大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の放送が始まった。
脚本は、「新選組!」「真田丸」とこれまで2つの“大河”を手がけてきた三谷幸喜さん。たくさんの人物が行き交い、コメディー精神あふれるドラマを生み出すことに定評がある。「鎌倉殿の13人」の初回は、そんな期待を裏切らない鮮烈な印象だった。
三谷ドラマは群像劇で、個性の響き合いにこそ魅力がある。
鎌倉幕府を開いた源頼朝を大泉洋さん、頼朝の死後幕府を支えた「13人の合議制」のメンバーとなる北条義時を小栗旬さんが演じる。
その他、北条時政を坂東彌十郎さん、北条宗時を片岡愛之助さん、北条政子を小池栄子さん、源義経を菅田将暉さん、八重を新垣結衣さん、後白河法皇を西田敏行さん、平清盛を松平健さん、藤原秀衡を田中泯さん、そして牧の方(りく)を宮沢りえさんが演じるなどの豪華キャストである。
権力を持ち、威厳のある年上の人物たちと、若くて元気な年下の人物たちのコントラストが面白い。若者たちは、今風のセリフでリズムよく語り合う。時代劇だからといって、古風な言葉遣いをする必要はない。イギリスのシェークスピア劇だって、現代風の演出は当たり前である。
自由闊達な三谷さんの脚本に加えて、「サラリーマンNEO」などに関わってきた吉田照幸さんらの演出陣の味付けもあって、俳優たちの生き生きとした生命感、はじけるような表情が印象的である。
時に逆光も大胆に使った照明や、短いカット割、室内と野外のシーンのコントラストなど、振り幅の大きい画面構成が、ドラマとしてのダイナミックレンジを高めていた。
これまで数々の舞台、ドラマ、映画を手がけてきた三谷さんの脚本はさすがである。伏線の張り方、一見無理難題な状況、三角関係含みの「縁」の設定など、人がその中でどう動くのか、どのようにコメディーが生まれるのか、群像劇を知り尽くした人ならではの仕掛けが随所に見られる。
一方で、喜劇的な雰囲気が一瞬にして悲劇になるなど、現代とは異なる「リアル」が人の世を支配していた当時のありのままを、きちんと現代に伝える意図が脚本と演出から感じられた。
主役から脇役まで、すべての登場人物にあまねく光が当たっているように見えたのも、群像劇としてのこれからの豊かな響きへの期待を高める。
実権が貴族から武士へと移っていく、その時代の大きなうねりを「鎌倉殿の13人」がどのように描いていくのか、毎週日曜日が楽しみである。代表作『12人の優しい日本人』でも見せた三谷さんの、個性を響き合わせる技術がこれから冴え渡るだろう。
戦国の世の物語はどうしても男性である武士に焦点が当たりがちだが、「鎌倉殿の13人」には、北条政子という歴史上も極めて重要な女性の登場人物がいる。
小池栄子さんの演技に注目すると同時に、今回の大河は、ナレーションをつとめる長澤まさみさんの存在感も含めて、群像劇という心のシンフォニーにおける男女を超えた響き合いに期待したい。
(NHKウイークリーステラ 2022年2月4日号より)
1962年、東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究。文芸評論、美術評論などにも取り組む。NHKでは、〈プロフェッショナル 仕事の流儀〉キャスターほか、多くの番組に出演。