うん、青春ってやつですよね……(遠い目)。

部活が休みの日曜の夜に行われていた花火大会。予備校での夏期講習に参加した帰りに遠くから花火を見つめる、3年生の立石真理部長と高橋翼先輩。花火大会に足を運んで、屋台をはしごしていた青野くんたち1年生の5人。さらに(一瞬しか映っていなかったけれど)その時間に自宅でヴァイオリンの練習をしていた立花さんと、受験勉強していた原田先輩。それぞれの夏が「夏の居場所」というサブタイトル通りに点描されていく第20話でした。あと3週間近くで定期演奏会の日を迎えるという、カウントダウンも描写されていて。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

これまでの物語の中に、立石部長は何度も登場していたけれど、どちらかと言うとオーケストラ部のことを視聴者に伝える「語り部」的なポジションにいて(そう言えば、「N響×青のオーケストラ コンサート」が放送されたときのナレーション担当も、立石真理役の小原好美さんでしたね)、彼女自身の気持ちや考え方がしっかり描かれていくのは、今回が初めてじゃない? その具体的なストーリーを追っていくと……。


夏休みまっただ中。海幕高校オーケストラ部の部員たちは、間もなく開催される定期演奏会に向け、熱心に練習に取り組んでいた。青野(声:千葉翔也)たち1年生にとって初舞台となる定期演奏会は、3年生にとっては引退公演となる。部長を務める立石真理(声:小原好美)は、部活動と勉強に明け暮れる「最後の夏」に、充実感と少しの寂しさを感じていた。部活が休みで花火大会が行われた日も、同じ3年生の高橋翼(声:青木瑠璃子)と夏期講習に参加。それでも遠くで打ち上がる花火を見て、海に行って泳いだり、お祭りで遊んだりできなくても、そこにちゃんと「夏」があることを感じていた。

その花火大会の会場には、青野や律子(声:加隈亜衣)、佐伯(声:土屋神葉)、ハル(声:佐藤未奈子)、山田(声:古川慎)がいて、つかの間の夏を楽しんでいた。金魚すくい、かき氷、射的……。そんなとき、佐伯のヴァイオリン演奏を聴いたハルがその実力差に落ち込んだという話になる。「気持ちはよくわかる」と言う山田が、中学1年の秋に佐伯が転校してきたころの思い出を語り始めた。当時、管弦楽部に所属していた山田は、佐伯に「俺と一緒に演奏してみるか?」と持ちかけたものの……。


今回放送された第20話「夏の居場所」は、前半が原作漫画の第32曲「夏の居場所」で、後半が第33曲「夜風」のアニメ化。同じ花火大会がモチーフになっているけれど、そこそこ独立したエピソードになっています。

実は、原作の一ファンとしては、第32曲「夏の居場所」がちゃんとアニメ化されるかどうか、心配していたところもあったんですよ。部活最後の夏を迎えていて、受験生だけど、できれば海水浴に行きたい。花火大会にも行きたい。でも部活休みの日には、勉強をしてしまう……。そんな立石部長の夏に対して抱く思いが情感豊かに描かれているけれど、それは青野くんの部活での立ち位置や演奏に対する気持ち、佐伯くんとの関係に影響を与えるものではなくて。つまり、「本線」とは別のところにある話だから、(それでなくても濃密な物語を、時間の限られたアニメにするにあたって)もしカットされても、青野くんのドラマとしては成立する。そうなるかも、という懸念を抱いていたわけですね。

ただ、そこに込められている、日々の出来事に対するものの考え方というか、繊細な描写が伝える作品の空気感というか、醸し出される雰囲気というか、それも「青のオーケストラ」の大きな魅力のひとつになっているから、この回がアニメ化されて本当によかったなと思いました。

ちなみに、立石部長のエピソードは、原作・阿久井真先生の実体験によるところが大きいとのこと。あー、わかるわぁ。やっぱり外階段に横たわっている蝉には一瞬ビビるし、夏は日陰を探しながら歩きますよねぇ……。「夏の香り」っていうのも絶対あると思うし。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そして後半は、「青春回の王道」とも言うべき、花火大会。もちろん「青オケ」は(今のところ)思春期の恋愛模様をメインに描いている作品ではないから、甘酸っぱさ成分がそこまで強いわけじゃないけれど。それでも、やっぱり「アオハル」なんだよなぁ……。

金魚すくいでスーパーなテクニックを見せる佐伯直も、射的の景品でりっちゃん好みのクマのぬいぐるみを見つけて挑戦しようとする青野くんも、金魚は1匹しかすくえなかったけれど浴衣の金魚柄を見た青野くんに「いっぱいいる」と笑顔を見せられて真っ赤になってしまうハルちゃんも、みんなイイ!!!
うん、青春ってやつですよね……(冒頭に戻る)。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

そんな中で語られていくのが、山田くんと佐伯が出会ったころのドラマ。ドイツから転校してきたばかりで周囲から「宇宙人」と呼ばれていた佐伯に、「一緒に演奏してみる?」と声をかけたのが山田くんでした。第11話の「決戦前夜」で佐伯が語っていた、「まだ日本語を上手に話せなくて困ったとき、楽器やってて救われたことも多いんだ」という具体的な内容がここで描かれているわけですね。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

配信公開されている【青のオーケストラ 聴きドコロ♪】でも、その演奏が紹介されています。ちなみに今回は2本立てで、前半部分で立石部長が見かけた青野くんが練習する姿も。

♪コダーイ「ヴァイオリンとチェロのための二重奏」
演奏:尾張拓登(ヴァイオリン)、佐藤晴真(チェロ)
♪ドヴォルザーク「交響曲第9番『新世界より』第3楽章」
演奏:東亮汰(ヴァイオリン)

このとき、圧倒的な佐伯の才能に接して「お山の大将」から転がり落ちたと回想する山田くんが、それでもチェロを弾くことをやめなかった理由を(彼もまた、楽器を続けるにあたって父親との確執があったと語られていましたね)考えながら口にしたのは。

そうやって積み重ねてきた「色々」ってヤツはさ、多分…、ちょっとやそっとじゃ崩れないんだよ。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

この言葉を聞いた青野くんは、自分が少年時代に経験したことを思い浮かべながら、また少しだけ前に進む力をもらうことになります。この流れ、絶妙ですね。山田くんの言葉自体もすばらしいけれど、それを聞いたことをきっかけに、青野くんが自分の内面に深く入っていくことになるわけで。それは次回、9月17日放送の第21話「ユーモレスク」の内容に結びついていきます。


小学生の青野(声:鈴代紗弓)の夏休みの宿題は、ミニトマトの観察日記だった。それを枯らしてしまったことに対して「よかったじゃないか」と言い放つ父・龍仁(声:置鮎龍太郎)。今、感じたことを音にしてみろ……。そんな父のことを夢に見て、明け方に目覚めた青野だったが、不思議と気分は悪くなかった。ヴァイオリニストとして世界的に活躍する父に褒めてもらいたくて楽器を弾き続けた、幼いころ。思い出に導かれるように青野が開いたのは、ドヴォルザーク作曲の「ユーモレスク」の譜面だった。そこに見つけたのは、父の筆跡による書き込み。「お前は、どう弾く?」。そう問いかけられたような気がした青野は、ひとり、ヴァイオリンに弓を走らせていく。                                        


ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

青野くんが、ずっと嫌悪してきた父・龍仁。その幻影と、どう向き合っていくのか。その葛藤に自分なりの答えを出すことで、青野くんはヴァイオリニストとして、さらに成長していくのでしょう。……なんだ、次回も必見じゃん。

原作漫画のこの回は、圧倒的な画力で青野くんの心象風景が明確なイメージとして描かれています。それをアニメのスタッフがどのように具現化してくれるのか。今からとても楽しみです。

第20話「夏の居場所」の再放送は、Eテレ 9/14(木曜)午後7:20~7:45。
見逃し配信は、NHKプラスで9/17(日曜)午後5:25 まで。
https://plus.nhk.jp/watch/st/e1_2023091024284

文/銅本一谷

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。

☆これまでの感想記事は、ここに(https://steranet.jp/list/category/stera_aniken )。