作家L・M・モンゴメリが生み出し、世界中で愛され続けている不朽の名作『赤毛のアン』が、再びアニメに!

4月5日(土)にスタートするEテレのアニメ「アン・シャーリー」の見どころを、声優たちが参加して行われたスペシャルトークショーでの発言とともに紹介していく。


今なぜ、再び『赤毛のアン』のアニメ化に挑むのか

まっすぐで純粋な心と尽きることのない想像力を持つ、赤い髪の少女、アン・シャーリー。彼女を主人公にした小説『赤毛のアン』は、1908年の刊行以来、世界各国で読み継がれ、数多く映像化・舞台化されるなど、長く人気を集めてきた。続編も次々と発表され、同じ世界観で描かれた「赤毛のアン」シリーズは、短編集を含めると11作に及ぶ。

日本でも1979年に「世界名作劇場」で『赤毛のアン』が高畑勲監督によりアニメ化されており、それを記憶しているファンも多いに違いない。そして今回放送される「アン・シャーリー」では、モンゴメリ著、村岡花子訳の「赤毛のアン」シリーズから『赤毛のアン』『アンの青春』『アンの愛情』の3作品がアニメ化される。

「これから『赤毛のアン』の世界に触れる」という方のために、簡単なあらすじを紹介しておくと……。

舞台は、カナダにある美しい島、プリンス・エドワード島。孤児のアン・シャーリー(声:井上ほの花)は、手違いでカスバート家の老兄妹マシュウ(声:松本保典)とマリラ(声:中村綾)が住む家「グリーン・ゲイブルズ(緑の切妻屋根)」に引き取られる。2人はアンの言動に戸惑いつつもその発想の豊かさに和まされ、やがて家族として認め合うことに。そしてアンは、常にライバル視してくるギルバート・ブライス(声:宮瀬尚也)や、「腹心の友」となるダイアナ・バーリー(声:宮本侑芽)に出会い、村の人たちと触れ合う中で成長していく。

ちなみに翻訳者・村岡花子の生涯をモデルにして描かれた連続テレビ小説「花子とアン」(ヒロイン・吉高由里子)でも、「赤毛のアン」シリーズのエピソードが度々登場していたので、そちらでも親しみを覚えた方がいるかもしれない。
それにしても、令和の今、改めて「赤毛のアン」シリーズのアニメ化に挑んだ狙いはどこにあるのか。アニメ制作を手がけるアン・シャーリー製作委員会の中山佳子プロデューサーは、制作意図をこう語っている。

中山 私自身がモンゴメリ原作、村岡花子訳の「赤毛のアン」シリーズを中学生時代から愛読していて、映像の仕事を始めて以来、アニメ化を望んでいました。コロナ禍が収束に向かいつつも各地で災害が起き、戦争は今も続いているという閉塞へいそく的な現代において、アンが豊かな想像力で周囲の人たちと温かい関係を築いていく姿は、私たちにとって日々の小さな幸せがどんなに大切なものか気づくきっかけになるのではないか。そう考えて今回の企画に至りました。

原作が伝えているメッセージの中から、特に2つをテーマに選んでいます。1つは「人生いろいろあるけれど、前向きに考えれば明るく生きていける」ということ。もう1つは「想像力は自分だけではなく、周りの人をも変えていく力を持っている」ということです。
子どもから大人まで一緒に楽しめて、時には涙し、時には考えさせられるようなてきなストーリーになっていますので、ぜひ応援してください。
(スペシャルトークショーより)


物語を描くにあたって掲げられた3つの柱

前述したように「アン・シャーリー」では、シリーズ3作目で、アンが22歳を迎える『アンの愛情』までが取り上げられる。本記事のトップ画像を見ていただくとわかる通り、アンは少女から女性へと成長。その成長の物語を描くにあたって設定されているのが、「3つの柱」だ。

1つ目は「アンとマリラ、マシュウの新しい家族の形」。
孤児のアンがグリーン・ゲイブルズで暮らし始めたとき、彼女は11歳。ともに独身である老兄妹の妹・マリラは50歳台で、兄のマシュウは60歳になっていた。そんな3人が一緒に暮らす中で、どんな家族関係を築いていくのか。その過程がきめ細かく描かれ、新しい家族の形が提示されることになる。

2つ目は「アンとダイアナの友情」。
2人は会ったその日に、生涯の親友である「腹心の友」となる。成長するにつれて彼女たちの人生は徐々に変わっていくが、その友情は不変。互いを思いやる2人の絆が感じられる場面は見逃せない。

そして3つ目の柱「アンとギルバートのロマンス」。
アンは想像力が豊かな反面、理想にとらわれ過ぎてしまい、真実の愛にたどり着くことがなかなかできないでいる。そんなアンに対するギルバートの思いは? 後半のエピソードで、アンとギルバートの関係がじっくり描かれていくという。

アニメーション制作を手がけたのは、新海誠監督の『君の名は。』や『すずめの戸締まり』などの制作協力で知られるアニメ制作会社、アンサー・スタジオ。高畑勲監督版にリスペクトをささげながら、特殊効果などの最新アニメ技術を駆使し、アンが「歓喜の白路」「輝く湖水」と名付けたプリンス・エドワード島の風景を色鮮やかに描き出している。美しい自然の中、アンやダイアナたちが生き生きと躍動する姿に注目したい。


「アンに『世界で一番重要なこと』を教えてもらった」“声優”が、トークショーで語ったのは……

左から、井上ほの花、宮瀬尚也、宮本侑芽。 ©アン・シャーリー製作委員会

3月9日には「超体験NHKフェス2025」の一環として、東京・渋谷のNHKホールで「アン・シャーリー」スペシャルトークショーが開催された。このトークショーは浅田春奈アナウンサーの司会で、前半はアン役の井上ほの花、ギルバート役の宮瀬尚也、ダイアナ役の宮本侑芽が参加。後半は、J.A.ハリソンの声を担当する爆笑問題の太田光が参加し、それぞれの言葉で「アン・シャーリー」の魅力を語った。

井上(アン役):アンには元気いっぱいというイメージがありますが、何よりも生み出す言葉が面白くて、その言葉のチョイスがとにかく素敵なんです。不思議な子、というだけでは収まらないくらい、魅力がたっぷり。演じていても、アンの言葉をしゃべっていると、自分もワクワクする気持ちになりますね。
見どころは……、もう全部です。どのシーンを切り取っても素敵なシーンしかなくて。アンの言葉がキラキラしていて、きっと皆さんの背中を押してくれると思います。映像もきれいなので、いろんな魔法にかけられて、隅々まで、何回も何十回も何百回も見ていただきたいです!

宮瀬(ギルバート役):ギルバートはイケメンで、勉強もよくできるのにイタズラ好きという、いい意味で「少年」だなと思いました。ご存じの方もいると思うんですけれど、かなりインパクトの強い登場の仕方をするので、楽しみにしていただければ。そして個人的には、ギルバートとアンのロマンスに特に注目してほしいですね。
ギルバートの気持ちになかなか気づいてくれないアンが、ちょっと……。本当にもどかしいです。この間の収録でも、ギルバートは一世一代の告白をしたのに、それが……。ぜひ一緒にキュンキュンしながら、傷つきながら(笑)、見ていただければと思います。

宮本(ダイアナ役):ダイアナは、アンの最初のお友達で「腹心の友」と呼ばれるようになりますが、性格的には本当に朗らかで、アンとはまた別のまっすぐさがある女の子です。詩的な言葉を口にするアンに対して、ダイアナはそれを言葉通りに受け取って「あなたって素敵ね」と言える。そんなところが大好きです。
10年近くキャラクターが成長していく過程を見られる作品って少ないんじゃないかと思うので、3人が成長していく姿を楽しみにしていただければと思います。

左端:太田光  ©アン・シャーリー製作委員会 

さらにJ.A.ハリソン役の太田光は、彼自身が『赤毛のアン』の大ファン。キャスト発表時のコメントとして、次のような言葉を記している。
「『赤毛のアン』は世界にとって最も重要な本だ。私はアンの生き方を見て、『天才』とは『たった今、幸せ』と言葉にして表現出来る人のことだと思い知った。私に『世界で一番重要なこと』を教えてくれたアン・シャーリーとこういう形で邂逅かいこうし、実際に会話出来る日が来るなんて、思ってもいなかった。これを幸せと言わずに、何を幸せと言えばいい? 神は天にあり、世はすべてよし。」

太田:あれは、まあ適当に言ったんですけど(笑)。私は、自分が書いた『笑って人類!』という小説の主人公にもアンと名付けるくらい、『赤毛のアン』が好きで。高校生のころ友達がいなくて、本を読みながら、それこそアンのように空想をしていると、だんだん楽しくなってくることを身を持って体験しました。アン・シャーリーは、どんなに悲劇的なことが起きても、最終的にそれを楽しんじゃうんですよ。例えば、ピクニックが雨で中止になったとしても、それを楽しみにしていた自分がいることで、「私にとってのピクニックの楽しさは、もう半分は済んでいる」みたいなことを言うんだよね。
僕が演じるハリソンが登場してアンと話をするのは、だいぶ後半になると思うんです。前のアニメ作品は『赤毛のアン』の部分しか描かれていなくて、今回はアンが大人になるまで描かれる予定で、アンの成長というのはアニメシリーズとしては、この作品でしか見られない。だから、これをきっかけに……、ぜひ受信料を払っていただいて(笑)。……払っていない方がいれば、ですよ(笑)。よろしくお願いいたします。

お笑い芸人らしく、太田は随所で話を笑いにつなげていたものの、自らの生き方や信念、幸福論を、アンのそれと比較しながら語る姿は真剣そのもの。その言葉に、アンのように想像力の翼を広げ、自分が生きている世界を楽しみ、ちゃんと向き合うことの大切さを思わずにはいられない。

ものの見方を少し変えることで、太田が言うように「これを幸せと言わずに、何を幸せと言えばいい?」という気持ちになれるのではないか。そう考えてみると、アニメ「アン・シャーリー」は、大人こそ楽しめるかもしれない。

放送は、Eテレで4月5日(土)から毎週土曜、午後6時25分から。NHKプラスで同時配信あり。再放送は、毎週木曜午後7時20分から。

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取材・文/銅本一谷

カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。