おおお、アニオリが満載だ! それが、めっちゃハマってるぅ!!!

これまでの放送でも、演奏キャストが奏でる曲にキャラクターの心理描写が重ねられているときには、思わず涙してしまう名場面が多々ありましたよね? ほら、第2話での夕暮れの河川敷の「カノン」とか、第8話での夜の公園の「G線上のアリア」とか。

今回は、ヴァイオリニスト・東亮汰さんが弾く「ユーモレスク」にのせて描かれていく、青野くんの心に去来する父・龍仁への複雑な思い。これもまた、味わい深し。あのスキャンダル報道以降、龍仁を嫌悪してきた青野くんが、その父とどう向き合うのかを模索して、新しい一歩を踏み出していくわけですよ!

この曲を青野くんがいかに解釈したのかも含め、心の動きが繊細に描かれていく内容ですが、少なからず驚いたのは、そこに原作にはない、アニメ・オリジナルの描写が多々登場していたこと。これが、ものすごく秀逸で。私は前回のレビュー記事で、上から目線気味に「原作漫画のこの回は、圧倒的な画力で青野くんの心象風景が描かれています。アニメのスタッフがどのように具現化してくれるのか、楽しみです」と書いていたんです。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

今回の物語の中に、龍仁の書き込みのある「ユーモレスク」の楽譜を、青野くんが龍仁から「お前はどう弾く?」と聞かれる、挑戦状のようなものかもしれないと考える描写があるのですが、同じように、アニメの制作陣が原作の阿久井真先生から「漫画のこの場面を、どうアニメにする?」と無言で問いかけられているような、そんなイメージを勝手に持っていて。だって、阿久井先生の画力の高さ、半端ないんだもん。ちょっぴり、大丈夫かな? と。

でも、阿久井先生が作品に込めた思いを、アニメの制作チームがしっかりと受け止めて、全力で答えを返しているような印象を受けました。期待していたもの以上のものを見せてもらって、「正直、すみませんでした!(平伏)」と。

さて、その第21話「ユーモレスク」のあらすじを、振り返っておきましょう。今回の物語では、原作で「贈る言葉」(アニメの次回タイトルになっています)というサブタイトルがついたエピソードの前半部分もアニメ化されていますね。


小学生の青野(声:鈴代紗弓)の夏休みの宿題は、ミニトマトの観察日記だった。それを枯らしてしまい、悲しむ青野に、父・龍仁(声:置鮎龍太郎)は「よかったじゃないか」と言い放つ。
今、感じたことを音にしてみろ……。そう言った父のことを夢に見て、青野(声:千葉翔也)は明け方に目覚めるが、不思議と気分は悪くなかった。ヴァイオリニストとして世界的に活躍する父に褒めてもらいたくて楽器を弾き続けた、少年時代。思い出に導かれるように青野が開いたのは、ドヴォルザーク作曲の「ユーモレスク」の譜面だった。そこに見つけた父の筆跡による演奏指示に、青野は「お前は、どう弾く?」と問いかけられたような気がした。父のことを思い出しながら弾く「ユーモレスク」。自分の気持ちを音に変換していきながら、青野は自分が今まで表現したことのない音を奏でていたことに気づく。
そして青野は、佐伯(声:土屋神葉)との再オーディションに臨んだ。青野の音の劇的な変化を、鮎川先生(声:小野大輔)やコンサートマスターの原田(声:榎木淳弥)、そして佐伯も明確に感じ取って……。


いろいろ私が語る前に、配信公開されている【青のオーケストラ 聴きドコロ♪】を確認していただければ。もうね、これだけでちゃんと思いが伝わってくるんだから。

♪ドヴォルザーク「ユーモレスク」
演奏:東亮汰(ヴァイオリン)

ここに登場している、青野くんが古い街並み(ドヴォルザークの故郷であるチェコ?)を歩く描写、森の中でヴァイオリンを弾く姿(河川敷での「カノン」みたいだった!)、龍仁と一緒に遊園地の観覧車に乗って喜ぶ少年・青野くん、雨の中で龍仁に手を伸ばしかけて逡巡する表情、怒りのあまりヴァイオリンを叩きつけようとするカット……、みんな原作にはない演出なんですよね。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

ほかにも龍仁とレストランに行く場面が追加されたり、このアニオリの多さは、おそらく「青オケ」の中でも過去イチ。青野くんは龍仁にひどく嫌悪感を持っているけれど、これまでに親子として積み重ねてきた時間も確かにあって。それが描かれているからこそ、土砂降りの雨の中で青野くんの前に立った龍仁に、どんな思いを抱いたのか……。一切セリフがない場面だから、表情で読み解くしかないのだけれど、絶対に一言では表現できない感情が、そこに渦巻いていたのだろうなと思いました。それでも。

雨は止むから…

そこに、ある種の救いを感じました。

青野くんは、どんなふうに父・龍仁のことを受け止めたのか。具体的には語られていないけれど、その答えのひとつが、再オーディションだったと言えるのではないでしょうか。

青野くんにとっての音楽は、それまでは他者と競い合う「戦いの場」だったけれど、オーケストラで演奏する意味が見えかけてきたというか、次の一歩を踏み出したというか。もう「俺を見ろ!!!」のころとは、明らかに違う音色になっていますよね。佐伯も「さっきの演奏は、俺の知ってる青野くんじゃなかった」と言ってたし。これが青野くんにとって、「覚醒」と言えるのかもしれません。

ん? ちょっと待って。考えてみると、再オーディションで青野くんが大きく変貌して「凪いだ海のようだ」という心境になったのは、明らかに佐伯と「ケンカ」したからですよね。そのとき佐伯に「俺、本当は誰が父親とかどうでもいいんだ」とも言われて、俺も逃げていないで向き合わなきゃ、と思ったわけだし。で、その「ケンカ」になったのは、佐伯が勇気をもって自分の父親のことを青野くんに告白したから。

ということは、佐伯が話をしなかったら、青野くんは今も龍仁のことを引きずったままだった? 佐伯は自分のアクションで、ライバルを「覚醒」させてしまった? 不思議な巡りあわせですね。
もっとも佐伯は、青野くんが「覚醒」したことが決して嫌ではなくて、その青野くんと一緒に演奏できることが、何だかうれしそうだったけど。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そんな彼らの演奏を聴いて、

音楽は意識一つでがらりと変わる。人が変われば、オーケストラにも大きな変化をもたらすだろう。いや、お前たち2人で2倍だな。2人ともよく頑張った!

と、評価してくれた鮎川先生。これまで厳しいところばかりクローズアップされていたけれど、それだけじゃなくて、ちゃんと見守っているところも伝わってきましたね。そんな鮎川先生と武田先生が高校時代の物語も、次回、9月24日放送の第22話「贈る言葉」で語られていくようです。高校時代の鮎川先生も、小野大輔さんが演じるのかな? だとしたら、むちゃくちゃ楽しみなんですけど!

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

ついに迎えた、海幕高校オーケストラ部の定期演奏会。その日、部員たち自身の手で、会場となるホールに楽器や機材の搬入が行われる。舞台袖に並べられる楽器ケース。この演奏会が最後の舞台となる3年生たちは、寂しさを感じていた。開演を待つ観客の中には、青野と律子(声:加隈亜衣)の中学時代の恩師である武田先生(声:金子隼人)の姿があった。青野の母(声:斎藤千和)と顔を合わせた彼は、演奏会の指揮者である鮎川先生と同級生だった高校時代、ともに部活に打ち込んでいた日のことを語る。そして舞台裏では、本番を前に、部員たちに向けた3年生の挨拶が始まった。


それにしても、もう定期演奏会の当日!? ということは、この1日の出来事を3回にわたって描くということ? おそらく回想シーンを除けば、ほとんどの舞台は、会場となるホールのステージ、客席、ロビー周辺、楽屋周りになる? それはまた、濃密ですねぇ……。あらすじを読むと、原作とは物語の構成が多少違っている(そうでもしないと、入りきらないほど原作のページ数が多い)ようなので、演奏会がどんなふうに描かれていくのか、スタッフのお手並み拝見です。(←だから、上から目線やめなさい

なお、予告編にあった「一音一会! 心の音をひとつに!」のかけ声は、海幕高校のモデルとなった千葉県立幕張総合高等学校校シンフォニックオーケストラ部が実際に使用しているものでもあります。その様子(「青のオーケストラ」原作のスペシャル動画に協力しているもの)もネットで配信されているので、興味のある方は検索してみてください。

▼第21話「ユーモレスク」の、再放送・見逃し配信はこちら▼
【再放送】Eテレ 9/21(木曜)午後7:20~7:45
NHKプラス見逃し配信】9/24(日曜)午後5:25 まで

文/銅本一谷

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。

☆これまでの感想記事は、ここに(https://steranet.jp/list/category/stera_aniken )。