アニメ「青のオーケストラ」で、一度はヴァイオリンを手離していた主人公の青野一に、再び楽器と向き合うきっかけを作った、ヴァイオリン初心者の秋音律子。青野と一緒に海幕高校オーケストラ部に入部して成長していく律子を、声優の加隈亜衣は、ときにパワフルに、ときにナイーブに、色彩感に満ちた声の演技で魅惑的に表現している。彼女と小桜ハル役・佐藤未奈子との対談は、前編・後編にわたって掲載したが、そこで紹介しきれなかった内容を、今回、単独コメントとして紹介。「青のオーケストラ」に出演して経験した出来事や、加隈自身の“青の時代”について話を聞いた。
息遣いひとつも、気をつけるように
――改めてになりますが、加隈さんが感じている「青のオーケストラ」という作品の魅力は、どんなところにありますか?
加隈 青野の過去とか対人関係の悩みとか、重い部分もあるのですが、キャラクターたちが夢に向かって切磋琢磨している姿から、とても勇気がもらえるところが魅力ですね。私自身も部活動の経験はありますが、個人での動きが多かったので、青野たちのように仲間と一緒に音楽に打ち込む姿に憧れを感じます。
――これまで加隈さんは、たくさんの作品に出演されていますが、クラシック音楽をテーマにした作品は初めてですか?
加隈 音楽作品だと、「四月は君の嘘」(ピアニストの少年とヴァイオリニストの少女の姿を描いた物語)というアニメに出演させていただいたことがあります。でも、モブ(主要キャラクター以外の、群衆シーンで登場するキャラクター)で、1回だけという感じだったので、メイン格としては「青のオーケストラ」が初めてですね。
――Eテレでの「青オケ」放送も、リアルタイムでご覧になっているとか。
加隈 できるかぎり、ではあるのですが。日曜日の夕方帯は、(出演している作品に関係した)イベントが開催されたりその他のお仕事がはいっていることもあるんです。でも、ありがたいことに週2回放送されているので、どちらかは合わせやすかったりするし、NHKプラスの見逃し配信や各配信サイトでも見られるので、すごく助かっています。ただ、今悩んでいるのが、いいスピーカーを買おうかなということで......。
――スピーカー? あ、演奏される曲をいい音質で聴きたいということですか。
加隈 すてきな演奏シーンはもちろんなのですが、この作品の特徴として、本当に細かいところまで音のニュアンスが描写されていると思います。例えば、私たち声優の息遣いをすごく拾ってくださっていて、「ここは切られるかもしれないな」という、セリフとセリフの間の息とかも残されているんです。その場面における表現のニュアンスにつながるところまで活かしてくださるので、私たちもアフレコで気を抜けないし、それくらい「音」を楽しんでもらえる作品になっていると思います。実際に、いいスピーカーで聴いたら、自分の演技に「うわーっ!」ってなっちゃうかもしれないですけれど(笑)。
全力を尽くせる現場にいられる今が“青の時代”なのかも
――「青のオーケストラ」放送前から、共演のみなさんと一緒に、作品のモデル校である千葉県立幕張総合高校のシンフォニックオーケストラ部の演奏会に足を運ばれたりして、とても仲良くされていますね。
加隈 コロナをきっかけに分散収録が続いていますが、掛け合いが多い青野と律子とハルと佐伯は一緒にしていただくことが多くて、収録後タイミングが合えば、そのままご飯に行ったりしていますね。収録がない日に予定を合わせてというのは、幕張総合高校の演奏会が初めてでした。
――千葉翔也さん、土屋神葉さん、佐藤未奈子さんと演奏会をご覧になったことは、役作りのうえで参考になりましたか?
加隈 普段の制服とは違う特別な衣装で演奏される姿や、あの場でしか味わえないような空気感、演奏会が始まる前の会場のざわつきとか、始まったときにだんだん大きくなる拍手。そういったものに触れられたことは、私の中でとても大きかったですね。オーケストラ部の部員たちの緊張感もそうだし、司会がOGの方で、そこにもまた一つの物語を感じました。ステージのひとつひとつにみんなの思いが詰まっていたし、私は目にしてはいないけれど、練習期間と受験勉強が重なっていたことを思うと、凄まじい努力と苦労があったはずなんです。それを考えるだけで涙があふれてきました。すべての想いがこもったすごい熱量だな、と。千葉くん、土屋くん、未奈子ちゃんとその時間を共有できたことは大切な共通認識につながったと思います。
――貴重な経験をされましたね。「NHK超フェス」の演奏会もそうだったと思うのですが。
加隈 東亮汰さん、尾張拓登さん、そして律子の演奏を担当されている山田友里恵さんの演奏を目の前で聴かせていただいて、何というか、めちゃくちゃ得でした(笑)。プロのみなさんの演奏って、すごすぎて、言葉で語るほど陳腐になるというか、「すごい」しか言えなくて。もう、息を吸う音まで聴こえるんですよ。本当に「人」が演奏しているんだなと実感したし、絶妙な力加減や音の一体感で伝わってくる思いとか......。私たちがライブ・イベントで歌わせていただくときには「クリック」というものがあって、それにみんなで合わせるのですが、それがないんですよね。「超フェス」のときは弦楽アンサンブルで指揮者の方もいなかったので、どうやって演奏を合わせているのか分からなくて。帰り道で、山田さんに「どうやって演奏を合わせているんですか?」ってお聞きしたのですが、「なぜか合うんですよね」と(笑)。きっと、その業界の、弾き続けてきた方たちの独特の空気感、言葉で説明できない音の感覚を身につけていらっしゃるんだろうなと思いました。おそらくは青野はその感覚を持てるのだろうし、いつかは律子も、と感じたので、そういうところも落とし込めるタイミングがあったらいいなぁ、なんて思っています。
――ちなみに、海幕高校の1年生ヴァイオリニストたち以外に、加隈さんが気になっているキャラクターは?
加隈 いつか見てみたいと思っているのが、青野ママとお父さんの馴れ初め(笑)。いったい、どうやって恋が始まったの?と気になっています。あの青野ママの性格が、めっちゃ理想的というか、すごくいい人じゃないですか。まあ、イケイケな感じの男性に惹かれるのは分からなくもないんですけど、どんなきっかけがあってスタートしたのか、ずっと気になっていますね。
オケ部の先輩だと、羽鳥先輩は絶妙なバランスでみんなをサポートしてくれてたりするので、どうしても気になっちゃいます。本音はどこにあるんだろうとか、でも、ちょいちょい垣間見える素の感じとか。「ちょっとチャラそう、苦手かも」って思わせておいて、「めっちゃ、いいやつじゃん」ってひっくり返してくれる。その「惚れさせてくれる感じ」がずるいな、と思いながら見ています。
あと、原田先輩も、いいですよね、あの汗(笑)。本当に「青オケ」には「人たらし」が多いですよね。
――最後になりますが、作品タイトルの「青のオーケストラ」の「青の」には、いわゆる“青の時代”に通じるところもあると思うのですが、加隈さんにとっての“青の時代”は? やはり高校時代の、放送部のころでしょうか。
加隈 そうですねぇ、うーん......。私にとっては、学生時代よりも「今」かもしれません。アニメのお仕事にはいろいろなパートがあって、私は声の部門を担当させていただいているのですが、その声の部門にもそれぞれの役割があって、しかも、作品の話数ごとに役割が変わっていったりすることもあるんです。そんな中で「自分は、きょう、どうやって全力を尽くそうか」と考えたり、そこで刺激をもらったりしているのは、改めて振り返ってみると「今が青春なのかも」って思うことがあります。
やっているときには「ああ、これ何でできなかったんだ」とか、もう収録が終わって反省してばっかりなんですけれど、オンエアを見て「こういう出来上がりになるのか。すごい人たちの集まりの中に参加できていたんだな。やっぱり、もっともっと返したかったなぁ」と思うと、終わりがなくて。海幕高校のオケ部だったら3年生で終わりで、自分たちの終わりはそのクールの最終話で、それぞれ違いはあるのですが、「いいものを作りたい」って思いながら全力を尽くせる現場にいられて、そこで悩みながらも前に進もうとしているのは、ある意味、“青の時代”と言えるかもしれないと思います。
加隈亜衣(かくま・あい)
9月9日生まれ、福岡県出身。2011年に声優としての活動を開始し、2013年の「selector infected WIXOSS」主人公・小湊るう子役などで人気を集める。近年の代表作は「無職転生〜異世界行ったら本気だす〜」エリス役、「ちみも」鬼神はづき役、「ひろがるスカイ!プリキュア」虹ヶ丘ましろ/キュアプリズム役ほか。NHK では、「アニ×パラ〜あなたのヒーローは誰ですか〜 パラカヌー編」鶴見希衣役など。
取材・文/銅本一谷
「青のオーケストラ」
毎週日曜 Eテレ 午後5:00~5:25
再放送 毎週木曜 Eテレ 午後7:20~7:45
※放送予定は変更になる場合があります。
【番組HP】https://www.nhk.jp/p/ts/3LMR2P87LQ/
☆8月のアニメ「青のオーケストラ」は、以下の放送が休止になります。
8月6日(日曜)/【再放送】8月10日(木曜)
8月13日(日曜)/【再放送】8月17日(木曜)
8月20日(日曜)/【再放送】8月24日(木曜)
☆放送再開は、8月27日(日曜)の予定。