵庫県生まれ。評論家、ラジオパーソナリティー。NPO法人・ストップいじめ!ナビ代表、社会調査支援機構チキラボ代表。TBSラジオ〈荻上チキ・Session-22〉(現・〈荻上チキ・Session〉)が、2015年度、2016年度ギャラクシー賞(DJパーソナリティ賞、ラジオ部門大賞)を受賞。近著に、『みらいめがね』(暮しの手帖社)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『すべての新聞は「偏って」いる』(扶桑社)など。