人の姿をした八咫やたがらすの一族が支配する異世界・山内やまうちを舞台に、皇太子の后の座をめぐる姫たちの思惑や権謀術数渦巻く貴族たちの闘争を描いた「からすあるじを選ばない」。待望のアニメ化となった作品の注目すべき点とともに、3月17日にNHKホールで行われたスペシャルトークショーの内容の一部を紹介していく。


その異世界は、さながら平安時代

ⓒ阿部智里/文藝春秋/NHK・NEP・ぴえろ

異世界を舞台にして、剣や魔法、異能を駆使するファンタジー作品が大量生産されている昨今のアニメ業界。そうした作品群とは一線を画した、まるで日本の平安時代のような世界の中で壮大なスケールの物語が紡がれていく作品が、総合テレビでスタートする。それが作家・阿部智里が書いた小説「八咫烏シリーズ」を原作とした、アニメ「烏は主を選ばない」だ。

この物語に登場するのは、深い山が連なる地「山内」に住まう、八咫烏の一族。 彼らは神に仕えることで人の姿を手に入れ、街を築き、栄華を極めた。八咫烏たちの長は「金烏きんう」と呼ばれ、山内の最高権力者としての地位が、親から子へと引き継がれていく。

その玉座に群がる者たちの争いの最たるものが、皇太子・若宮わかみやの后を選ぶ登殿とうでんであり、東西南北の四つの貴族の家から四人の姫が集められ、若宮の后の座をめぐって競い合う。

そして、地方豪族の息子で「ぼんくら」と呼ばれている八咫烏の少年・雪哉ゆきやが、風変わりで謎めいた若宮の側仕えになるところから、物語は大きく動き始める━━。

八咫烏 三本の足を持つ異形の鳥。日本神話において神武天皇の道案内をしたとされ、古くから多くの絵姿が伝えられてきた。日本サッカー協会のシンボルマークおよび日本代表のエンブレムの意匠としても使用されている。

「烏は主を選ばない」の大きな魅力は、この独特の世界観だ。純然たるファンタジー作品ではあるが、映像化された場面カットから受ける印象は、さながら平安時代。

ときに「人形じんけい」から「ちょうけい」に変化することができる八咫烏たちには、貴族と庶民がいて、中央の貴族階級である「宮烏」、町に住んで商業などを営む「里烏」、地方で暮らしている「山烏」など、歴然とした身分差がある。また山内の中央政府は「朝廷」であり、律令制度のような統治機構を持っている。

山内を司る族長の一族である「宗家」のもと、東西南北4つの地域を治めているのは有力貴族たち。その四家の娘たちが登殿するおうぐうや後宮は、まさに内裏の姿だ。

このアニメには、大河ドラマ「光る君へ」などの風俗考証を担当した歴史学者・佐多芳彦や「青天を衝け」などで書道指導を担当した書家・金敷駸房しんぼうもスタッフとして加わり、四家の姫たちが着る十二ひとえや桜花宮の室礼しつらいふみや巻物の文字なども、美しく映像化されている。

そして「烏は主を選ばない」は、周到に伏線が張り巡らされたミステリー作品でもある。幼いころから日本神話や昔話、平安文化に魅了されていた阿部智里が生みだした「八咫烏シリーズ」は、現在までに第1部となる6巻、外伝の2巻、第2部の4巻が刊行され、累計発行部数200万部を超えている人気シリーズ。

阿部は第1作にあたる「烏に単は似合わない」で、2012年に第19回松本清張賞を受賞(史上最年少の20歳での受賞だった)して、作家デビュー。続いて発表した「烏は主を選ばない」は「烏に単は似合わない」と同一時間軸での物語であり、「単」が四姫たちを中心とする物語、「主」は雪哉と若宮を中心とする物語として描いた。そこで起きる事件や出来事は同じものだ。

もともとは阿部は「単」と「主」をひとつの物語として考え、小説を書くにあたって意図的に書き分けて、視座の違いによって事実の見え方が異なるようにしたという。

そして今回のアニメ「烏は主を選ばない」は、この2作品を組み合わせた形の放送となる。脚本の制作にあたっては阿部自身が監修を行い、ひとつの物語に再構成していった。それゆえ、権謀術数がうごめくさまや王朝絵巻のようなきらびやかさ、謎が謎を呼ぶ展開などは、原作の読後感と変わることがない。

そんな舞台で描かれていくのは、つぎ御子みこである若宮の后候補となった東家二の姫・あせび、南家一の姫・浜木綿はまゆう、西家一の姫・真赭ますほすすき、北家三の姫・白珠しらたまという、四家の姫たちの争い。

さらに数十年に一度しか生まれない「真の金烏」とされている若宮の謎めいた言動、彼の廃嫡を望む勢力の暗躍が始まり、物語は先が読めないドラマチックな展開になっていく。

もともと阿部智里の原作自体が、どんでん返しの連続。登場しているキャラクターたちも、回が進むごとに全く違った人物像を見せるようになる。

ストーリー展開には「あっ!」と驚く仕掛けが施され、めくるめく世界の動きに気持ちよく酔わされること必至だ(緻密に伏線が張られているので、初回からしっかりと見ていただきたい!)。そして主人公・雪哉と彼が仕える若宮の奇妙な主従関係の行方は……。

原作小説を読了済みの方にはわかっていただけると思うが、最後まで読み進めると「ええっ、この人物にはそんな思惑があって、こういうお話だったの!?」と驚愕し、すぐにもう一度最初から読み直したくなるような物語。それがどのようにアニメ化されていくのか興味が尽きない。


トークショーでは、声優たちが作品を激推し

3月に開催された「超体験NHKフェス」では、この「烏は主を選ばない」放送前のイベントとして、アニメに出演する声優たちが参加したスペシャルトークショーが、東京・渋谷のNHKホールで行われた。

会場では、まず第1話の本編部分が上映されると、司会を務める浅田春奈アナウンサーが、キャラクターの声を担当するキャストたちを紹介。

雪哉役の田村睦心むつみをはじめ、若宮役の入野自由みゆ、若宮の護衛を務める澄尾すみお役の竹内栄治、あせび役の本泉莉奈、浜木綿役の七海ひろき、真赭の薄役の福原綾香、白珠役の釘宮理恵が、それぞれの役をイメージした華やかな衣装でステージに姿を見せる。

姫たちを演じた4人は、それぞれ自身の演じるキャラクターの家柄や性格についての説明を求められ、「ネタバレなしで語るのは超難しい!」と悩みつつも、慎重に言葉を選びつつトークを展開した。

会場では、若宮の腹違いの兄である長束なつか役の日野聡、長束の護衛を務める路近ろこん役の白熊寛嗣、長束の側近・敦房あつふさ役の河西健吾からのビデオメッセージも紹介。

続いて行われたクイズコーナーの中で、第1話の冒頭、作品の世界観を伝える長めのナレーションと毎回の次回予告の語りを務めているのが、「映像の世紀」シリーズなどのナレーションで知られる山根基世(元NHKアナウンサー)だという情報が明らかにされた。

また劇中に出てくる文が、書家・金敷駸房の書いた文字をもとにしてアニメ映像化されていることや、それぞれのキャラクターが書く文字の特徴の違いも表現されているなど、作品の細部に至るこだわりも紹介。

そして作品のエンディングテーマが、シンガーソングライター・志方あきこの新曲「とこしえ」に決定したことも発表された。

この曲は志方が原作者の阿部とやり取りを重ねながら書き下ろしたもので、幻想的で異世界の情景がそのまま音で表現されたかのような曲が会場に流れると、声優たちは「鳥肌が立った!」「泣いちゃいそう」と異口同音に感激を口にした。

最後に、原作者の阿部智里から届いたメッセージを田村が代読する。
「アニメ『烏は主を選ばない』の原作は、小説です。毎度申し上げていることですが、私は、読書体験によって構築された読者さんの解釈、それぞれのイメージに、間違いなど存在しないと考えています。

文字を読んで思い浮かべたイメージ、装画からインスピレーションを得たイメージ、コミカライズから創り上げられたイメージ、その全てが正解であり、同じくらい尊いものです。

今回、新しいイメージとして生まれたアニメ版『烏は主を選ばない』が、見てくださった皆さまにとって、少しでも『面白い!』と思っていただける形になっていますようにと、心より祈っております」

そして出演者全員が作品を「激推し」する言葉をそれぞれ口にして、充実したトークショーは終演の時間を迎えた。

大河ドラマ「光る君へ」が話題を集め、平安時代の貴族の営みや風俗が注目されている中で放送が始まる「烏は主を選ばない」。和風大河ファンタジーの魅力が満載の作品を、ぜひ楽しんでほしい。

放送は、総合テレビで4月6日(土曜)から毎週土曜日、午後11時45分から。NHKプラスでの同時・見逃し配信もあり。

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。