「クローズアップ現代+」の2月1日放送、「最新技術で老後は安心!?“デジタル介護”最前線」は見応えがあった。

高齢化が進む中で、介護のニーズは高まっている。介護の現場で働く方々の人手不足が表面化し、今後ますます深刻化するものと予想される。

番組では、見回りロボットや、ベッドに取り付けられたセンサーなどを通して、利用者の状態を把握することで人手不足を補う試みを紹介していた。デジタル機器を導入することで、より人間らしい、心と心が通い合う介護ができる可能性を指摘する一方で、現場に最新のテクノロジーを導入することの難しさ、課題も分析していた。

スタジオの部分では、MCをつとめる井上裕貴、保里小百合の両アナウンサーが、介護の問題に詳しいゲストの話を上手に引き出していた。

誰もが身近になりえる介護の問題。全体として、今の社会で関心の高いテーマについて、深く掘り下げた見応えのある番組となっていた。

「クローズアップ現代+」は、番組タイトルやMC、放送時間帯が変わりながらも、多くの視聴者にNHKの「顔」、「良心」として認知され続けている。初代キャスターの国谷裕子さんのころから、一つのテーマについて徹底的に取材、裏づけをし、課題を提示するジャーナリズム精神はずっと受け継がれている。

スタジオのゲストのコメントも、事前に制作側が精査し、検討したものであることが伝わってくる。当事者や専門家の自由かったつな意見が、取材、制作を行うディレクターの得た消息と相まって、きわめて濃い情報として結実している。

4月からは、番組タイトルが「クローズアップ現代」に戻り、午後7時30分からの放送になるとのこと。

新キャスターに桑子真帆アナウンサーが決定。大学時代にはチェコ語を専攻し、「ブラタモリ」「ニュースウオッチ9」「NHKニュースおはよう日本」などの番組を担当してきた桑子さん。その知的で個性的なお話によって、番組がどう生まれ変わるか、期待が膨らむ。

まさに、「新生の原点回帰」。最もNHKらしい番組の一つとして、ますますの充実が楽しみである。

誰もが気になってはいるけれど、その本質がわかりにくい現代社会のさまざまな課題について、徹底した取材に基づいた、鋭くそしてバランスの良い報道を期待したい。

日本の教育の課題や、貧困、孤独、外国人の方の生活、ジェンダーをめぐる問題、家族のあり方など、「クローズアップ現代」で取り上げられたらと思う課題はたくさんある。

徹底した取材を通してこそ照らし出されるこの世界の真実がある。この点において、NHKに対する視聴者の期待は高いのである。

(NHKウイークリーステラ 2022年3月4日号より)

1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。