いやぁ、めちゃくちゃいいものを見せてもらった!!!
何て言うんだろう、「求めていたものがちゃんと現実になって、そこにある」感じ? 今回の劇中に「『くるみ割り人形』はクリスマスの物語」という説明があったけれど、朝目覚めたら枕元に希望していたプレゼントが置かれていた、みたいな。
何もかもが、特別な定期演奏会。だって今回は、オープニングテーマ曲もエンディングテーマ曲も登場しなかったんですよ! アイキャッチと次回タイトルの表示を除いた、ほぼ25分間全てが演奏会の描写。まるで海幕高校シンフォニックオーケストラ部の定期演奏会に足を運んで、ステージから届けられる音楽を客席で聴いているかのような。なんて贅沢な25分間!
しかも、たたみかけるような演出と、実写では絶対にありえない、ぐるぐる回るカメラワーク。アニメだからこそできる映像表現とスピード感ですね。
おかげで、見ると体感5分くらい。あっという間に時間が過ぎて「え、もう終わり!?」感が半端なかったです。ブラボー!!! 立ち上がって拍手したくなっちゃった。(←待て、まだ演奏会は前半だ
演奏された楽曲(プログラム紹介のような字幕表記が出ていました!)は、りっちゃんが参加したビゼーの歌劇「カルメン」より〈前奏曲〉、ハルちゃんが登場するチャイコフスキーの「くるみ割り人形」組曲より〈小序曲〉と〈花のワルツ〉、コンサートマスターの原田先輩がソロを担当するヴィヴァルディの「四季」より〈春〉と〈夏〉。
私は、以前のレビュー記事の中で「これまでのドラマが、定期演奏会の演奏に収斂していく」という表現を使ったのだけれど、原作未読で今回の第23話をご覧いただいた方には、それも理解していただけたはず。そう、こういうことなんですよ!
例えば第2話「秋音律子」で、夕暮れの河川敷で青野くんの弾く「カノン」があれだけ感動的に響いたのは、それまでに時間をかけて、青野くんが抱える葛藤が描かれていたから。そして、あの当時のりっちゃんの思いもまた、この定期演奏会の演奏に……。
いろいろ語る前に、第23話「定期演奏会」のあらすじを紹介しましょう。実際、今回のあらすじ(定期演奏会の前半、で済んじゃいますけど。笑)を紹介することが必要なのかな、とも思うけれども、一応ね。
定期演奏会は、ビゼーの「カルメン」前奏曲で幕を開けた。オーケストラ部に入部して本格的な演奏を始めた律子(声:加隈亜衣)にとって、人前での演奏は、それまで知らなかった世界への挑戦だ。中学時代に同級生と対立し、保健室登校をしていたころ。武田先生(声:金子隼人)から借りた、ヴァイオリンとの出会い。律子は自分の姿を「カルメン」の物語に重ね、そのときの感情を音に乗せていく。
ハル(声:佐藤未奈子)の出番は、チャイコフスキーの組曲「くるみ割り人形」だ。〈小序曲〉を弾きながら思い出す、子ども時代。〈花のワルツ〉の演奏では、3年生の町井(声:安済知佳)との心の交流で受け取った「想い」を、色鮮やかに描き出した。
そして、コンマスの原田(声:榎木淳弥)やチェロの高橋(声:青木瑠璃子)ら3年生が中心の弦楽アンサンブルによる、ヴィヴァルディの「四季」より〈春〉と〈夏〉。舞台袖で青野(声:千葉翔也)と佐伯(声:土屋神葉)が、演奏がよく見える場所を確保しようと陣地争いをする中、原田たちの圧倒的な演奏が始まる。
いや、もう圧巻ですね。名場面の連続でしょ、これ。途中で何度も目から滝のような「汗」が落ちてきたもの。何この、圧倒的なクライマックス感。しかも、まだ演奏会のメインプログラムが残っているとは。次回、さらに期待しちゃうじゃないかぁぁぁ!
だいたい、思春期の心情を丁寧に描く物語(しかも音楽ものだ!)のラスト前って、話の展開のさせ方が難しいと思うんですよね。これがバトルものなら、「主人公、絶体絶命のピンチ!」とか「ラスボスの正体は?」とかで「引き」を作ることができるし、恋愛ものなら、カップルの気持ちが決定的にすれ違うような一大事が起きて、「最後に別れる?」的な雰囲気を漂わせて次週に持っていけると思うのだけれど。この「青オケ」は形だけ見れば、演奏会の前半と後半、だよね。もちろん原作の中に、濃密な物語が描き込まれているとはいえ、それをきちんと映像化するのは大変だと思うんだ。
例えば、りっちゃんは、カルメンの姿に自分を重ねて、曲を解釈しようとした。
彼女は「青のオーケストラ」の物語が始まった時点で、同級生から受けていた「いじめ」を「過去の出来事」にしていたけれど、そのときに体験した出来事は、簡単に忘れられるものではない。カルメンは牢屋に送られる寸前に逃げ出したけれど、保健室のベッドで布団をかぶって丸くなり、涙していたりっちゃんにとって、保健室は牢屋も同然で。それでも武田先生に支えられて、海幕高校に進学してオーケストラ部に入る未来を考えていた日々。オケ部に入ってからは、周囲の音を聴くことで、自分が決して一人ではないことを自覚するようになって……。
そんな思い出が、りっちゃんが奏でるヴァイオリンの音、「カルメン」の戦いに赴く闘牛士たちの行進曲の旋律とともに甦り、今はもう前だけを見ているりっちゃんの「決意」が、力強い演奏を通して客席にいる武田先生に確かに伝わります。
…見ててね、先生。私…、走り続けるから。
演奏を終えた後に、りっちゃんが見せる笑顔ときたら。
最高ですね。
「カルメン」前奏曲って、めちゃくちゃ短くて2分ちょっとしかないんですよね。その演奏時間内に、前述したりっちゃんの歩みがきちんと描かれていて、お見事。
ただ唯一の不満は……、短いこと。もっともっと、聴いていたいのよ。りっちゃん、次回は長い時間演奏していられる曲のオーディションに合格するんだっ!
続いてはハルちゃんが「くるみ割り人形」演奏のために、ステージへ。そのとき、隣の席に座ったのは青野くん! 第7話「小桜ハル」で描かれていた小学2年生のときのコンクールのエピソードも、ちょっとだけ登場していたから、あのとき青野くんと交わした「いつか一緒に弾けたらいいね」という約束が(約束したコンクールの入賞者発表会ではなかったけれど)、形を変えて実現したわけですね! 青野くんが、いまだに当時のことを思い出してないことには、個人的に大ブーイングだけど。
その演奏を客席で聴きながら、泣き虫だった子ども時代のことを思い出して、涙を拭うハルちゃんのお母さん。うわぁ、この演出、反則でしょ。もらい泣きするに決まってるやん!
そして〈花のワルツ〉で語られていく、町井先輩との“木漏れ日の下の内緒話”の思い出。第14話「歩み寄る」で、町井先輩は青野くんにヴァイオリン以外の楽器の音にも耳を傾けることの大事さを教えてくれた、男前な(という形容はどうかと思うけど)先輩。透明で、優しくて、でもどこか力強い音色を響かせる彼女は、ハルちゃんにとって憧れの人物でした。
昼下がりの校庭のベンチで、お互いの愛読書を貸し借りしながら交わした会話。後輩を見守る町井先輩にかけられた「いつかきっと、花開くよ」「見られるといいなあ。小桜さんの花のワルツ」という言葉を胸に刻んで、受け取った「想い」を演奏の中に花咲かせていきます。これね、比喩じゃなくて、本当に画面いっぱいに花が咲き誇っていくんですよ!
この一連のシーンは、阿久井真先生の原作の中でも、ハルちゃんの見せ場としては屈指の名場面。
このくだりは、本っ当によくて、原作を何度読んでも心が躍ります。だから、アニメではどんなふうに描かれるのかと期待していたら。
凄かった! としか。
一瞬吹いた風が、桜の花びらとともにハルちゃんの髪をかき上げるカットは、まるでジブリ映画のようでした。こんな描写が出来るのなら、劇場版「青のオーケストラ」も、余裕でいけますね。(←また、むちゃ言ってます
ハルちゃん役の声優・佐藤未奈子さんにとって、経験の浅い新人さんには大きな負担がかかるモノローグの量だったと思うけれど、がんばっていることがすごく伝わってきて。よかった! これで、全国にハルちゃん&佐藤さん推しが増えたに違いない。
ハルちゃんが町井先輩から受け取った「想い」の花びらは、客席にいた中学3年生の女の子にも届きました。彼女の「私、来年、この学校のオケ部に入る!」宣言は、新しい芽吹きそのもの。前回、原田先輩が「その受け取ったものを…、また…、別の誰かに渡したいと、そう思ってくれたら嬉しいです」と言っていたことが、ここで実現したわけですね!
さらに続くのが、コンマスの原田によるヴァイオリン独奏、3年生の弦パートの奏者たちのアンサンブルで奏でられる、ヴィヴァルディの「四季」より〈春〉と〈夏〉。ここには、原田と高橋翼先輩の、高校1年生のころからの交流が織り込まれていきます。
ようやく、翼先輩の「お当番回」キターーーーーー!!! 本当に、ようやくだよ(涙)。チェロ奏者である彼女は、これまで何度も登場していたけれど、誰かがメインになった回の相手役を務めていることが多くて、彼女自身についてはあまり語られていなかったんですよね。実は、彼女もまた、すっごく魅力的で個性あふれる人で。チェロのパートリーダーだから、山田くんの直属の先輩であって、原作では、定期演奏会後に山田くんの悩みを聞いてあげたりする描写もあります。
そんな彼女の視点から描かれる、原田との関係性。性格や考え方、好きなものが正反対で、出会ったときは「水と油」だと感じていたものが、時を重ねるにつれて「雲と雷」に変化していきます。
その「雲と雷」は、「四季」の第3楽章〈夏〉からイメージされた、ヴィヴァルディの故郷・イタリアの過酷な夏の嵐。練習時に議論を交わして、原田のヴァイオリン独奏が雷で、チェロをはじめとする弦楽器の伴奏が雲、という曲の解釈を共有していました。
そして演奏の中で、原田が放った青い閃光。
もうね、これは百聞は一見に如かずだから、配信公開されている【聴きドコロ♪「四季」より<夏>(アニメ「青のオーケストラ」公式YouTubeチャンネル)】をご覧いただいて、演奏を堪能してくださいませ。
「青のオーケストラ」NHK公式ページでは、聴きドコロ♪のほか、「5分で楽しいクラシック」なども視聴できます!
原田の演奏を担当しているマリア・ドゥエニャスさんは、世界的を舞台に大活躍している気鋭のヴァイオリニストであり、すばらしい演奏なのは当然なんだけど、アニメのエンド・クレジットには名前が出ていない演奏者たちが、とんでもなく豪華な顔ぶれで。
ヴァイオリンの関朋岳さん(羽鳥葉の演奏を担当)は、先月行われたバルトーク国際コンクール2023で第2位と2つの特別賞を受賞。村尾隆人さんは、NHK交響楽団の第1ヴァイオリン奏者。戸澤采紀さんは、15歳で日本音楽コンクールの第1位に輝いていて。そのほか、ヴァイオリンの竹内鴻史郎さん、福田麻子さん、落合真子さん、山本大心さん、有働里音さん、ヴィオラの有賀叶さん、森野開さん、チェロの菅井瑛斗さん、泉優志さん、コントラバスの長坂美玖さんという、国内外でのコンクールで入賞経験のある方がずらりと揃っています。なんだ、これ。スーパーなアンサンブルじゃん。このメンバーが出演するリサイタルがあったら、大きなホールでもチケット争奪戦になること必至ですよ。ああ、アニメって、すごい!
アニメのセリフで誰がどんなことを言っていたかを頭に残しながら、この演奏を聴くと、より味わい深いものがあるはず。「青オケ」はそのシーンで使われている音楽を聴きながら原作漫画を読むとより感動的、という話はよくされているけれど、逆もまたしかり、ですね。
この〈夏〉の演奏終了後、翼先輩が原田に背を向けて、小さな声で呟いた言葉は。
かっこよかったよ。
あっ、これ、フラグ立った!? この2人の「これから」にも期待しちゃうじゃないか……。
次週、いよいよ最終回。本当に? 本当に終わっちゃうの? まだ心の準備が出来てないんですけど! その10月8日放送の第24話「新世界より」のあらすじは、このような流れ。
故郷のチェコを離れてアメリカ大陸へと渡ったドヴォルザークが作曲した、交響曲第9番「新世界より」。海幕高校のオーケストラ部の部員たちは、それぞれの演奏の中に、それぞれの“新世界”を思い描いていた。ドイツで生まれ育った佐伯にとっては、日本こそが新世界。人と音を重ねて表現していく難しさと喜びを、高校入学後に初めて知った青野にとっては、オーケストラこそ新世界だ。全員の音が一体となって、オーケストラ部の新世界への旅が始まった。
心の中の葛藤に正面から向き合った青野くんと佐伯直が、一緒に演奏する「新世界より」。舞台袖からステージに向かう青野くんの「行くぞ」、佐伯の「…うん!」に、万感の思いが込められていますね。
ああ、このカットを見ただけで泣ける。最終回、もう感動しかないんだろうな……。
この2人だけじゃなくて、ヴィオラの木村先輩の思いとか、原田がコンマスとして羽鳥に託したものとか、ほかにもいろいろなエピソードが描かれるはず。そんな各人の、それぞれの思いがひとつになって奏でられる、オーケストラの演奏。阿久井先生のインタビューでも紹介している通り、原作漫画だけじゃない、でも原作者が作り上げたオリジナル描写も登場します。あー、どんなふうになるんだろう? なんか、ワクワクが止まらない。
今さら言うのもなんだけど、最終回も必見ですね!
本当に、最後の一瞬まで目を離さないでほしいと思うんだ……。大事なことだから、もう1度言います。
最後の一瞬まで目を離さないでください!!!
▼第23話「定期演奏会」の、再放送・見逃し配信はこちら▼
【再放送】Eテレ 10/5(木曜)午後7:20~7:45
【NHKプラス見逃し配信】10/8(日曜)午後5:25 まで
カツオ(一本釣り)漁師、長距離航路貨客船の料理人見習い、スキー・インストラクター、脚本家アシスタントとして働いた経験を持つ、元雑誌編集者。番組情報誌『NHKウイークリー ステラ』に長年かかわり、編集・インタビュー・撮影を担当した。趣味は、ライトノベルや漫画を読むこと、アニメ鑑賞。中学・高校時代は吹奏楽部のアルトサックス吹きで、スマホの中にはアニソンがいっぱい。
☆これまでの感想記事は、ここに(https://steranet.jp/list/category/stera_aniken )。