八咫やたがらすの一族が支配する異世界・山内やまうちを舞台に、皇太子・若宮わかみやの后の座を目指した四家の姫たちの争いが風雲急を告げている、アニメ「からすあるじを選ばない」。四家四姫の声を担当した声優たちに取材を行い、それぞれのキャラクターの魅力や作品にかける思いを前・後編で紹介していく。

個性豊かな四姫を演じるうえで工夫したこと

つぎ御子みこ(皇太子)・若宮(声:入野自由みゆ)の后候補として、おうぐうでの「登殿とうでんの儀」に参加した、四家の姫たち。

病に伏した姉の代わりに登殿したのは東家二の姫・あせび(声:本泉莉奈)だ。彼女にとって若宮は、幼き日に姿を見て心を奪われていた「紫の衣の少年」その人だった。

南家一の姫・浜木綿はまゆう(声:七海ひろき)は、登殿したものの后選びには興味がなさそう。

若宮といとこ同士の西家一の姫・真赭ますほすすき(声:福原綾香)は、彼に恋焦がれている。

そして北家の悲願である入内じゅだいを目指していた北家三の姫・白珠しらたま(声:釘宮理恵)……。

迎えた第9話「烏太夫」では、浜木綿が罪人の子であり、登殿の目的が若宮暗殺だったという衝撃の事実が明らかになった!

彼女の両親は10年前に起きた政変で、若宮と内親王・藤波(声:青山吉能)の母親である西家の十六夜いざよいを手にかけており、一時追放された浜木綿は身分回復と引き換えに暗殺を引き受けることになったのだ。それは出家した若宮の兄・長束なつか(声:日野聡)を還俗させて皇太子にし、南家の姫・撫子なでしこを嫁がせて政権を掌握しようとする、南家の謀略だった。

一方、北家の庭師だった山烏の一巳かずみ(声:宮崎遊)への恋心を封印して登殿していた白珠は、「人形じんけい」から「鳥形ちょうけい」に転身していた山烏が目の前で切り捨てられたのを見て以来、心を閉ざしていて……。

波乱の展開が続いて各家の背景が浮かび上がり、姫たちの見え方も変化していく中で、それを声優4人はどのように表現しようと考えたのか? インタビュー・前編の今回、まずはそれぞれ役作りについて話を聞いた。

おっとりしたあせびに「純粋無垢」を詰め込んで

本泉:あせびは、とても愛らしく、「こういう子を『お姫様』っていうんだな」と思わせてくれる、守ってあげたくなるような魅力を持った人。でも、オーディションを受けるときに原作を読ませていただいて「なるほど、こういう子か!」と。最初と最後で見え方がかなり違ってくるんですよ。

ただ、あせび自身の中で何かが変わったということは全くなくて、彼女はずっと純粋なあせびのまま。周囲からの見え方が大きく変わってくるんです。だから、無邪気なあせびが物事をどう感じて、どこまで演技で表現していくのかは、音響監督のディレクションを受けて、自分の中で(演技プランを)練り練りしながら演じていました。

私自身、筋の通った浜木綿に惚れ込みました

七海:浜木綿は、一言で言えば「イケメン女子」ですね。竹を割ったような性格で、男らしさを感じるほどカッコいい。筋の通った信念のある人なので、できるだけすてきに見えるように「余裕を持って」演じることを意識していました。

ただ冒頭は、飄々として何を考えているかわからない、見ている人からすると「この人は味方なのか、敵なのか」という始まり方をするので、自分としても「あせびに何か意地悪をする人なのかも」みたいな、一瞬悪者にも見える雰囲気を出せるようにして。

そして第9話が浜木綿にとっての「お当番回」で(笑)、ここで「実は、こういう人なんだ」と彼女が置かれた立場や考え方がわかりますので、この回に向けてトータルで考え、最終的には心が優しい、筋の通った人に見えるように演じました。

まっすぐな真赭の薄が持つ乙女心がいじらしい

福原真赭ますほすすきは、華やかで自信たっぷりな“ザ・お姫様”。自分が后に選ばれるに違いないと考えて、登殿に臨んでいます。

最初は高飛車な振る舞いをしているように見えたと思いますが、とても一本気な女性で、あせびに対して気遣ったり、優しさを見せたり。すごく目配りできる人だなというのが要所要所に出てきて、最終的には「びっくり、でも拍手!」みたいな、かっこいい決断をするんですよ。

高飛車には見えても傲慢ではない、その微妙な塩梅を探りながら演じていましたので、最後まで見て、改めて最初から見返したときに「すごくフェアな人で、いい人だったんだ」と感じていただけたらうれしいな、と思っています。

心を押し殺した白珠の覚悟を感じてほしい

釘宮:白珠は、北家の並々ならぬ期待を受けていて、「何としても入内しなければ」という強い覚悟を持った姫です。その強い覚悟ゆえに、自分の本心、気持ちを隠し通している冷たさ……、春夏秋冬で言うと「冬」みたいな感じを意識して演じました。

彼女は絶対に入内するという強い覚悟で登殿したので、少しほかの方とは空気感が違っているというか。何が何でも成功させるという緊張感を持って臨んでいるから、誰とも友達にならないですし、周りは全員敵。

ところが、予想もしていなかった展開になって、それまで自分を覆っていた鎧のようなものが全部はがされていくんです。どんどん素顔が見えてきて、最後は何にも覆われていない素のリアクションといいますか、話し方をするようになっていくなぁ、と自分でも感じています。

左から、本泉莉奈、七海ひろき、福原綾香、釘宮理恵

作品の世界観について

平安時代を思わせるきらびやかな異世界を舞台に描かれた「烏は主を選ばない」。作家・阿部智里が生みだした原作の八咫烏シリーズは、第1作となる「烏にひとえは似合わない」の発表から12年にわたり、数多くの読者の熱い支持を集めてきた(「烏は主を選ばない」は第2作に当たる)。

その原作に対する印象や、感銘を受けた世界観について4人に話を聞いてみた。

麗しい時代物であると同時に、新たな発見も

本泉:原作シリーズでは別作品の「単」と「主」が、アニメーションだと同時進行で進んでいく構成になっているので、原作を読んでいた方にも新しい発見があると思います。

「桜花宮での端午の節句のとき、若宮様は、あんなことをしてたのか!」みたいな。それがダイレクトに伝わってくる、アニメーションならではのおもしろさをすごく感じますね。

原作を全部知っていると、第1話からのセリフの意味が全く違って聞こえたりして、そういう楽しみ方もできますし。そして初見の方は、この驚きをぜひ一緒に体験していただきたいな、という気持ちでいっぱいです。

作り込まれた世界で、烏たちのように飛べたら

七海:とにかく驚いたのは、作り込まれた世界観。すべてのキャラクター、ひとりひとりの内面が緻密に描かれているところにも、感動しました。私はこれまで舞台で、和物の舞台にも出演したことがあるんですけれど、この世界観というのは、なんて表現すればいんだろう……。

第1話「場違いな姫君」で映し出された山内の映像が本当にきれいで、もしもこの世界に入れるのなら、烏たちのように空を飛んで、美しい桜花宮を外から眺めてみたいなと思いました。

ファンタジーと人間ドラマが見事に調和した世界

福原:姫様たちを含む登場人物が八咫烏であるというファンタジー要素と、朝廷と貴族たちを取り巻く権謀術数、それぞれの思惑が渦巻く人間ドラマ、柔らかい部分と硬い部分というか、それがすごく調和している作品だな、という印象を受けました。

優雅な世界であると同時に、いろんな謀略がうごめく、ちょっぴり血なまぐさい世界でもあり、そんなギャップも魅力的だなと思います。

「平安時代も、こういう感じだったのかもしれない」と思ったのは、香合わせでオリジナルの「香」を作ったりとか、真赭だったら赤い着物がトレードマークとか、呼び名に意味を見出したりとか、自分たちが背負ってきたことを大事にする文化が根付いていること。画面に登場する置物やお花にも意味があって、モチーフや言葉をすごく大事にする文化があるということは、やっぱりすてきだなと思いますね。

描写、美術的なところも楽しんでいただける作品

釘宮:原作を読ませていただいた際に「これは!」と衝撃を受けました。作品の空気感もそうですし、ひとつひとつの建物とかお衣装以外にも、人のまなざしの美しさとか、髪の毛の輝いている感じとか、すごく描写が美しいものが、アニメーションになったときにはさらに伝わりやすく、ファンタジックに表現されていくんだろうなと。読み物として描かれていた世界が、映像化されることで、私たちも疑似体験できるというのは、すごく意義深いことだと思うんですよね。物語を楽しむ以上に、そういう描写、美術的なところも楽しんでいただける作品になっているのではないのかなと思っています。

原作者・阿部智里(中央)を囲んで。阿部は、出演者を選ぶオーディションにも参加し、応募者全員分の音声を確認して、そのすべてにコメントを残したという。写真は左から、福原、本泉、阿部、七海、釘宮

インタビュー後編では、どんでん返しの展開に注目

今後の物語では、若宮が絶体絶命のピンチに。若宮暗殺を狙う本当の黒幕とは? 桜花宮で起きた宗家の女房・もも(声:依田菜津)の転落死の真相は? そして后選びの行方は……?
どんでん返しの連続で二転三転していく物語の展開に対して、姫たちを演じる声優たちはどんな印象を持ったのか?

近日中の公開を予定している「四家四姫インタビュー・後編」では、彼女たちの声をたっぷりと紹介! お楽しみに。

取材・文・撮影/銅本一谷

放送は、総合テレビで毎週土曜日、午後11時45分から。NHKプラスでの同時・見逃し配信もあり。

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。