アニメ「青のオーケストラ」で、海幕高校の1年生ヴァイオリニスト・小桜ハルの声を担当している声優の佐藤未奈子。ハルと性格や考え方が似ているという佐藤は、アフレコ現場ではハルが登場していない場面もスタジオ内で先輩たちの演技を見学。それを自分のものにしようと研鑽を重ねている。彼女と秋音律子役・加隈亜衣の対談は、前編後編にわたって掲載したが、そこで紹介しきれなかった内容を、今回、単独コメントとして紹介。物語の中で描かれているハルの青野に対する思いや、佐藤自身の“青の時代”について話を聞いた。


子どものころの青野くんは、原田先輩っぽいかも

――ハルちゃんは小学2年生のときの音楽コンクールで青野くんに声をかけてもらってから、一途に青野くんのことを思い続けていますよね?

佐藤 そうですね。子どものころに出会ってから、ずっと意識していて、海幕高校でまさかの再会をしてからは、もう「好き」なんだと思います。ハルちゃんは転校する前は青野くんと同じ中学校に通っていて、そこは原作でも描かれていないのですが、たぶん話しかけられずに遠くから見ている感じだったのかな、と自分なりに想像していました。あの、子ども時代の青野くんは、優しくて気配りができる、原田先輩っぽいところがありますよね。そんなところに、ハルちゃんは惹かれたのかもしれません。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

――でも青野くんは、なかなか当時のことを思い出してくれなくて、「それ、ちょっとどうなの?」とも思ってしまいますが。

佐藤 そうなんですよ。アニメを見ると、特にそう感じてしまいます(笑)。毎回、オンエアを見ているときは、私はハルちゃんにすごく感情移入しているので、オーケストラ部の仮入部期間に、青野くんがハルちゃんの演奏を初めて聴いたかのように「この子、結構うまいな」と言っているのを見て、「えっ!? 会っているのに!」と思ったり。山田くんに対して「せっかく知り合いのいない高校を選んだのに」と思う場面でも、「ハルがいるからね!」と思ったり(笑)。

――そんなハルちゃんの青野くんへの変わらない思いや、自分の気持ちをうまく言葉にできない感じも描かれていますよね。青野くんと一緒に、浴衣を着て花火大会に行くことを「妄想」するハルちゃんも可愛かったし。

ⓒ阿久井真/小学館/NHK・NEP・日本アニメーション

佐藤 可愛かったですね。もう、青春!っていう感じで。夏休みにみんなでお祭りに行くのって、学生時代の中でも大きな青春のイベントというか、私もそういう経験をしたかったけれど残念ながら機会がなかったので、原作を読んでいるときから「いいなぁ」と思っていました。ハルちゃんは青野くんに対してまっすぐで、ヴァイオリンも一生懸命にやっていて、考えていることが表情や行動に現れたりするところが、とっても可愛いですね。
原作のおまけ漫画の中に、くせ毛を気にしているハルちゃんが山田くんの髪の毛が気になって「パーマ?」「それとも天然!?」って質問するシーンがあるのですが、天然とわかった瞬間にすごくうれしそうな顔になるハルちゃんがめちゃくちゃ可愛くて、大好きなエピソードです。

――ハルちゃん以外で、佐藤さんが魅力的だと感じているキャラクターは?

佐藤 オーケストラ部の部長である、立石真理ちゃんは、もしも私がオケ部の部員だったとしたら、絶対に憧れるような先輩だと思います。見た目も可愛いし、みんなを引っ張っていくリーダー。あの人数(部員数200人以上)をまとめあげる部長って本当にすごいなと思うんですよ。鮎川先生が厳しいこともあるのですが、立石部長と原田先輩はそんなにガツガツ厳しいわけじゃないのに、しっかりと部員たちをまとめあげているところは「人生、何周目なんだろう? 本当に高校生?」と思うくらい。すごく、しっかりしていますよね。

NABE「『青のオーケストラ』“イッキ見”を出演者と同時視聴の会」より

とても幸せな場所にいるありがたさを感じています

――今回、佐藤さんは「青のオーケストラ」という作品に参加されたことで、声優としてのイベント出演など、いろんな「初」を体験されていますね。

佐藤 そうですね。「NHK超フェス」も「N響×青のオーケストラ コンサート」もイッキ見放送と同時生配信の「NABE」も、全てが初めての経験で、ものすごく緊張しながら出演させていただきました。特に「N響×青のオーケストラ コンサート」はめちゃくちゃ緊張していました。
会場に来ていただいたお客様にも、放送をご覧いただく視聴者の皆様にも、作品とハルちゃんの魅力をお伝えしなくちゃいけないから、プレッシャーが大きくて。お話しするべき内容をスマホのメモに書き出して、それを丸暗記して挑みました(笑)。

――N響の演奏を間近で聴きつつ、出演もして、でしたからね。

佐藤 N響さんのすばらしい演奏に、圧倒されましたね。今までステージ正面の客席で演奏を聴いたことはあったのですが、今回はステージの真横にあるバルコニー席で聴かせていただいて、演奏者の方々のすぐ近くにいられたことも感動的でした。そういう機会は多分この先ないことだと思いますし、ハルちゃんを演じている身からすると、ものすごく大きなものを得られたように感じました。

いちばん感動したのは、やっぱりパッヘルベルの「カノン」。東亮汰さんのヴァイオリン・ソロから始まっていたことで、第2話の青野くんが夕暮れの河川敷で弾いていたシーンを思い出しましたし、今まで悪い意味でヴァイオリンにとらわれていた青野くんが「カノン」を弾いて人生の扉を開けていく感じが、その音色からすごく伝わってきて、本当に泣きそうになりました。

――ところで佐藤さんのSNSで、ハルちゃんの演奏を担当されているヴァイオリニストの小川恭子さんとのツーショットが公開されていたのですが、それはプライベートでお会いになったのですか?

佐藤 そうなんです。ずっとお目にかかることができなかったのですが、私と加隈さんと、海幕高校のアンサンブルの演奏を担当されている方たちとで食事に行く機会があって、そのときに「小川さんと会ったことはありますか?」と聞いてみたんですね。そうしたら「私たちは会ったことはないけれど、共通の知り合いがいるから、コンタクトを取ってみましょうか?」と言ってくださったんです。それが縁で連絡先をお聞きして、「お茶しませんか?」という話になりました。
「NHK超フェス」に小川さんは参加されなかったので、私だけ「一緒に役を作る演奏家」の方に会えなかったのですが、小川さんと2人で「仕事の場だとバタバタしていて深く話ができないから、逆にこうしてプライベートでいっぱい話せてよかったですね」みたいな話もしました。

小川恭子さん(左)と【写真提供:佐藤未奈子】

――そこでハルちゃんの話も?

佐藤 しました。話をお聞きすると、小川さんも自分からガツガツいけるタイプではなかったみたいで、私もそうだけど、ハルちゃんと重なりますね、とか。あと話を聞いていてすごくおもしろかったのが、「ヴァイオリンの音は弾く人によって全く違う音になるから、会ったことがない人でも演奏を聞くと、だいたい性格がわかる」ということ。「ええっ?」と驚きました。ハルちゃんが佐伯くんに「フォルテ、苦手でしょ?」と言われていたから、その話を聞いてみたのですが、小川さんによれば、精神的に落ち込んでいる人の音はそういうふうに聴こえる気がする、と。演奏から、その人の人となりやメンタルがわかってしまうとおっしゃっていましたね。そういうお話を聞けたことも、ハルちゃんを演じるときの参考にさせていただきました。

――さて、最後になりますが、作品タイトルの「青のオーケストラ」の「青の」には、いわゆる“青の時代”に通じるところもあると思うのですが、佐藤さんにとっての“青の時代”は?

佐藤 これは、加隈さんの答えと同じになってしまうのですが、私にとっての“青の時代”は、まさに現在進行形で、「青のオーケストラ」での日々もそうなんですよ。お芝居に対して、もっと頑張りたいとか、どうやったらもっと上手くなるんだろうとか、毎日悩みながら生きているので。例えば、第14話に佐伯くんの演奏を横で聴いたハルちゃんがすごく落ち込んでしまうシーンがあるのですが、すごく自分と重なるところがあって。声優としてお芝居をしていると、先輩たちの凄まじい演技を目の当たりにして、もっと頑張らなきゃいけないと思わされてしまう。だから第14話の台本をいただいたときには、「うわぁ、ハルちゃんの気持ち、わかるなぁ」と思って、グッときましたね。

ずっとなりたかった声優という仕事に就くことになって、今、その現場に出られるようになって、でも先輩たちのお芝居に毎回衝撃を受けて。自分に足りないものは何かをずっと考えながら、すごく難しいけれど、それでも楽しい。誰もができることじゃないから、すごく幸せな場所にいさせてもらっているありがたさを感じています。だから「今」が私にとっての青春、“青の時代”だと思っています。

佐藤未奈子(さとう・みなこ)
10月22日生まれ、埼玉県出身。声優養成所を卒業した後に、ナレーターとしての活動を開始。2020年に放送された「地縛少年花子くん」の赤根葵役で、アニメ声優デビューを果たした。そのほかの出演は、2021年の「ゆるキャン△SEASON2」巫女役ほか。

取材・文・撮影/銅本一谷

☆アニメ「青のオーケストラ」は、以下の放送が休止になります。
8月20日(日曜)/【再放送】8月24日(木曜)
☆放送再開は、8月27日(日曜)の予定。