「烏は主を選ばない」の第13話「烏に単は似合わない」では、最高権力者「金烏」の座を引き継ぐ予定の皇太子・若宮の真意が明らかになるとともに、四家の姫たちの后争いがまさかの結末を迎えた。
姫たちの声を担当した声優、あせび役の本泉莉奈、浜木綿役の七海ひろき、真赭の薄役の福原綾香、白珠役の釘宮理恵へのインタビューの後編では、衝撃的な展開をどう感じたのか、率直な気持ちを聞いていく。(インタビュー前編はこちら)
浜木綿の若宮への思いと、あせびの純真無垢な魔性
七海:登場したときの浜木綿は、つかみどころのないキャラクターでしたが、話を追うごとに考えていることや隠していた過去が見えてきて、第13話では彼女が若宮の幼なじみだったことも明かされ、しかも若宮はそれに気づいていたという……。
浜木綿は昔から若宮を一途に思ってきたので、最高の結末になったと思います。彼に向かって「うらなり瓢箪!」と叫んだり、「乙女心を学ぶんだね」と言いながらパンチしたり、若宮にとっても、そこまで言ってくれるのは浜木綿しかいなかったんだろうな、と改めて感じています。
若宮が浜木綿に告白する言葉は、彼が真赭の薄に語りかけた言葉と同じですが、印象は大きく違っているんですよね。若宮だからそういうふうにしか言えないけれど、彼にとっては最高のプロポーズだったというのが、第13話まで見てくださった視聴者の皆様にはわかっていただけたのではないでしょうか。
私自身、原作を読んでから浜木綿に惚れ込み、大好きなキャラクターでしたので全精力を注いで演じてきました。
本泉:あせびは、「すごかった」です。それを超える言葉をずっと探しているんですけど、本当に……。私、原作を読んだときに、若宮様は絶対にあせびを選ぶと思ったんですよ。逆境に負けないヒロインで、初恋の相手である若宮様とシンデレラ・ストーリー的に結ばれるのかな、と。
それが途中から「ん?」という違和感を覚えて、最後はもう、とんでもなかったですね。見事に周りを振り回して、場を荒らして去っていく人でした。お話の中で「東家は腹黒」と言われていますが、あせび自身はずっと純白。純粋無垢なまま行動して、結果的に周りを不幸に陥れるという、とてつもない悪女ですね。
その「透明すぎる闇感」も彼女の魅力だと思ったので、ご覧いただいた方にぞわっと鳥肌を立たせたいと考えながら演じていました。
第13話の藤波様がボロボロと泣きながら全てを告白するシーン、その崩れ落ちる藤波様を見ながら、あせびは「お可哀そうに」としか言わないんです。私、あせびのことが大好きだけど、ちょっと「人として心が痛むことはないのか?」と思ってしまいました。
だから、最後に若宮様から「私はあなたが嫌いだ」とはっきりと言ってもらえて、なんだか浄化された気持ちになりましたね。このシーンに向けて、あせびは今までやってきたんだな、と。一つのゴールのようでもあり、私はすがすがしい気持ちになれました。
福原:真赭の薄の決断はドラマチックですが、出家しても誰も恨んではいないという、すがすがしさがあると思います。あのシーンでは「この人はポジティブな決断をしたんだ」と思えるように、ヒステリックな感じではなく「私の行くべき道は、これでしょ」と明るく聞こえるように、すごく意識して演じました。
若宮のために愛情を込めて着物を縫うところがいじらしくて、これほど純粋な恋心を持っているなんて「すごく乙女だな」と感じていただけるといいな、最高に可愛いと思ってもらえるといいな、と思いながら……。
真赭はすごくフェアな人で、一貫して正々堂々としていたから、自分の気持ちが真赭とすごくリンクして、髪を切った後は私自身も笑顔になって、心から晴れやかな気持ちになりました。
七海:私、この作品で、あそこがいちばん「グッときた」シーンだったんですよ。もう、真赭の薄が大好きで。
釘宮:(手を挙げて)私もです! 私も、いちばん好き! もう、涙が止まらないんですよ。本当にかっこよすぎて。
七海:めちゃめちゃ、いいですよね。あの真赭の姿を見られただけで「この作品、よかったな」と思えるぐらい、ものすごく好きなシーンでした。
福原:私は、白珠がすごくかわいそうでしたね。第8話「侵入者」のラストで、白珠が壊れてしまってきゃらきゃらと笑うシーンに、もう胸がギューッと締め付けられて本当につらかったです。
真赭はすごくポジティブに「愛する人のために、頑張るぞ」という気持ちで登殿に臨んでいたけれど、白珠は正反対の、自分の気持ちを完全になくして、家の繁栄のために心まで壊して、まだ年端もいかない子がこんなにも泣いて、自分の心さえ忘れていたのが、とても痛ましくて。
あのシーンは、アフレコでも、白珠の笑い声で終わっていたじゃないですか。本番が終わったあと、やっぱり静寂がありましたよね?
本泉:そうそう。今、この空間では言葉を発してはいけない、みたいな。あそこ、私は白珠のことを抱きしめたくなっちゃいました。ずっと孤独だったんだな、って。
釘宮:白珠は登殿する直前に、一巳への気持ちを自覚してしまったんですよね。何も知らない、子どものままだったら、もうちょっと幸せな登殿ライフが送れたかもしれないのに(笑)。白珠も登場してから第8話までは怖く見える部分があったけれど、最後は、いいところに着地できて最高だったなぁ、と思いました。
本来の14歳の少女の、もともと求めていい幸せを追い求めることに、ようやく目を向けられるようになって本当に良かったな、と。私自身、作品の全体像をあまり知らない状態でオーディションを受けたのですが、白珠のセリフを口に出した瞬間に、自分の中でカチッとはまる感覚があったんです。すごく楽しい役だなと思いました。
ここまで演じて、いま改めて思うことは
最後に、この作品のアフレコに参加して感じた収録現場の雰囲気や、共演者に対する思いなどを聞いてみた。
本泉:私自身は、最初ちょっと緊張していて、自分からうまく話しかけられなかったんですけど、大好きな作品について、こうやって皆さんと共有の話題で盛り上がれたのが、すごく嬉しくて。この空気感を共有しながら、皆さんと和気あいあいやっていくのが楽しくて、「あったかい現場だな」って常に思ってました。
七海:私は本泉さん、福原さん、釘宮さんと、この現場が「初めまして」で、いま思うと、ご本人の人となりというよりも、演じている役として見てしまうところもあったなぁ、と。
そのぐらい皆さんが役にぴったりだったから、同じような気持ちで接する、みたいな感じのアフレコ現場でしたね。でも、こうやって改めて、お話をすることがたくさんできて、皆さんの考えていることがすごくよくわかりました。
福原:収録をして、お芝居に接して、役柄に対して話をして、皆さんそれぞれ違った形の魅力にあふれている方たちだと感じました。
あせびという特徴的な役を演じるにあたっての本泉さんの、その「出力の仕方」がすごく緻密であったり、浜木綿の隠している一面はあるけれど、すごく温かいものが流れていることを感じさせる七海さんのお芝居にすごく「知性」を感じたり、白珠の一枚膜をプチッとしたら、そこから激流が飛び出してきそうな息の詰まるお芝居から、釘宮さんの「読み取る力と原作愛」をすごく感じたり……。
皆さんすごく可愛らしい一面がおありだし、とっても楽しい女子会に参加しているような感覚でした。
釘宮:私も「初めまして」の方がすごく多い現場ではあったのですが、やっぱりこの作品のもとに集っているメンバーだからなのか、ずーっと空気がよかったなというのを感じていました。作品の話をして盛り上がることもそうだし、ちょっとした合間の時間に、よくみんなセリフの練習をしていたんですよね。
姫様たちだけではなく、たくさんいる女房たちも、みんながこの作品を良いものにしていきたいという気合いに満ちている現場だというのを早々から感じていて、「なんてすてきなんだ」というリスペクトの気持ちがより湧いてきましたし、この座組に入れて本当にうれしかったですね。
桜花宮での后選びは、これで決着。しかし、第13話のラストでは、中央城下の井戸に投げ込まれた女性を襲う謎の生き物の存在が描かれている。そう、ここから新たなステージに突入し、原作「八咫烏シリーズ」の第3作「黄金の烏」をもとにした物語がスタートするのだ!
改めて思い出してほしい。第1話「場違いな姫君」の冒頭で、崖から転落した雪哉(声:田村睦心)が目撃した無数の火のことを。あの火は、何だったのか? これまで語られていた、世に禍を呼ぶとされる「真の金烏」が持っている、本当の力とは? そして、八咫烏たちの宿敵とも言うべき、謎の存在とは?
これから怒涛の展開が続く「烏は主を選ばない」、最終回までお見逃しなく。
取材・文・撮影/銅本一谷
放送は、総合テレビで 毎週土曜、午後11時45分から。NHKプラスでの同時・見逃し配信もあり。
カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。